ビスポーク(オーダースーツ)

見た目を左右するオーダースーツ10の「ディテール」【サラリーマンのためのオーダースーツ講座05】

投稿日:平成27年(2015) 4月5日  更新日:平成30年(2018) 10月14日 

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スーツの見た目を左右するポイントは大きくわけて3つ。それは、生地、サイズ、ディテールにあると思います。前回までに生地を扱いましたので、今回はディテールを考えてみることにします。

自分好みのディテールを選べることは、オーダースーツの大きなメリットの一つです。もちろん、スーツのディテールは沢山有り、一度に全て紹介することは難しいのですが、今回はとりわけスーツの印象を左右しやすいディテールに絞って、考えていきたいとおもいます。

なお、前回まで、「おさらい! オーダースーツ用語」として「生地編」をお送りしましたが、既存の記事で出てこない部分が多くなり、どこが「おさらい」なのかよく分からなくなってきたので、タイトルを変更致しました……。

『サラリーマンのためのオーダースーツ講座』一覧

第1回:いま、オーダースーツとテーラーがアツい!
第2回:フル/イージー/パターンオーダーって何?
第3回:おさらい! オーダースーツ用語「生地編」前編
第4回:おさらい! オーダースーツ用語「生地編」後編
第5回:見た目を左右するオーダースーツ10の「ディテール」【今回】
第6回:着用者が注目すべき「サイズ感」7つのポイント
第7回:手縫いと機械縫いの違いとメリデメを考える
第8回:スーツのオーダー、10の失敗から学ぶ)

 

 

凡例

見出し下部のアルファベットは、各オーダー方法の略称で、記号はディテールのカスタマイズがそのオーダー方法で対応しているかを表しています。

  • FO:フルオーダー、EO:イージーオーダー、PO:パターンオーダー
  • ○:通常対応している、△:一部対応することがある、×:一般的に対応できない

但し、最近はEOとPOの境界が曖昧なこと、EOであっても縫製工場の方針でカスタマイズできる場所が少ない場合なども有り、実施可能かはオーダー前に店舗へ確認してみて下さい。

 

1.ボタン

FO:○、EO:○、PO:○

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オーダースーツであれば、殆ど対応しているのがボタンの変更です。安い物やカジュアルなデザインにはプラスチックやカゼインで作られた物が多いですが、ビジネス向けにはやはり水牛が高級感がありお薦めです。また、夏用のスーツには、貝ボタンという手も有り、こちらはかなり清涼感が出ます

また、ボタンは完成後に自分でもカスタマイズできます。ユザワヤなどでボタンを買ってきて、既存の物と付け替えることで、簡単に雰囲気を変えることができます。特にプラスチック(カゼイン)ボタン → 水牛ボタンの取り替えは、かなり効果的です。

参考記事:ジャケット・スーツのボタンについて考える

 

 

2.ボタン位置(衿の返り位置)

FO:○、EO:○、PO:×

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右は一般的なスーツですが、左のスーツは衿の返り位置をかなり高くしました。

折り返しの位置が高いと、クラシカルなかっちりとした印象になり、視線が上がるため小柄な方に合う一方、Vゾーンが狭くなるため顔が大きな人には不向きとされています。逆に、位置を下げることで、リラックスした印象を出すことが出来ます。

イージーオーダーやフルオーダーでは、第一ボタンの位置を上げることで対応できます。ただし、第一ボタンと第二ボタンが離れすぎると違和感が出るため、三つボタン(または左側写真と同じ三つボタン段返り)の選択も視野に、店員とよく相談しながら動かすことをお薦めします。

 

 

3.ポケット

FO:○、EO:○、PO:×

ポケットはスーツ上着/ジャケットの広い面積を占め、その表情に大きな影響を及ぼします。ということで、オーダースーツ/ジャケットで用いられる、代表的なディテールを見ていきましょう。

チェンジポケット

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普通のフタ付きポケット(フラップポケット)の上に、もう一つフタ付きポケットを配置したのが、チェンジポケットです。

チェンジとは小銭の意味ですが、小さなポケットのこともチェンジポケットと言うため、小銭を入れるために作られたのかは不明です。英国仕様のディテールとされることから、英国調のデザインによく用いられます。

