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おさらい! オーダースーツ用語「生地編」後編【サラリーマンのためのオーダースーツ講座04】

投稿日:平成27年(2015) 3月29日  更新日:平成30年(2018) 10月14日 

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今回は前回の続き、オーダースーツ用語「生地編」の後編をお送りします。

 

『サラリーマンのためのオーダースーツ講座』一覧

第1回:いま、オーダースーツとテーラーがアツい!
第2回:フル/イージー/パターンオーダーって何?
第3回:おさらい! オーダースーツ用語「生地編」前編
第4回:おさらい! オーダースーツ用語「生地編」後編【今回】
第5回:見た目を左右するオーダースーツ10の「ディテール」
第6回:着用者が注目すべき「サイズ感」7つのポイント
第7回:手縫いと機械縫いの違いとメリデメを考える
第8回:スーツのオーダー、10の失敗から学ぶ)

 

6.素材

6-5.ポリエステル

化学繊維(合成繊維)の一つで、石油や天然ガスから生成されます。丈夫で乾きやすいのが特徴ですが、一方で吸湿性が無いので蒸れやすく、さらに人工的な光沢があるというデメリットがあります。スーツ地として単品やウールと混紡で、または裏地(ライニング)として利用されます。

店で生地を選んでいるときに「この生地はポリ混ですね」のポリは、ポリエステルのこと。加工がしやすいので機能性素材(防シワを謳った素材など)や、原価が安いので安価な素材に多用されます。最近では見た目も良いポリ混生地も増えており、出張の多い方には便利な素材かも知れません。

なお、安スーツのイメージがつきまとうポリ混生地ですが、数パーセントの混紡で、(ストライプや格子部分の)生地の発色をよくするために利用されることもあり、単純に安くするために混紡した場合とは意味合いが異なる場合もあります。

また、テトロンはポリエステル系繊維の商標名で、生地の価格タグに「W:70 T:30」とある場合は「ウール70%、ポリエステル30%の混紡生地」という意味です。

参考記事:「ポリエステル混紡形状記憶シャツの功罪

6-6.麻

植物系繊維の一つで、日本では苧麻(読み:ちょま。ラミーのこと)と亜麻(読み:あま。リネンのこと)が品質表示タグで麻と表記することを認められていますが、和服の世界などでは大麻やマニラ麻なども伝統的に麻として利用されてきた歴史があります。

スーツスタイルの世界で利用されるのは、西洋で多用されてきた亜麻(リネン)で、夏場のリネンスーツ、ポケットチーフ、リネンのシャツなどが代表的です。吸湿性や風通しが良く、ザックリとした見た目からも、夏用素材の代表格と言えます。

かつてはサラリーマンにも多く用いられた麻ですが、シワになりやすいため、現代では殆ど利用されていません。シワが気になる方は、ウールとの混紡生地を選ぶと良いと思いますが、麻はシワそのものが「味」であるため、休日用のジャケットであれば麻100%もおすすめです。

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ウール/麻混紡のジャケット。シャツは麻100%。

また、色落ちが激しい素材で、クリーニングの度に薄くなっていくので、淡色の生地を選ぶとイメージがあまり変わらずおすすめです。(サラリーマンに人気が無くなったのも、ビジネススーツの殆どが濃色のため、という事が影響しているかも知れません)

6-7.綿

植物系繊維の一つで、丈夫で吸湿性と肌触りに優れるという特徴がある一方、麻ほどではないですが、しわになりやすいという欠点があります。

スーツスタイルでは、シャツ生地として、またはカジュアルなジャケット地やズボン用として用いられることの多い素材です。

ジャケットでは麻と同じく、既製品で店頭に並ぶことの少ない素材ですから、オーダースーツのし甲斐がある素材と言えます。一方で手縫い縫製の特徴であるアイロンワークが活用できない素材でもあり、かつ麻ほど手縫いのメリットも出にくいため、イージーオーダーなどの機械縫製と相性が良いと思います。

6-8.キュプラ

化学繊維(再生繊維)の一つで、綿のかす(正確になコットンリンター)から作られる素材で、絹と似たような性質があります。

スーツの世界では裏地(ライニング)用の、比較的高級な素材として有名です。安価なイージーオーダーなどでは、ポリエステル裏地は無料、キュプラは有料、などという扱いを受けることがあります。

ポリエステルの裏地は吸湿性に劣るので、個人的にはキュプラか、多少耐久性が劣りますがキュプラと絹の混紡がお薦めです。また、いずれもポリエステルよりも美しい輝きがあります。

参考記事:「スーツの良い裏地とは何かを、考える

 

 

7.生地ブランド

生地選びをする際に、素材以外にもう一つ出てくるのが「生地ブランド」です。

「良い生地を使いたいのであって、ブランド生地を着るのが目的では無い」というご意見はもっともで、実際に私も同じポリシーなのですが、一方で良い生地、または生地の方向性のアタリを付ける上で、重要な情報であることも事実です。

