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手縫いと機械縫いの違いとメリデメを考える【サラリーマンのためのオーダースーツ講座07】

投稿日:平成27年(2015) 5月5日  (更新:平成30年10月14日)

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最近、「手縫いと機械縫製の違いは?」「イージーオーダーとフルオーダーの違いって?」「フルオーダー(手縫い)のメリットってなに?」といった質問が、閲覧者の皆さんからしばしば送られてくるようになりました。

都度、過去の記事や他サイトのURLなどを記載してお返事していたのですが、今回、オーダースーツ講座の一環として、まとめてみることにしました。

私自身はアパレルとは全く関係の無い学校出身、会社勤めの身ですから、詳しい技術的な内容に言及することは出来ません。しかし、手縫いのスーツを実際に着てみて、そして複数のテーラーと何度も会話して収集した情報を元に、着用者の観点から手縫いと機械縫製の違いを考えてみます。

我々サラリーマンにとって、手縫いのスーツは贅沢すぎるのかそうでないのか、手縫いのスーツを作る意味は有るのか無いのか、自分なりの結論を出してみたいと思います。

 

『サラリーマンのためのオーダースーツ講座』一覧

第1回:いま、オーダースーツとテーラーがアツい!
第2回:フル/イージー/パターンオーダーって何?
第3回:おさらい! オーダースーツ用語「生地編」前編
第4回:おさらい! オーダースーツ用語「生地編」後編
第5回:見た目を左右するオーダースーツ10の「ディテール」
第6回:着用者が注目すべき「サイズ感」7つのポイント
第7回:手縫いと機械縫いの違いとメリデメを考える【今回】
第8回:スーツのオーダー、10の失敗から学ぶ)

 

 

 

1.そもそも手縫い/機械縫いって?

本稿で言う「手縫い」「機械縫い(機械縫製)」の定義について整理しておきます。

かつて、スーツは職人の手によって、針と糸を主体に(工程の一部はミシンによって)縫製されていました。しかし、縫製機械やコンピュータの発達に伴い、安く早くスーツを縫製できるようになりました。現在、前者を「手縫い」、後者を「機械縫い」などと称しています。

単純に「いままで手で縫っていたところを機械で縫うようになった」という話ではありません。自動裁断、接着芯の多用と縫製工程の変更、クセ取り*の簡略化など、服の作り方そのものが手縫いと機械縫いで異なるため、(善し悪しの話では無く)それぞれは似て非なる物と考えた方が良さそうです。

*クセ取り:平らな布を熱や蒸気で立体に沿った形に変えること

「玉露入り」と「手縫い入り」

現在、量販店既製服のほぼ全てが、またイージーオーダー(EO)も殆どが機械縫いです。一方「フルオーダー」と称するサービスの多くには「手縫い」または「手縫いが含まれ」ており、さらに、一部の高級既製服も「手縫いが含まれ」ていることがあるようです。

「手縫いが含まれ」というのは正確を期すための表現で、1割でも手縫いの工程が含まれていれば「手縫い」と表示されることがあるらしく、「入り」がない分、お茶の「玉露入り」よりも誤解を生む表現ですね。紳士靴がグッドイヤー/九分仕立て/フルハンドソーンと明確に分かれているのと対照的です。

実際は機械縫いも人間が縫う

一方で、機械縫いに対しても多少誤解があるようです。グッドイヤーウェルテッド(機械縫い)の靴に”Hand Made”と表記される様に、服の機械縫いも完全なオートメーションでは無く、職人によって操作されます。特に、ミシンは職人の技量で品質が大きく左右されます。

従って、機械縫いであれば全部同じというわけではなく、良質な機械縫いとそうでない機械縫いは存在します(国内での機械縫いであれば、概ね良質だと言われています)。

 

さて、手縫いと機械縫いは似て非なる物と先述しましたが、それぞれにどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。その違いを着用者の観点から、5つのポイントに絞って考えたいと思います。

 

 

2.ポイント①:着心地

着心地については圧倒的に手縫いの方が素晴らしいです。

手縫いでは仮縫い(完全に縫い上げる前の服を体に当てて、微調整を行うこと)があるため、サイズがぴったりになると言う事も有るのですが、それだけではありません。

機械縫製は生地と上着の立体性を作る「芯地」を接着剤によりくっつけた状態で一気に縫い上げるため、あまりあそび(余裕)がなく、体の動きにスーツ側が対応できず、引きつってしまうことが多いのです。手縫いであれば、「ハ刺し*」で留めるため、良い意味で縫い目が甘く動きに対して柔軟です。

*ハ刺:はざし。表地と芯地を縫い付けて綺麗なラペルの折り返しを出す方法。

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▲ 左が手縫いによるハ刺し。右が機械縫製による接着芯+ハ刺し。左の写真を見ると、かなりの箇所にハ刺しをかけているのが分かる。

