ビスポーク(オーダースーツ)

通販型のオーダースーツはアリか

投稿日:平成28年(2016) 8月21日 

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皆さんはオーダースーツを着る機会がありますか? (このサイトをご覧の方は多そうですが^^;)

嗜好の多様化によって、紳士服業界が全体的に縮小する中、より自分にあったオーダースーツの需要が増えているようです。

最近、ネットで「オーダースーツ」と検索すると、通販タイプのテーラーに関する広告や記事が多くなったように思います。そこで今回は、通販でのオーダースーツにはどんな問題があるのか、どんな対策があるのか、実際に利用したことがある者の一人として、考えてみることにしました。

 

1.ネット通販のオーダースーツとは?

私はもっぱら、個人のテーラーやオーダースーツ専門店等で仕立てる事が多いのですが、食わず嫌いは良くないと興味本位で何度か仕立てたことがありました。

結論から書いてしまうと、あまり満足の行く結果にはなりませんでした。

仕組み

基本的な流れは、普通の店舗で注文するオーダースーツと変わりません。

違いは、生地選択~入金までをWEB上で簡単に行うことが出来る点です。自宅にいながら注文できる、店で応対順番待ちをしなくて済む、人件費や店舗の維持費が無いため価格が安い、などの様々なメリットがあります。

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しかし、ほとんどの選択をWEB上で実施するというのが、自分に合ったオーダースーツを作るという目標を難しいものにしているのでは無いかと考えています。

このフローに沿って、詳しく見ていきましょう。

 

2.生地をどう選ぶ?

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質感や色合いがわかりにくい

リアルでもネットでも、スーツのオーダーは生地選びから始まります。

しかし、ここでいきなりWEB越しオーダーの関門が。WEB画面からは、生地の質感や色合いの確認が難しいのです。

たとえば、グラム表記である程度の厚さは分かりますが、撚りの強さによって、軽くても厚い生地、重くても薄い生地が沢山あります。

また、PCやスマホの画面は色合いの調整が難しいため、正確な色はほぼ出ないと思った方が良いです。

店頭で実物の布を確認する場合であっても、太陽光の下で色合いを再確認しなければならないほどなのに、画面越しでは言わずもがなでしょう。

店側の撮影機材、編集用のPC、そして私たちが見る画面の少なくとも3つの機器間で色合い調整(キャリブレーション)が必要になるからです。そして、いくら調整がされていたとしても、プロ用途でかつ日頃メンテされたディスプレイで無い限り、正しい色合いを表現することは出来ません。(特にスマートフォンの場合、画像を美しく見せるために、敢えて現実から色合いを変えている場合が多いです。)

現物を確認する大切さ

もし、店側がバンチブック(生地の見本帳)を貸し出している場合は、極力郵送してもらい、現物を確認しましょう。

ただ、無地ならばバンチでも良いのですが、柄物(ストライプや格子柄)は店頭で実際に現物を見たり、肩から掛けて確認しないと、仕上がりがイメージしづらいです。ここもWEB経由だと難しい点です。

 

3.デザインをどうする?

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WEB画面に適切なヒアリングが可能か

続いて、スーツのシルエットを選ぶスタイル選択、ボタンや裏地、ポケットの形状などの詳細を決めるディテール選択に入ります。

通常は、テーラーが私たちにインタビューし、私たちがテーラーに要望を出しながら、双方向的に決定をしていきます。

しかしオーダースーツ通販の場合は、画像と文章で表示されるWEB画面から、選択肢を淡々と選ぶというスタイルになります。

私たちから正しく要望を引き出し、間違いなく記入/反映させるWEBシステムを、店側が作成できるかが、大きな鍵になるわけですが、実際はとても難しいと思います。

相対でコミュニケーション出来るリアル店舗でも、利用者がテーラーに説明したものと、テーラーがこれをヒアリングして設計した物と、工場/職人が作り上げた服(さらに付け加えると、利用者が真に必要としている服)は、多かれ少なかれ差異があることが現実です。利用者側が店と工場の特性やクセを熟知した上で無ければ、WEB画面からの注文はかなりハードルが高いのではないかと感じています。

見本写真などで仕上がり確認を

店によってはこれまで作られた服が見本のようにして閲覧出来る様になっています。

完成してからイメージと違った、とならないように、完成見本と似た様なディテールを選ぶことで、リスクを低減することが出来ます。

完成見本が無い場合は、たとえば紺色の生地にはグレーか青系統の裏地、ボタンは濃いめの水牛など、保守的/無難な選択で我慢することが重要になります。

いずれもオーダースーツの醍醐味を減らす行為ですが、店員のヒアリングとアドバイスが無い状況下、スーツという単価の高い製品の失敗リスクを避けるためにはやむを得ないかもしれません。

 

4.採寸はどうなる?

