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コートをオーダーするときのコツを考える

投稿日:平成27年(2015) 8月29日 

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みなさんはオーバーコートのオーダー(誂え)をしたことがありますか?

先日、以下のような質問をいただきました。(一部抜粋)

いつもお願いしているテイラーでコートのパターンオーダーを仕立てようかと考えています。しかしコートのオーダーについて紹介しているブログはネットでなかなかヒットしないため、是非こちらで書いていただけたらと思い、お願い申し上げた次第です。個人的に知りたいと思うのは、以下の様な点です。

  1. ざっくりとコートのオーダーの注意点
  2. カジュアルとフォーマルの分かれ目になるポイント(スーツで言うならば、例えば同じネイビーのスーツでもボタンを明るい茶色の水牛でカジュアル寄りになるなど)
  3. コートに合う上質な裏地(やはり上質なのはキュプラでしょうか)・ボタンの種類による印象の違い
  4. コートの種類(チェスターフィールド・アルスターなどなど)による印象や、使い方の違い

ハンドルネーム:豆腐 さんより

振り返ると、これまでの記事にオーバーコートについての考察が殆ど無く、反省しています。

都心部はインフラの発達で寒空の下に長時間とどまる事が少なく、またヒートアイランド現象で外が暖かいため、真冬の一部を除いてオーバーコートが必須では無くなってきています(ジャケットにマフラー+手袋の方が、暑い電車や屋内に入ったときに取り回しが楽ですよね)。

しかし、ファッションとしてのオーバーコートは健在です。様々なスタイルがあり、スタイルごとの演出があります。今回はそんなオーバーコートについて、特にオーバーコートのオーダーにフォーカスして、考えてみたいと思います。

※ おことわり ※ 本稿では、オーバーコートのオーダーに話題を絞るため、スーツオーダーについてある程度ご存知である事を前提に記述している箇所があります。スーツのオーダーについては関連記事をご覧ください。

 

.オーバーコートをオーダーする必要性

まずはそもそも論の、なぜオーバーコートをオーダーするのかを考えます。

サイズはシビアでは無いが……

シャツやジャケットは体にあったラインが肝心で、オーダーは重要な意味を持ちます。一方オーバーコートはその名の通りジャケットの上の一番外側(オーバー)に羽織る(コート)もので、かつ素材が厚目なため、スーツはオーダーでもオーバーコートは吊し(既製服)と言う方も多いと思います。

自分だけのオーバーコート

一方で、オーバーコートはジャケットに比べ、スタイルや寸法の自由度が高いことが特徴です。つまり、多種あるが故の「スタイルは気に入ったけどサイズが無い」「サイズが合うけど着丈が気に入らない」など、本当に気に入る一着に出会いづらいのです。ジャケットに比べ少ない売り場面積がそれに拍車をかけます。

そんなとき活用できるのがオーダーです。自分の好きなスタイル、デザイン、サイズで、納得できるオリジナルの一着を仕立てることが出来ます。

但し、一般的なオーダースーツの縫製工場では、ナイロン生地や伸縮性が高い生地、ゴアテックスに使われるような異素材の合わせ生地などは縫製できないことが多く、少なくとも機械縫製では扱えないことが殆どです。従って、以下の記事はテーラードのオーバーコートを前提に進めます。

 

2.店の見極め

では、どんな店でオーバーコートをオーダーしたら良いのでしょうか。見極めは難しいですが、私が感じたヒントをご紹介します。

ディスプレイにオーバーコートがある店

多くの店で、ジャケット・パンツのオーダーに加えて、オーバーコートの誂えをしています。一方で、自店で使っているイージーオーダーやパターンオーダーの工場がオーバーコートに対応しているからと言うだけで、余り力を入れておらず、沢山作った経験が無い店があるのも事実です。

そこで、店のディスプレイ、とくに道に面したショウウィンドウに自店のオーバーコートが展示されているか確認してみます。あれば、オーバーコートの提案に力を入れているある程度の担保になります。(一年を通してスーツだけ、またはスーツ+既成の薄手コートという店も多いですよね。)

スタイルの種類は豊富か

コートの扱いが有ったとしても、スタイルの種類が少ないことがあります。特に2~3種類しか扱っていない場合は、オーバーコートそのものに力を入れていない可能性もあります。