スラントポケット

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斜めに配置したポケットが、スラントポケット(ハッキングポケット、オブリークポケット)です。元々は乗馬用のデザインとされ、見た目もスポーティになります。先述のチェンジポケット込みでスラントにすることもあります。

パッチポケット

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ポケットの袋部分が外側の生地で作られているのが、パッチポケット(セットオンポケット)です。ビジネススーツでの採用例は稀で、ジャケットなどのカジュアルな上着に主に使われます。写真にはフタがありませんが、フタ付きの場合もあります。

そのほか、礼服に使われるフタ無しのもみ玉ポケット、コート用などで縦に切られたバーティカルポケットなどがありますが、サンプルのスーツなどをみながら、自分のイメージする、作りたいスーツに合わせてポケットを選んでいくと、良いと思います。

 

 

4.ズボンのタック

FO:○、EO:○、PO:△

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ズボン(トラウザーズ)の前側に入ったヒダがタックです。

最近のトレンドは1タックかノータックですが、クラシカルなイメージを出したい場合は2タックなどもお薦めです。EOならば安くスペアパンツを作れるため、三つ揃いの時はタック有りを、2ピースで着用する場合はタック無しで、と計2本作るとあわせやすくお薦めです。

参考記事:ズボンのタック(プリーツ)について考える――タックは何本が良い?

 

 

5.衿の型(衿型、襟幅とゴージライン )

FO:○、EO:○、PO:×

衿型

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※ まともな写真が見当たりませんでした。見づらくてスミマセン……。

左がダブルブレストのジャケットに使われるピークトラペル(剣襟)、右が一般的なノッチトラペル(菱襟)です。

シングルブレストのジャケットにピークトラペルを使うこともあるのですが、豪華な雰囲気になる一方、ビジネス用途として、特に若年層には正直厳しい場合が多く、ビジネススーツとしてはノッチトラペルの方が一般的です。

襟幅

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襟幅は、時代によって常に変化しています。つい数年前までは幅6cm以下の細い衿が「ナローラペル」ともてはやされましたが、最近の主流は7.5cm~8cm位に戻ってきています。

冬用のジャケットやコートは、スーツより太めにすると重厚感が増すのでお薦めです。個人的には、スーツは8~8.5cm前後、ジャケットは8.5cm~9.5cm位が、流行廃りが無くて好きです。ただ、デザインや個人の体格や好みでこの数字は変わるので、参考程度にとどめて下さい。

ゴージライン

そして、ゴージラインは下襟と上襟の境界線のことで、この位置(上下)と角度も、年代によって大きく異なっています。たとえば、バブル期のスーツを見ると、位置はずいぶんと下で、角度も鋭角になっています。

ゴージラインは位置が上になり、鈍角(地面と水平に近く)になると、活動的に見えます。ファッション誌を見ると、2~3年前に上がるところまで上がりきって、今は若干揺り戻しが来ているかな? 程度だと思います。

 

 

6.袖口のボタン

FO:○、EO:○、PO:△

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オーダースーツの世界では、なにかと「本切羽かどうか」が議論されることが多いのですが、むしろ見た目にはボタンの並びの方が重要なのでは無いかと考えています。

一番左が、一般的なスーツのボタンの並びです。腕が長い方ならば良いのですが、小柄な方ならば、真ん中の方式(キスとか、くっつきなどと呼ばれています)がお薦めです。というのも、腕の長さに占めるボタンの比率が小さくなり、バランスがとれるからです。

そして、一番右が重ねボタン。クラシコイタリアブームを経て、かなり一般的になりましたが、ジャケットの袖口としては一番好きな形です。(なお、店舗によっては重ねのことをキッスと言うこともあるので注意)

職人曰く、良いキッスはボタンとボタンの間が完全にくっついてはおらず、「縫い糸1本分」あるのだそう。これによって、重ねよりもキッスの方が伎倆(技量)を要求されるらしいです。(上級ラインのPOか、FO限定のディテールですね……)

 