機械縫製も最近では、芯地を接着し縫いやすくした上で、機械でハ刺しを行う方法が主流になってきましたが、体を動かしたときの追従性は、手縫いのハ刺しには遠く及びません。

個人的な感想としても、手縫いのスーツは体に張り付いたように動くため、着ていて楽です。そのため、手縫いの方が重さがあるのに、軽く感じます。また、腕の可動範囲が広いため、吊革につかまるのも快適に感じます。

 

 

3.ポイント②:耐久性

こちらも、手縫いに軍配が上がります。

手縫いの場合は、ミシンのように縫い目がピッタリしておらずゆとりがあるため、生地が傷みにくい事が挙げられるほか、ポケットが入り口でしっかり縫い付けられるため緩まず長持ちする、ほつれやすい箇所の補強をしやすいなど、基本的な耐久性が異なります。

さらに、もう一つ重要なのがポイント①と同じく芯地の話です。

機械縫いでは通常、芯地に接着芯を使うことは先述の通りです。この接着芯を使ったジャケットは、私も経験があるのですが、雨に濡れたりした際、膨張率の違いから接着部分の表生地が、ぷっくり水ぶくれのようにふくれあがってしまうことがあります。

また、クリーニングを繰り返すと綺麗なシルエットを保てなくなってしまうことがあります。一方、手縫いであれば、耐久性の高い芯地が、生地と沢山の場所で余裕を持って留められています。これにより、型崩れせずに長持ちするというわけです。

 

 

4.ポイント③:見た目

好みの問題もありますが、私は手縫いの方が好きです。

スーツの見た目は生地、ディテール、サイズ感/シルエットで決まると、本講座でも第3回~第6回を通して考えてきたとおりですが、縫製の違いによって変わってくるのはディテールとサイズ感/シルエットです。

手縫いと機械縫製;ディテールの違い

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こちらはフラワーホールの部分。しっかりと筋が通っているのが分かります。ぱっと見で手縫いと機械縫製を見分けるのはここが一番手っ取り早いです。

 

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こちらは機械縫製のもの。違いは歴然ですよね。

 

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左が手縫いで右が機械縫製です。ほぼ同じウェイトの三杢の生地ですが、手縫いには立体感があります。

一方で、こうした細かいディテールの善し悪しは、手縫いの場合、その仕事をする職人の腕によってずいぶんと変わり、個性が出やすいです。機械縫製もある程度熟練が要求されますが、手縫いほど差が出づらく、均質な仕上がりになるため、こちらの方が好みという方も居るかも知れません。

手縫いと機械縫製、サイズ感/シルエットの違い

基本的なところで言うと、仮縫いの有り無しは大きいと思います。しかし、機械縫製であってもオーダーを繰り返すことで、また優秀なフィッターが居れば、完璧なサイズ感に近づけることは可能です。そこで、それ以外の違いを考えてみたいと思います。(また、理論上は仮縫い→機械縫製も可能で、一部のテーラーでは実際に行っています)

まず挙げられるのが縫製の自由さです。手縫いの場合、いせ込み*などの立体的感を出すための作業が十分に行われるため、機械縫製に比べてシルエットが美しい場合が多いのです。そして、アイロンなどで体の膨らみに合わせて生地を曲げるクセ取りなどの作業も多く行われます。

*いせ込み:布を立体形成するための技法で、袖山(肩の山部分)、スカートのウエストで使われる。

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左が手縫い、右が機械縫製で、ウェストコートをトルソーに着せた状態です。クセの一種、腹グセ(お腹のライン)とりが、ウェストコート(ベスト)の裾に施されています。裾がはねなくなり、見た目がかなり改善します。

 

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この写真は、トラウザーズ(ズボン)のふくらはぎの部分を平置きし、分かりやすい様に上から色のついた紙を乗せて撮影した物です。上が手縫い、下が機械縫いです。上の写真で、中央部分が若干紙からはみ出しているのが分かるでしょうか……?

これも、クセ取りの一種で、ふくらはぎの形に合わせてズボンの後側を膨らませています。これにより、ふくらはぎの部分に皺が入ったり、裾がずり上がってしまうことを防ぎます。平置きすると若干カーブしているようにしか見えませんが、立体になると大きな違いになります。

機械縫製が向いているシルエット

一方で機械縫いが向いている場合もあります。たとえば軽さを追求したジャケットです。

日本の手縫いの場合、しっかりとした毛芯にしっかりとした縫製をする傾向があります。軽いウエイトの生地で軽く羽織るジャケットを作ろうとした際、日本流の手縫いをしてしまうと生地の軽快さを殺してしまうことがあります。(固くなく十分軟らかいのですが、軽く仕上がらないのです)

この場合、アパレル業界の流行で鍛えられた、機械縫製の工場の方に軍配が上がります。もちろん「イタリア修行」をウリに軽さを重視する若手職人も最近は多く、従来の日本の職人であっても柔軟な方も居り、必ずしも全て当てはまるわけではありませんが……。

