サラリーマンのためのオーダースーツ講座の第2回目は、オーダーの「種類」について考えます。
ひとくちに「オーダースーツ」といっても、色々な種類があります。ご存知の方も多いと思いますが、代表例が、フルオーダー(FO)、イージーオーダー(EO)、パターンオーダー(PO)です。
FOであれば「昔ながらの型紙から職人が作るスーツ」のイメージがありますが、EOとPOの違いはなんでしょうか……。 それぞれに、それぞれの良さがあるのですが、これらの違いは何か、どう使い分ければ良いのか、などを皆さんと考えてみたいと思います。
『サラリーマンのためのオーダースーツ講座』一覧
第1回:いま、オーダースーツとテーラーがアツい!
第2回:フル/イージー/パターンオーダーって何?【今回】
第3回:おさらい! オーダースーツ用語「生地編」前編
第4回:おさらい! オーダースーツ用語「生地編」後編
第5回:見た目を左右するオーダースーツ10の「ディテール」
第6回:着用者が注目すべき「サイズ感」7つのポイント
第7回:手縫いと機械縫いの違いとメリデメを考える
第8回:スーツのオーダー、10の失敗から学ぶ)
1. オーダースーツに種類がある?
オーダースーツというと、街角のテーラーで大卒初任給程のお金を払い作って貰うというイメージがいまでも根強くあります。 一方で、花菱縫製、グットヒル、ビッグヴィジョンといったオーダースーツチェーンや百貨店などでは、それこそ3~4万出せばオーダー可能です。
いずれも同じ「オーダースーツ」ですが、何がどの様に違うのでしょうか。
一般的には、前者を「フルオーダー(FO)」、後者を「イージーオーダー(EO)」や「パターンオーダー(PO)」などとと呼びますが、まずは辞書で引いてみることにします。
オーダーメード(※フルオーダー)
注文服のことを言う和製英語。米国ではカスタムメード、英国ではビスポークというのが一般的。顧客の体型や好みに合わせて、何回かの仮縫いを経て仕立てられる服を言う。対語はレディ・メード(既製服)。イージーオーダー
簡単にできる注文服のこと。一定のデザインや素材の中から選んで身体に合わせて仕立てる方式で、既製服と注文服の中間的存在。メンズ・スーツやシャツなどに多く見られる方式だが、レディスに関しては殆ど見られない。パターンオーダー
あらかじめパターンを用意しておき、客のサイズ注文にあわせて、服作りをするやり方。既製服メーカーの新しいサービス法。出典:文化出版局・文化女子大学教科書出版部(2013)『ファッション事典』第3版、文化出版局
どうやら、EOとPOはその出自が違うようです。 文字で見ただけでも分かりづらいので、図にしながら考えてみることにします。
2.「注文服」系と「既製服」系に分けて考える
上の図から、パターンオーダー(PO)と、イージーオーダー(EO)がいわゆる「新参者」であることが分かります。
「大卒初任給」の注文服を、もっと安く簡単に作る方法は無いか、ということで考え出されたのがイージーオーダーです。これによって目的である価格低減は図ることが出来ましたが、型紙を一から作らなくなり、工場による流れ作業で仮縫いもしなくなったため、自由度が下がりました。
一方のパターンオーダーは、既製服のサイズや生地のバリエーションをもっと増やせないか、ということで考えられたものです。既製服をベースに生地やサイズを選ぶことが出来る様にり、目的である自由度は増えましたが、価格は一部上がる結果になりました。
次に、それぞれの特徴を考えてみることにしましょう。
3.FO、EO、PO、それぞれの特徴
FO、EO、POの違いを表にまとめてみました。 それぞれ見ていくことにしましょう。
フルオーダー(FO)の特徴
個々人の型紙を引き、仮縫いをして、一人一人に合わせて作られた服が注文服、または誂え服と呼ばれたものです。これが、EOやPOの誕生と共に、区別するためFOと呼ばれるようになりました(和製英語)。