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なお、本切羽(上記写真)については、古い生地ですが下記リンクからどうぞ。厚手の生地で無ければ、個人的には本開き(本切羽)にした方が、ボタンホールが綺麗になるのでお薦めです。

参考記事:本切羽(本開き)とは?本切羽(本開き)の意味を考える本切羽(本開き)のボタンをわざと外す事について

※ なお、上記記事の中で「本切羽=ビスポークスーツ」という考え方を紹介しています。5年前の当時はたしかにそうだったのですが、今では2万円台の安いスーツも本切羽になっている場合が散見され、この等式はあまり意味が無くなっています。

 

 

7.糸色

FO:○、EO:○、PO:○

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オーダースーツ/ジャケットでは、使用する糸の色を変えることが出来ます。代表的な例で言うと、ボタンホール(フラワーホール、前ボタン、袖ボタン)、ボタン付け糸、ステッチ(襟、ポケット、背中、裏地など多数)、ブランド/テーラータグの縫い付け糸、個人ネームなどです。

上記の写真で言うと、茶色のシャツやタイとあわせやすいよう、フラワーホールを茶の糸色に変えています。なお、前ボタンや袖ボタンまで変えても良いのですが、しつこくなるので変えていません。

他にも、袖ボタンの一番端だけ、ボタンホールの色を変えることが流行った時期がありました。これも当初はビスポーク(オーダー)の証的な意味合いがあったのでしょうが、既製服にも導入されたため、現在では一般化しています。

 

 

8.裏地

FO:○、EO:○、PO:○

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かつて江戸の町人達が裏地に派手な布を使って「粋」としたように、オーダースーツにも様々な裏地を使うことが出来ます。

サラリーマンとしては、外側の生地に派手な色は使いにくいですが、客先でジャケットを脱がないことを前提とすると、自分の好きな色を自由に使えるというわけです。色だけでは無く、テーラーによっては柄物も沢山用意していると思うので、自分だけの一着を仕立ててみて下さい。

参考記事:スーツの良い裏地とは何かを、考える

 

 

9. ダブルとシングル(前合わせ)

FO:○、EO:○、PO:×

正直、これはディテールでは無くて基本的なデザインだろうという話もありますが……。

現在、既製服でダブル(ダブルブレステッド、両前合わせ)のスーツは数が限られるため、オーダーし甲斐があると言いたいところですが、ビジネス用途としては、20~30歳代を対象とすると業界が限られると思います。(ダブルはどうしてもイカつい感じに映ります)

一方で、ジャケット単品としてならば、ここ1~2年のあいだ、タイトフィットのスポーティな製品が少しずつですが増えてきている感があります。

また、オーバーコートとしてはピーコート、ポロコート、アルスターコートなどで採用されているデザインで、ピーコート以外は持ち運びが重くなりますが、お薦めのデザインです。

 

 

10.ダブルとシングル(ズボンの裾)

FO:○、EO:○、PO:○

おなじダブルとシングルでも、こちらはずいぶんと採用しやすい話です。ズボンの裾について、折り返しがないものをシングル、ある物をダブルと言いますが、こちらも、どちらを選ぶかで見た目が変わってきます。

一般的には、ダブルの方がカジュアル向きとされています。また、ダブルの折り返しそのものの重さ、または折り返しの中におもりを入れることで、ズボンの裾をピンと伸ばす事が出来るメリットがあります。

折り返しの幅については流行廃り、身長との兼ね合いなどがあるため、テーラーと相談して決めると良いでしょう。

 

 


ベントのこと、ウェストコートのことなど、まだまだ書き足りないところがありますが、テーラーでスーツを注文する際、主に指定できるディテールについて、つらつらと並べてみました。

私も最初はそうだったのですが、テーラーで店員からオーダーシートや仕様が書いてあるメニューを広げられて、いきなり「どちらになさいますか」と聞かれたところで、普通は即答できないですよね……。

それぞれのディテールに、どんなメリットや意味があるのか、本当はこちらの要望をヒアリングして、解説やお薦めをして欲しいところですが、店員が忙しかったりハズレだったりするとすっ飛ばされる項目も数々。

そんな方のお役に立てれば幸いです。

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