皆さんのズボン(トラウザーズ、スラックス、パンツ)には何本のタック(プリーツ)がありますか?
「ズボンのタック」とは、ズボンの前側にあるヒダのことです。
近年のスリムフィット化に伴い、既製品の場合はノータック(0本)か、ワンタック(1本)が多いですよね。
今回は、タックが履き心地や見栄えに与える影響と、自分に最適なのは何本なのかを考えてみたいと思います。
# こうして文章にしてみるとくだらない、些末なことに思ってしまうのですが、
# 見栄え、シルエット、着心地に非常に影響する部分なので、
# 少し真面目に考えてみたいと思います^^;
1.ズボンのタック/プリーツは何のためにある?
そもそもタックには、主に以下のような役割(メリット)があります。
- 腰回りにゆとりを持たせやすくする ← 動きやすい、ピタピタスーツの防止
- 単なる装飾として ← 縦長のヒダがエレガントな雰囲気を出す
まず1点目。 実は、プリーツを作るから動きやすくなるのでは無く、「ゆとりを作った時にプリーツを作らないと不格好になる」が正解です。
服は体の可動範囲を確保するために、適切な余裕/ゆとりをとる必要があるのですが、紳士服のズボンの場合、その際の(動いていないときに綺麗に見せる為の)処理として、プリーツが採用されているわけです。
従って、動きやすくするためのゆとりがあるズボンには、プリーツが入るわけです。同時に、余裕を持たせればズボンがピタピタになることを防止できます。
理由は後述しますが、ジャケパンならまだしも、タイトすぎるスーツのズボンは余り推奨できません。
2点目は、単なる装飾としてのプリーツです。
のっぺりとした身頃より、プリーツがあった方が、クラシカルなエレガントさが強調されます。ただ、スポーティなジャケットに似合うかというと、それは別の話ですが……。
以下、手近にあったズボンを撮影してみました。
ツータックのズボン。 冠婚葬祭略礼服用スリーピース(三つ揃い)のものです。
3タックに見えますが――
一番外側はポケットでした。(開いてダボダボに見えないようスナップつきです)
閑話休題。 続いてプリーツのデメリットを考えていきましょう。
2.ズボンのタック/プリーツのデメリット
これは皆さん御承知の通り「見た目がスタイリッシュで無くなる」です。
タックをいれることで、ズボンにゆとりが出来ます。ゆとりが出来ることによって、ローライズ(浅い股上)の場合、提灯のように膨らんでしまうのです。
これは特に、スポーティさを出したいときには致命傷になります。
したがって、若々しさやスポーティさを出したい、若年層向けのスーツ/スラックスについて、現在ではノープリーツ(ノータック)が主流になりつつあります。
H30.4.12追記:ここ1年ほど、再びワンタックのズボンが多くなってきました。最初はスーツのズボンで、そして最近はジャケパンを想定した単品のズボンまでワンタックが多くなっているように感じます。
一方で、標準体型のノープリーツにもデメリットがあります。
それは、ピタピタ過ぎて男性器と臀部が強調されるいわゆる「ゲイスーツ」になってしまう問題です。
ジーンズや単品なら良いかも知れませんが、スーツのディテールとしてはNGでしょう。
※ これを防止するためにわたりを広くとる場合、綺麗に見せるためプリーツをつけるべき、となります。
それでは、上記のメリット、デメリットを前提に、ズボンのタックを何本にすれば良いかを一緒に考えていきましょう。
3. タックの本数は、ウエスト位置、体型、用途を考えて選ぶ
身も蓋もありませんが――正直、タックの本数は人の好みです。
むしろ、ファッションそのものが人それぞれの好みなので、何本にすべしという教則はありません。しかし、考えるべき事項、目安がありますので、それを中心に考えます。
タックの本数を選ぶ上で、考えるべき事は以下の3点です。
- ウエストの位置
- 体型
- 用途
① ウエストの位置 ――ローライズではノータックで
ローライズ/ローウエストの場合、腰回りのゆとりが結構目立ち不格好になります。これは、厚手の生地に顕著な現象です。
従って、ジャケパン用のパンツなどはゆとりを無くし、ノータックの場合が多いです。
一方、ハイウエストで着ることの多い三つ揃い(スリーピース)のズボンの場合、タックを入れた方がエレガントに着こなすことが出来ます。
