今月1日に発足した石破内閣の記念写真が、SNSで話題になりました。
曰く、「腹が見えている」、「メガネにシールが貼りっぱなし」、「全体的にだらしない」、「だらし内閣」など(大喜利含め)かなり盛り上がっていたようでした。
官邸側(内閣広報室)もこの「腹見え」はマズイと認識したのか、後日レタッチした画像に差し替えています(この点も本文で触れたいと思います。)
一方、私が注目したのは、なぜ腹が出てしまったのか、というそもそもの原因です。
1.今回話題になった写真を確認する
今回SNSで話題になったのはこちらの写真です。
初閣議後の記念撮影
初閣議後の写真を見ると、確かに最前列中央の石破総理(衆⑫)と左隣の中谷防衛相(衆⑪)は、ズボンの上にシャツが見え、さらに毛氈(もうせん;赤絨毯)の反射で、「あたかも素肌のお腹が見えている」みたいです^^;
また、この二方に林官房長官(衆⑥)を含めた3人は、ズボンの裾がぐちゃぐちゃで、特に石破総理は明らかにズボン丈が長い or ウェスト位置を間違えています。
そして、クリース(ズボンの折り目)は3人とも曲がり、シワだらけです。
アップにすると、石破総理(右)はベルトも見えていますね……。
ちなみに、後日差し替えられた写真を見ると、内閣広報室も「シャツ・ベルト丸見え」はマズイと思ったのか、しっかりPhotoshopでレタッチ(デジタル修正)されています^^;
ズボンをそのまま上までコピーして塗たのでしょう……。
副大臣・政務官との記念撮影
さらに、後日行われた、副大臣および政務官との記念撮影においてはも、石破総理の「腹出し」は続いていたのですが、今度はウェストコート(ベスト)が延長される形でレタッチされてました。
これだと、ウェストコートの下にカマーバンド(ディナースーツ/タキシード用の黒い腹巻き)を着用しているみたいでおかしいですね。
ベルトも見えているので、レタッチするならベルトごと、ズボン生地(コール縞)で上書きしてほしかったです。
なお、初めから腹が見えないように黒い布を仕込んでいたのでは? と思われるかも知れませんが、
直前の登場時から腹出しだったので、ほぼ間違いなくレタッチで黒く塗っています。
2.礼服/モーニングとは
続いて、今回の記念写真で使われたモーニングについて見てみましょう。
日本独自ルール
初閣議後の記念撮影で着用されていたのは「モーニング」という礼服です。
本来はその名前の通り、朝から昼過ぎまで着用する礼服ですが、日本のローカルルールとしては24時間着用可能です(積極的に真似したくありませんが、伝統的にそういうことになっています。なお本来、夕方以降は燕尾服またはディナースーツ/タキシードです。)。
そして、このモーニングは、現代において、普通に生活しているとめったに着る機会の無い礼服です。
一般人だと、子供の結婚式くらいでしょうか。あとは大会社で功績を残して、叙勲の対象になったときくらいですかね。
礼服は(基本的には)ピッタリ作らない
モーニングに限らず、礼服は年に数回、場合によっては数年に1回程度しか着用しない、という方が多いでしょう。
そのため、レンタルではなく、買ったり作ったりする場合は、洋服屋に「すこし大きめにしましょう」と言われます。
なぜかというと、しばらく着ないのに、イザというときに着ねばならないのが礼服。 その時、購入時から体重が増えていない保証は、どこにもないからです。
3.ベルトではズボンを正しく保持できない
ベルトは腰骨の位置でしか止まらない
「大きめの礼服を買ったとしても、ベルトで保持すれば問題無い」と考えるのは大間違いです。
というのも、ベルトが引っかかるのは腰骨の部分であって、礼服のようなハイウエストが要求されるズボンだと位置が低すぎてしまうのです。今回、石破総理の写真を見ても、ベルトの位置が低いことが分かります。
これは礼服だけで無く、ビジネスに用いるスーツについても同様です。スーツのズボンも、カジュアルズボンの様にローウエストで作る事は少ないため、本当はズボン位置をベルトで保持することは難しいのです。
サスペンダー(ズボン吊り/ブレイシーズ)を用いるべき理由
ということで、ベルトではズボンを本来あるべき位置に保持できないため、礼服はサスペンダー(ズボン吊り、ブレイシーズ)でズボンを吊る必要があります。
石破総理も、サスペンダーでズボンを吊っておけば、こんなことにはならなかったはずです。
また、ほかにも礼服にベルトを用いてはいけない理由があります。
綺麗なクリースが出ない
礼服のズボンは、カジュアルなズボンと違って太めに作り、しっかりとしたクリース(折り目)を出します。
しかし、ベルトを使って押さえてしまうとクリースが出なかったり曲がったりするばかりか、変なシワが出る原因になります。
本来ベルトはカジュアルな意匠
ベルトは本来カジュアルな意匠で礼服には適さないという点もあります。
諸説有りますが、ズボンのベルトは第一次世界大戦後に、大量の復員兵によって野戦服用のベルトが民間にも浸透したことがその始まりとされています。
野戦服用のベルトは、弾薬を携行するために用いた実用的なツールです。従って、そこから派生した民間のベルトも、カジュアル/スポーツ寄りのアイテムで、一般的には礼服に用いることはありません。(とはいえ、儀典用のベルトも生まれ、各国軍の礼装に用いられていきますが、構造が実用のベルトとは異なるうえ、話題から逸れるので割愛します。)
4.礼服は面倒でもズボン吊り仕様に
以上見てきたように、このような「事故」をふせぎ、みすぼらしくしないためにも、礼服を購入する/作る場合は、サスペンダーはできるだけ使える様にしておきたいです。(レンタルする場合も、ジャストサイズのズボンを見つけることは難しく、サスペンダーが有効です。)
私の場合は、ビジネス用のスーツも三つ揃いが多く、比較的股上が深いズボンを好むため、サスペンダーを用いることが多いです。
サスペンダーは、懐古趣味、あるいはお笑い芸人風に思われるかも知れませんが、現代においても有効な服飾のツールだと思います。
なお、クリップ式のサスペンダーもありますが、個人的には着心地や外れにくさの観点から、ボタン式がオススメです。
詳細は、過去に関連記事を書いていますので、興味があればご一読ください。
総理大臣には格好良くいてほしい!
それにしても、だれもこのことを指摘しなかったのでしょうか。
少なくとも、2回目の副大臣・政務官との記念撮影でもやらかしているため、周囲はだれもアドバイスしなかったことが推察されます。
この写真は、世界に対し、日本の総理大臣を紹介するものとして配信されているはずで、一国民としてはとても残念です。
近年では、総理の原稿はスピーチライターが入り、重要な会見に用いる映写資料等は委託事業者も入っていると聞きます。 総理の服装についても、コストパフォーマンスを考えるとコーディネーターをつけた方が良いのではと思うのですが……。(少なくとも、式典や外遊時など、スポットで入ってほしいですね。)