 

3.事前準備

いざ店に行く前に、いくつか準備をしておくと、悔いの残らないオーダーにしやすいです。

目的/用途を考える

オーバーコートは、スーツよりもデザインやディテールが豊富なため用途が限定されやすい衣料です。自身が何の目的で、どの様なシーンで着ることを想定しているのか予め考えをまとめます。用途に応じたスタイルを自身で考えるのはもちろん、テーラーに伝え、スタイルやディテールを選ぶ際の助言の精度を上げることが重要です。

下に着るジャケットを選ぶ

こちらはより現実的な話です。ジャケットはシャツの上に着ますが、オーバーコートはジャケットの上に着ます。どのジャケットと合わせようとしているのかを考え、採寸当日や仮縫い(フルオーダーの場合)には、そのジャケットをテーラーに持ち込み、オーバーコートのゆとりの参考にして貰います。

 

4.スタイル選び

店に行って先ず選ぶのがオーバーコートのスタイルです。スーツならば、シングルかダブルか位しか選択肢はありませんが、ビジネスに使えるものに限っても、オーバーコートは何種類もあります。ですから、利用シーンに合わせたデザインを選ぶ必要があります。

 

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▲ ステンカラーコート

サラリーマンのコートとして代表的なのがステン(スタンドフォール)カラーコートです。秋口になると、量販店でナイロン製のこれが沢山陳列されます。無難で汎用性が高く、生地やサイズ感によっては素晴らしいものが仕上がりますが、せっかくならオーダーでしか手に入らないものを作るのも手です。

 

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▲ 比翼仕立てを廃したチェスターフィールドコート

たとえば、現行唯一のフォーマルコートとも言われるチェスターフィールドコートですが、カシミアの良い生地で仕立てると、とても美しく仕上がります。冬の冠婚葬祭には最適でしょう。

チェスターは畏まりすぎてビジネス用には……と言うことなら、前立てを本来の比翼(フライフロント、ボタンが隠れる仕様)ではなく露出させることで、雰囲気が大きく変わり、普段使いでも重くなりません。

 

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▲ アルスターコート(左)、ボロコート(右)*

ダブルのカチッとした印象が特徴的なアルスターコートやポロコートなども、オーダーコートとしてオススメできます。特にアルスターはコートとしてのインパクトが大きく、仕立て映えのするスタイルです。

あとは、自分がどんなコートを着たいかという好みで選んでみて下さい。

 

* 画像出典:文化出版局編(1999)『ファッション辞典』文化出版局

 

5.生地選び

スーツと同様、オーバーコートも生地選びが非常に重要です。

必ずしもオーバーコート用の生地で無くとも良い

生地銘柄によっては、必ずしもコート用と銘打ったものがあるわけでは無く、比較的目付の重い、かつ耐久性の高い生地をオーバーコート用に使ったりします。(ジャケット用のオーバーコートとしては薄い生地を使い、スプリングコート<トップコート>を作ることも出来ます。)

オーバーコート生地選びのポイント

しかし、何でも選べるからといって油断するとあとで後悔することがあるので、以下の注意点を踏まえて選ぶと良いと思います。(ほぼ私の失敗談/実体験に基づきます……)

  • 着丈が長いデザインで弱い生地を使うと、負荷がかかるお尻やボタンホールが傷みやすい(座るときに必ず脱ぐ習慣を付けることも重要)
  • ストライプやチェックなどの大柄は、柄物のスーツやパンツと合わせづらく、着る機会が少なくなる
  • カシミア100%の生地は仕立て映えして美しいが、普段使いが難しい(作っても通勤ラッシュに耐えられないので、着る機会が少ない)
  • スーツよりも裾や袖口がせり出しているので比較的汚れやすいため、普段使いには薄手の色を控える

 

6.採寸

生地選びが終わったら採寸です。

どんなジャケットの上に着るか

今回作るコートは、どの様なジャケットの上に着ようとしているのか、テーラーと話しながら採寸をしていきます。当然ヌード寸も採寸しますが、どのくらいのゆとりが必要かの情報も重要だからです。