スリーピース限定なら2本、ツーピースで着ることもあるなら今様に1本でしょうか。
② 体型 ――下腹が出てきたらタックを入れる
動きやすさの問題もあるのですが、太った人がぴちぴちの物を着ると、太っていることを強調してしまうことが多々あります。
ノータックのズボンが、こういった弊害を発生させているところを街でよく見かけます。
③ 用途 ――エレガントさを出したいときはタックを入れる
たとえば冠婚葬祭用であるとか、改まった雰囲気を出すときにタックは重宝します。
タックは先述の通り、動きやすさ以外に装飾としての役割があります。特に、三つ揃いの場合はワンタック(1本)以上が良いと思います。
4.まとめ
上記より、(かならずしもこの通りにはならならず、かつ、好みに著しく依存するのですが)状況別に、あくまで目安としてのタック本数を書いておきます。
- ノータック: ローライズ(ローウェスト)の場合に最適。 ジャケパン用など。 スーツも、スポーティな雰囲気、若々しい雰囲気を出したい場合などに適。 あらたまった服装には不適。
- ワンタック: スーツ用として現在主流のウエストラインに適。 スリーピースも、ノータックよりはこちらの方が適。 オールマイティに使える。
- ツータック以上: スーツ、とりわけスリーピース専用として適。 ジャケパン、単品用としては、若干時代遅れに感じ、若年層の利用には不適。 肥満体の場合はタック推奨。
おわかりの通り、キモはウエストの位置です。
ウエスト位置が低い場合はタック本数を減らし、ウエスト位置が高い場合はタック本数を増やします。従って、ジャケパン用としてはノータック、スーツ/三つ揃い用としてはタック有りとなるわけです。
5.おまけ ノータックとワンタックを同時に選ぶ
日本ではまだ余り浸透していない「ブロークンスーツ」という考え方があります。
本サイトでも何回か紹介してきましたが、スーツの上下をばらばらにし、あたかもジャケパンのように着回すことを言います。
スーツの生地やディテールによって適不適が有りますが、スーツをジャケットにもズボンにも使えるので、かなりコスパが高くなります。
このブロークンスーツとタック/プリーツを考えたときに、ジャケパン用のズボンにツータックを用いるのは今様で無くなるという問題があります。
そこで、イージーオーダーやフルオーダーであれば、以下のようなことが可能です。
左がタック入りのもの、右がノータックの物です。
3シーズン用スーツを作ったときにズボンを2着にし、それぞれディテールを変えました。三つ揃いや上着を着る機会が多い春秋はタック入りを、ブロークンスーツ用にはノータックを使います。
また、タック有りは三つ揃いにも使えるよう若干ハイウエストにし、裏側にブレイシーズ(ズボン吊り)用のボタンも付けました。 このズボンの場合は違うのですが、ノータックを作る場合にベルトループを付けずに脇尾錠を付ける場合もあります。
身の回りには結構プリーツが多いですよね。たとえばシャツ。シャツのカフと袖の接合部分はプリーツになっています。また、背中にはプリーツ(サイドプリーツやボックスプリーツ)がある場合があります。
ジャケットも、実は裏地部分にプリーツが使われていますし、オーバーコートにもボックスプリーツ(インパーテッドプリーツ)なんかがあります。ジャケットの裏地は違いますが、いずれも可動性の確保と装飾性という2点から設けられています。
一転ズボンの場合、最近の流行はやはりノープリーツですよね。東京の場合、20代のサラリーマンの殆どが、30代も約半数がノープリーツのズボンだと感じます。
H30.4.12追記:本記事の初版は5年前です。取り消し線にあるとおり、当時はノープリーツが明らかに主流でしたが、ここ1年ほどで、ワンタックのズボンが多く販売されるようになりました。特段流行に乗る必要は無いと思いますが、言いたいことはワンタックは時代遅れでは無く、むしろ時代の先端になったということです。もし「ワンタックは昔のおっさんディテールだから……」と経遠していた方は、是非試してみて下さい。特にスーツ、それも三つ揃いはとても美しく見えると思いますよ。(とはいえ、ジャケパンのズボンはノータックが好きですが……。)
しかし、流行だからズボンのプリーツは何本が良い、という型にハマったファッションでは無く、時と場合によってプリーツを上手く使い分けることで、より格好良く着こなせればよいのかなと思っています。