今年1月、FIRST EXPERIENCE※からシャツの仕立てラインが綿ポリ混紡ラインと天然素材ラインに分かれるというお知らせが来ました。前者は従来の仕立てを踏襲し、後者は「UEMACHI MODELING」として、「エグゼクティブ向きな仕立て」へと刷新するとのこと……。
ということで、早速人柱レビューのためにUEMACHI MODELINGラインで1着オーダーしてみました。
※ FIRST EXPERIENCE:ファースト・エクスペリエンス。大阪にあるネット通販専業のオーダーシャツ専門店。納期は遅いものの、低価格と高品質な国内縫製が強み。
公式サイト(http://www.firstexperience.jp/)
1.公式サイトの情報まとめ
オーダーメイドシャツの綿100%及び天然素材を新スタイル「UEMACHI MODERING」へ移行します。
2月9日(月)午後受注分より、従来のシャツラインをT/C素材ラインと天然素材ラインへと分割し、T/Cラインをスタンダードライン、天然素材ラインをUEMACHI MODERINGへと移行します。これに伴い、天然素材のラインは更に上質でエグゼクティブ向きな仕立てへとスタイルを刷新し、従来のラインとは仕様等も変更いたします。引用:H27.1.17のFIRST EXPERIENCE運営元グローバルグロー・イマジン社メールマガジンより
引用:http://www.firstexperience.jp/product/news/make-different2.html
従来、FIRST EXPERIENCEでは、5千円代の安価な生地も、2万円弱の高価な生地も同様に仕立てられていました。今後はこれが分割されるということです。ただし、分け方は金額では無く、ポリエステル(テトロン)が入っているかどうかの模様。
引用:http://www.firstexperience.jp/product/news/make-different2.html
公式サイトによる表がこちらです。衿型のアップグレード、ボタンの大型化、ボタンホールの変更などが紹介されています。また、肩の体型補正が選べるのも新しいところです。
一方で、エルボーパッチやボタン付け糸の千鳥掛け(後述)の廃止など、一見制作上の「ワリキリ」とも取れる変更も見受けられます。
それでは、実際にどう変わったのか見ていきましょう。
2.UEMACHI MODELING フォトレビュー
今回は、以下の仕様で注文しました。
生地:FJSC2100-0(播州織生地:ホワイト/ブロード)
衿型:E05-ワイドカラー(襟腰4.3/剣先8.0)
ハード(襟・カフス)
通常価格税\9,500円(税抜、白蝶貝オプションを含む)
いつもの段ボールで届きました。
こちらが今回注文したシャツ。いつも通り、白い不織布に入れられています。
袋のシール。ロゴが新しくなっています。
衿が綺麗にカーブしています。今回はいつも通りハードタイプの衿を選んだのですが、いつもよりかなり固い印象です。
以前はワイドカラーでも7センチだったFIRST EXPERIENCEですが、最近は8センチになっています。但し、今回の衿型変更に伴って、従来の8センチよりも大きく見えます。(土井縫工所のウインザーワイドが9センチですが、これと同じくらいの迫力があります)
目玉の一つ、11.5mmの巨大な白蝶貝のボタンです。 従来が10.5mmで、わずか1mmと思いがちですが、かなり迫力が違います。
織りブランドタグ。国産の播州生地です。
ブランドタグ。今回はあまり目立たないのですが、薄手の白い生地に濃色のブランドタグは、タグが背中の部分に透けて見えるので、あまり好きではありません。
今回はファーストロットということで、カラーステイが埋め込み式になっていました。量産ロットからは、脱着式になるとのことです。
3.UEMACHI MODELING 従来モデルとの比較
続いて、新旧の比較をしてみます。
衿型の比較
上がUEMACHI MODELING、下が従来のモデルです。 UEMACHI側はかなり湾曲しているように見えます。同じハード衿なのですが、コシの強さが全く違い、それが見た目にも現れています。
上下2段とも、左がUEMACHI、右が従来のモデルです。 衿が前に向かって伸びているのが分かります。太いタイには、今回のモデルの方が合うでしょう。また、大きな顔を小さく見せる効果もあると思います。
ただ、襟ぐりの浅いウェストコートやニットベストなどは従来モデルの方が似合うと思いますので、個人的には両方の衿型を選べるようになれば良いと思うのですが……(現場が混乱し難しいのでしょうが)。
ボタンの比較
左が従来の10.5mmボタン。二回りくらい違う感じがします。 ちなみに、カミチャニスタは10.5mm、土井縫工所は11mmです。
少し分かりづらいですが、左の従来のボタンは千鳥掛けになっています。千鳥掛けとは、ボタンを「×」字や「=」字にかけず、「小」字に取り付ける方法です(生地を縫うときの千鳥掛けとは異なります)。
イタリア製ハンドメイドシャツに多く、「クラシコイタリア」ブームの際、ハンドメイドの証としてもてはやされました。しかし、いまでは機械縫製でも実現出来ることから安価な既製シャツにも出回り、新鮮みは無くなりました。さらに糸が切れやすく耐久性も劣るなどのデメリットもあります。
今回、上級ラインと称しているのに(他ブランドでは上級ラインの証のように説明される)千鳥掛けを止めたことには批判の声もあるでしょうが、メリデメがあるため、私はあまり気にしません――ただし、廃止の理由が作業工程の削減でなければ。
しかし、よく見るとボタンに従来あった糸足がありません。糸足とは、強度を上げボタンをかけやすくするために、糸をボタンと生地の間に巻き付ける仕上げのこと。日本製の高級シャツには殆どあります。こういう所を見ると、千鳥掛けを止めた理由は作業工程の削減なのではないかと疑ってしまいます。
糸足があれば、ボタンが取れにくくなる上に、千鳥掛けと同じくらいボタンがかけやすくなります。(今後手づけをオプションで用意するとのことですが、糸足はデフォルトで有りにして欲しいです。)
こちらが従来のモデルの糸足。
土井縫工所のシャツでは、糸足にさらに樹脂をしみこませるという徹底ぶりです(ここまでは求めませんが……)。
ボタン穴かがりの比較
穴かがりの部分。左が従来のタイプで右がUEMACHI MODELINGのもの。「上質なラウンドホール」と説明されていますが、確かに見栄えが良くなりました。
4.感想
着用してみて
一つだけ難があり、やはり衿が固すぎます。さらにボタンが大型化したため、衿ボタンが留めづらく感じました。その他の着心地については、従来とあまり違いはありませんでした。
見た目については、正面からの迫力が増した気がします。 ハード衿のカール具合と相まって、畏まった場にはマッチするかも知れません。 ノータイでは決まらないので、ジャケットもしくはウェスコートがあった方が良いと思います。
その他
正直、縫製の善し悪しは新旧モデルでの差異をあまり感じませんでした。(長く着用していると違ってくるのかも知れませんが)
値段の高い白蝶貝の大型ボタンについて、オプション料金を上げずに対応したことは大変な企業努力だと思います。ただし、その大型ボタンや衿型については好みが分かれるところですので、新旧モデルの選択制がとれれば一番なんですけどね……。
いずれにせよ、このクォリティ、かつオーダーで1万円以下というのは驚異的だと思います。個人的には土井縫工所の衿型や縫製の方が好みですが、海外製の高級生地で安価に仕立てたい時にはとてもお薦めです。