欠点は高い価格と、遅い納期です。この欠点を克服すべくEOが誕生するわけですが、それでも自由度の高さや、手縫いによるフィット感の良さや耐久性の高さ、さらに細かいディテールが綺麗に仕上がるため、今でも服飾ファンを中心に根強い人気を誇っています。
なお、上記の表に表現できなかった欠点として「スタイル性」があります。FOは仮縫いや中縫いを繰り返し、スーツを体にフィットさせていくのですが、腕の悪いテーラーの場合はスーツを体にあわせすぎてしまい、デザインが悪かったり、体の格好良くない部分がスーツに現れてしまう事があるのです。
もちろん、優秀なテーラーであればそういったデメリットを防ぎます。フィット感と見た目は確かにトレードオフではあるのですが、デザインにも長けたテーラーであれば、ある程度はそれらを両立することが可能です。
イージーオーダー(EO)の特徴
FOの簡易版(工場製作による価格低減版)がEOです。FOとの違いは、型紙の自由度が下がることと、仮縫いが通常無いこと、基本的に機械縫製なこと、そして何よりも安価なことです。
EOの型紙はコンピュータで出力されます。コンピュータに個々人の採寸データを入力すると、予め用意されたマスターパターンが自動的に調整されます。これまで職人が個人の経験と勘で行っていた型紙作りを、コンピュータに代替させたわけです。
最近ではその型紙に基づいて自動で生地の裁断まで行われるようになりました。縫製はミシンですが、穴かがりやボタン付けなどは全自動の機械で行われ、驚異的な早さで組み立てられていきます。低価格帯の製品は、主に中国、ベトナム、ビルマなどの海外工場で作られることが多いです。
このため、生地やディテールはFOに近い感覚で選べるものの、安くは既製服並みの低価格2万円台から注文する事が出来、高いコストパフォーマンスを実現します。
一方で、フィット感や細部の美しさはFOに劣り、仮縫いが無いため本番一発勝負なところもマイナス要素です。流行の観点から言うと、ラペル幅や着丈などの変化には対応できますが、シルエット全体の変更もマスターパターンがあるため、行いにくい事があります。
パターンオーダー(PO)の特徴
既製服がサイズや生地のラインナップを増やしながらも、在庫を抱えたくないという問題を解決するために作られたのがPOです。FOとの違いはEOとの差異に加え、選べるディテールが少なく、体型補正なども出来ない事です。
考え方としては「オーダーメード」よりも「受注生産」に近く、FO、EOに比べて自由度がかなり低いというマイナス点がありますが、一方で完成された既製ブランドの服を踏襲することになるため、デザインの観点からは評価が高くなることが多いです。
愛用者の中には「FO、とりわけEOは体にあうだけでデザインが悪く、POしかしない」という方も居るくらいです。
既製服と同等かそれ以上の価格になるため、場合によってはEOの最低価格ラインよりも高くなることもあります。EOよりも選べるオプションが少ないのに価格が高いわけはここにあります。
4.(おわりに)必ずしもフルオーダーが良いとは限らない
本稿で訴えたいのは、FO、EO、POにそれぞれの良さが有り、必ずしも自由度や価格が高い方法が最良というわけでは無い、と言う事です。特に、POが、場合によってはEOの廉価版の様に捉えられていることが多いのは残念なことです。
個人的には、重要なスーツはFOを、軽く作りたいジャケットはPOを、普段使い通勤用スーツはEOで、と言う風に使い分けをしています。
また、必ずしもFOは手縫い、POは機械縫製というわけでもないことに注意が必要です。 作業軽減ではなく見た目を軽く仕上げるために機械縫製を採り入れるFOもあれば、一部ディテールに手縫いの要素を入れるPOもあるからです。
上記を踏まえ、自分の欲しいスーツ/ジャケットの内容をテーラーに伝え、どういった方法でオーダーするか相談して決めると、思い通りの服に近づけると思います。