最重要は着丈

しかし、最も重要なポイントだと思うのが着丈です。カジュアル/フォーマルの印象も、着丈が最も左右すると感じています。

スーツのジャケットなどは、せいぜいお尻の上から下までの範囲しか着丈が上下しません。しかしオーバーコートはスーツと同じくらいの着丈から、ズボン丈の少し上(理論的には。フル<マキシ>レングス。)までのとても広い幅のどこかに決めなくてはなりません。

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▲コート丈の例 *

内側に着るジャケットよりも長い丈であることが最低要件ですが、短ければ活動的に、長ければ権威的またはクラシカルに見せることが出来ます。自分をどう演出するか、どう見せたいかを考えつつ、テーラーに、選んだスタイル・生地において似合う着丈を相談してみて下さい。

着丈はスーツと同じく流行が大きく絡んでいます。数年前まで極端な短丈が流行しましたが、ここ最近は若干揺り戻しが来ているようです。

尚、仮縫いがあると、その場で着丈の調整が出来るので、イメージをつかみやすいです。また、将来的に直しで裾を切ってしまうと言う手もあります。

* 画像出典:吉村誠一(2010)『メンズ・ファッション用語大事典』誠文堂新光社

 

7.パーツ・ディテール

裏地

コートの裏地は比較的強い負荷がかかるので、丈夫なものを使います。シルク系は綺麗ですが、出来ればキュプラかキュプラ/ポリエステル混を使うのがオススメです。また、軽めのスプリングコートなら、背抜きという選択肢もありでしょう。(冬でも暖かい都心部などでは重宝します。ただし、表地が傷みやすいので、比較的丈夫なジャケット生地を使う事をオススメします)

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▲ 通常の裏地(左)と背抜き(右)

ボタン

ふつう、ジャケットより一回り大きなボタンを使うだけで、あとは変わりがありません。フォーマル感を求めるならば水牛を、カジュアル感を出したいのであればナットボタンや、くるみボタンを使います。

その他のディテール

チェスターフィールドコートやアルスターコートの上襟や、袖の折り返し(ターンナップカフ)にビロード生地を使うと、より畏まった印象になります。

他にも、ポケットのフラップ有無やベントのボタン有無など、見えるところ・見えないところのディテールはいくつかありますので、テーラーと相談しながら決めていきます。

 

8.仮縫い

フルオーダーの場合、納品までの間に仮縫いが入ります。

オーバーコートで仮縫いを行うメリットとしては、着丈が決定しやすくなる、ジャケットと重ね着することによる肩や襟の浮きが調整出来る等があります。ただし、職人の減少により、スーツのフルオーダーが出来ても、オーバーコートは出来ないというテーラーが多いのは事実です。

従って、イージーオーダーやパターンオーダーの場合、(スーツの時も同じですが)初回のオーダーは高級な生地を使わず、シンプルな構成で、試しに作ってみる感覚で注文するのが無難でしょう。

 

9.まとめ

  • オーバーコートはスタイルやディテールが多いため、実はオーダーと親和性が高い
  • ディスプレイがある、いくつかのスタイルを選べるなど、オーバーコートに力を入れている店を選ぶ
  • 店に行く前に、利用用途やスタイルを考えておき、当日は内側に着るジャケットを持参する
  • いつ利用するか、自身をどう見せたいか、そして本人の好みから、ステンカラー、チェスター、アルスターなどのスタイルを選ぶ
  • ジャケット生地でもコートは作れるが、耐久性に注意する
  • コートは着数を多く持たない場合が多いので、生地は汎用性に注意する
  • 着丈がコートの印象を大きく左右する(仮縫いがあると決めやすい)

 

如何でしたでしょうか。改めて今回の質問に回答したいと思います。

  1. ざっくりとコートのオーダーの注意点 → 記事全体(またはまとめ)をご覧ください
  2. カジュアルとフォーマルの分かれ目になるポイント → 着丈が一番大きく、次いでスタイル、生地の質感とボタンのディテールでしょうか
  3. コートに合う上質な裏地 → ジャケットの時とあまり変わりが無いように思います
    ボタンの種類による印象の違い → 色が暗い程落ち着いて見え、チェスターのように比翼にして隠すと、最も畏まった印象になります
  4. コートの種類による印象や、使い方の違い → 項番4「スタイル選び」をご覧ください

 

以上、ご参考になりましたら幸いです。

 

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