 

5.ポイント④:価格

サラリーマンにとって、このポイントはかなり重要でしょう。当然、手縫いが機械縫製に比べて高くなるのですが、名前の響きほどべらぼうに高くなるわけでは無い、と考えています。

試算してみる

町のテーラーに手縫い縫製でスーツの製作を依頼した場合、工賃のみで地方は10万円程度、東京の場合は13万円程度だと思います。これに生地代がプラスされるわけです。生地代は国産の中堅どころで1着分3-4万円くらい、外国のブランド物でも6-7万円くらいです。

従って、国産の中堅生地を使って手縫いで仕立てた場合、地方で最低13万円、東京で16万円はかかる計算になります。一方で機械縫製にした場合、イージーオーダーで作ることになるわけですが、激安のチェーン店の場合国産中堅生地で5万円程度、個人店でも7-8万円程度だと思います。

ということで倍額違いますね……。1着手縫いを機械縫いにするだけで、2着のスーツが手に入るわけです。スーツの消耗が激しい業務に従事している方など、出来るだけ沢山のスーツを揃えたいという方にとっては、機械縫いの方が良いのかもしれません。

サラリーマンに手縫いは不釣り合い?

一方で、海外のブランド物で仕立てた場合、手縫いで最低16万円、機械縫製で12万円くらいという計算になり、差は縮小します。手縫いだろうが機械だろうが、生地の値段は変わらないからです。

これまで高い生地を機械縫製で仕立ててきた方は、1.4倍くらいの価格で(国産生地にすれば同額か少しプラスするだけで)手縫いのスーツが手に入ることになります。射程距離として、手縫いはかなり近くなります。

「サラリーマンに手縫い(フルオーダー)のスーツは不釣り合い」などという意見も耳にしますが、機械縫いが台頭するまでは、サラリーマン全員が手縫のスーツだったわけで、そうは思いません。むしろ不釣り合いなのはブランド物の高級スーツや、無駄に高い生地を使った機械縫製で、(個人的な見解ですが)手縫いの方がよっぽど美しく、コストパフォーマンスに優れ、長持ちします。

 

6.ポイント⑤:納期

これは完全に機械縫製が有利です。

機械縫製の場合、(店や時期によりけりですが)国内工場にて通常2週間くらいで仕上がります。一方、手縫いの場合は最低でも一箇月はかかり、かつ簡単に納期が延びていきます。

レーザーとCAD(機械製図)による自動裁断、接着芯を使った縫い上げ、専用装置によるボタンホールの自動穴かがり等々、作業一つ一つの省力化/短時間化が図られ、短納期を実現しています。しかし、さらに異なるのがキャパシティです。

機械縫製の場合は処理能力の高い工場で並列処理され、かつ厳格な納期管理をされるため、沢山の注文が来てもそうそう遅れることはありません。一方で手縫いは、職人の組合や小規模工場はあるものの、処理能力は段違いに低く、場合によっては職人一名や+下職*若干名という状況で、納期半年などという状況が平気で発生します。

*下職:今風に言うと協働者や再委託先の職人。

従って、急いでいるときのオーダースーツは、機械縫製によるイージーオーダーやパターンオーダー一択になると思います。

 

7.まとめ

長くなったので、メリットデメリットを中心にまとめたいと思います。

    • 着心地:手縫い > 機械縫い
    • 耐久性:手縫い > 機械縫い
    • 見た目:手縫い ≧ 機械縫い(軽く仕上げたい場合は機械の方が有利か)
    • 価 格:手縫い < 機械縫い(高い生地を使うと差があまりなくなる)
    • 納 期:手縫い < 機械縫い

この様に、価格や納期以外では、概ね手縫いに軍配が上がっています。

以上から、業務内容や年齢にもよりますが、5着のうち、1着くらいは手縫いのスーツがあっても良いのではないかと考えます。また、内勤が多くスーツの摩耗が少ない方や、お金に余裕のある方は、さらに割合を上げても良いと思います。

高い生地は光沢が強すぎて、30代以下の我々には風当たりが強くなりがちです。ですから、そういった生地でイージーオーダーやパターンオーダーしていた方には、今より少しお金を多く出し、ミドルレンジの生地で手縫いのスーツを仕立ててはいかがでしょうか。着心地は良く、生地共に耐久性に優れ、嫌らしくならずに見た目が良くなるとおもいますよ。

 


手縫いと機械、それぞれに良さがあるためになるべく中立に書こうとしていたのですが、メリットとデメリットを書き出してゆくと、やはり手縫いに肩入れしてしまいました(^^;

価格と納期。とくに価格は大きな壁で、新入社員のうちは難しいかも知れませんが、会社にも慣れ、後輩や部下が少し出てきたタイミングで、機械縫製と組み合わせつつ、手縫いのスーツにも手を出すと良いのでは無いでしょうか。

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