実際にどういうブランドがあるかは、ネットでテーラーのサイトを検索した方が優良な情報が出てくると思いますので、ここではエッセンスだけご紹介します。

国別の生地傾向

最近ではバリエーションが豊富になって、あまり当てにならなくなってきましたが、一般に言われている各国の生地の傾向をまとめてみました。

イギリス

目付が重く、耐久性のある生地が多い。古典的な柄も多いが、東洋人にはあまり似合わない派手な柄も見かける。しなやかさよりも重厚さを目指した生地が多い。

イタリア

軽く薄い生地が重用される。色柄が多彩で、比較的日本人にも合うものが多いが、単糸で織られることが多く、耐久性に劣る。ドレープの(しなやかな流れるような)美しさが重視される。

日本

低価格帯のコストパフォーマンスの高い生地が豊富。生地の質そのものは良いが、色柄のバリエーションが少ない。機能性素材が多いが、デザイン面の訴求力に劣る。

ただ、上記はあくまで一般的に言われる国別の傾向であって、EUとして多国籍化している関係で、最早どの国なのか分からないブランドなどもあり、一概には言えない状況ですが、「カッチリ感を重視するイギリス」「しなやかさを重視するイタリア」という方向性は、まだ残っていると思います。

個人的には、スーツ素材はイギリスや日本、ジャケット素材はイタリアを多く使っています。特に、日本製のオーソドックスな(紺無地、グレー無地等)素材は、コストパフォーマンスに優れる物が多いので、まだまだ穴場だと思っています(三星毛糸、葛利毛織、日本毛織等々)。

 

生地タグ

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スーツを買うと/作ると、内ポケットの下辺りにこのようなタグがついてきます。 これは、どの様な生地で仕立てられているかを表示している通称「ネームタグ」で、生地のブランド名やシリーズ名を確認することが出来ます。(ブランドや仕入れ方法によってはシリーズ表記が無いものあります)

Ermenegildo Zegna(エルメネジルド・ゼニア)は、日本では高級服地の代名詞のように使われている、イタリアのミル(織元)です。このTRAVELLER(トラベラー)は強撚糸を使ったしわになりにくい素材で、Zegnaのなかでも安くコストパフォーマンスに優れる生地です。(イージーオーダーなら10万未満で作れるので、サラリーマンにも手が届きます)

 

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なお、こちらも同じZegnaの生地タグですが、並行輸入品の通称「青タグ」です。きちんとした輸入元経由であれば、正規輸入品の「赤タグ」と遜色ない品質とされています。

 

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こちらはScabal(スキャバル)で、イギリスの代表的なマーチャント(生地商社)です。ミル(織元)である前出のZegnaと違い、基本的には自社では生産しない生地商社ですが、関連会社に多数の織元を抱えており、この区分もかなり曖昧になってきています。

 

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生地タグは会社にもよりますが10年くらいのスパンでデザインが変わることが有り、こちらは上記Scabalの旧生地タグです。

 

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オーダースーツの場合、反対側の内ポケットの周辺には、この様にテーラーのタグが入ることがあります。

 

オーダースーツを作る過程では、上記の生地ネームが出てくることは殆どありませんが、この段階では通称「耳」が生地タグ代わりになります。

 

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こんな感じに、生地の両端に織り込まれたネームの事を指します。 生地のブランド、シリーズ名、番手(前回の記事参照)などが表記されることが多いです(但し、一部の並行輸入品は切り取られていることがあります)。

この耳ですが、生地の情報を読み取るほかに、生地の「表裏」を確かめるのに有効です。生地は運搬中に傷めないように、裏返しにして保管される事が多いのですが、耳を見れば、自分が見ているのが表側か裏側かを確かめることが出来ます(織りによっては、表裏でだいぶ印象が違います)。

 

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完成品の場合、耳はトラウザーズ(ズボン)の裾の裏や……

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ポケットの内側の補強などに使われることが多いです。

 

8.用尺

用尺(ようしゃく、ようじゃく)とは、仕立てる際に最低限必要な生地の長さを言います。145cm幅の生地で3m~3.5mくらいがスーツ1着分ですが、仕立てる人の身長や体重(要は体の面積)で異なります。

スーツをオーダーする際、着分で探すときに問題になるのがこの用尺です。たとえばスペアパンツが必要、またはウェストコート(ベスト)を一緒に作りたい……なんていうときに、困ることが多いです。(3.5mあれば、三つ揃いくらい大丈夫なのですが、スペアパンツは4m強必要になります)

良い生地なんだけど用尺が……という経験をされた方も多いかも知れません。また、ジャケットが欲しいのに、長さが3.2mあって「スーツなら注文を承るのですが……」と断られるパターンもあったりします。逆に、中途半端な長さなら、格安でズボン用として請けてくれることも。

テーラーに採寸して貰い、自分の体型であればどのくらいの用尺なのかを確認しておくと、生地選びの時に楽かも知れません。(但し、テーラーや縫製工場によっては必要なあそびが異なるため、別のテーラーでも同じ、と言うわけにはいかないこともあるので注意)

 


如何でしたでしょうか。

もう少しライトな感じで、沢山の項目を書こうと思っていたのですが、いざ書いてみると書くべき事が沢山あり、2回に分割しても結構な量になってしまいました。量が多くてすみません。。。

オーダースーツは広く、そして面白い世界です。テーラーに行くたびに新しい発見が次々と出てきます。まだまだ書き足りないことは多いですが、生地の話はこれくらいにして、次回はディテールについて考えてみたいと思います。

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