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セルフ計測の難しさ

通販型オーダースーツの採寸は、大きく分けて4種類有るようです。

1)自分自身を採寸する方法

1つめは、自分で体のサイズを測る方法。巻尺を使って、首回りや胸回り袖丈……といった具合に計測していきます。

しかし、たとえば胴回りを、キツく測ったときと緩く測ったときで3センチ以上平気で違ってしまうように、自己計測はとても難しい物です。また、肩幅など物理的に計測が難しい箇所もあります。

2)基準となるサイズから修正する方法

胸回りのサイズや、吊し(既製品)のサイズを入力すると、寸法の基準が自動算出され、適宜修正する方法です。

しかし、いずれにせよ自分で計測して修正するわけですから、極端に誤った数値を入力するリスクは無くなりますが、1)の根本的な解決には結びつきません。

3)手持ちのスーツから採寸する方法

これは、普段着ている服を自分で採寸したり、店に送りつけたりして、採寸する方法です。

1)や2)よりハードルは下がりますが、その手持ちのジャケットが完璧な1着であることを望むばかりです。

4)店で採寸して貰う方法

生地やディテールはネットで注文するものの、採寸は店舗で、という手法の店もあるようです。

ただ、人件費や店舗維持費がかからない事による低価格が、通販型の一番のウリのはず。それを殺してしまうことになるというデメリットがあります。

1着目は仮縫い。一番安い生地で

標準体型に近い方は、2)の方法で1着目から満足の行く結果が得られる可能性が高いです。しかし、異なる方は「1着目は仮縫い」と割り切る覚悟が必要です。

実店舗のイージーオーダーでも、店員のスキルが低い場合に「1着目はサイズが合わないことが多いため較正(こうせい)用と割り切り、2着目を本命とする」という考え方があります。上記の場合、これと同じ対応をとらざるを得ないという意味です。

1着目はその店で一番安い生地を使って仕立て、これを他人にも見て貰いながら不格好な所を把握したうえで、2着目で丁度良いサイズになるようにします。

ただし、それでも「可動部分の引っかかりを解消」したり「シワや浮きを無くしたりする」サイズ調整を、素人がどう把握し、かつWEB画面にどう反映すれば良いのかなど、課題は残されています。

 

5.終わりに

今回の結論は、通販でオーダースーツを作ることは、小手先の対策はあるものの、抜本的な技術的ブレイクスルーが無いと、スーツ製作のメインストリームたり得ない、というものでした。

そのため、私の場合、シャツをネット通販で頼むことはあっても、スーツやジャケットなどは注文する事がありません。

この記事をご覧の方で、「今はこう言う仕組みがある」「こう工夫して発注すれば良くなる」「こんな活用をしている」などのご意見がありましたら、是非コメントをお寄せ戴ければ幸いです。

 

 

6.(オマケ)通販型オーダースーツのメリットと、今後

色々書いてしまいましたが、通販型オーダースーツには店舗型には無いメリットがあります。最後にそれを考えてみたいと思います。

① 価格が安い

※ 下記の金額は、他業種の人間(私)が店側にそれとなく聞きつつ、妄想で試算した金額ですので、正確性は無いものとお考え下さい

オーダースーツは接客に時間がかかります。私の場合は、最低でも1着の注文に1時間は店員を拘束してしまいます。

店員の給与にも依りますが、最低でもその店員の人件費約6,000円分(社会保障費込みで原価1時間4,000円、粗利益が30%として)はスーツに乗せられているわけです。これに店舗の維持費を按分して上乗せすれば、1万円位になるでしょうか。

さらに、この1万円は常に接客している状況での1万円ですから、実際には客待ち中(待機稼働)の金額が上乗せされ、仮に稼働率70%としても、1.5万円となるわけです。

この「基本的に接客はマンツーマンかつ長時間」というのは、多くの客を一度にさばくことが出来ないことを意味し、オーダースーツ業界の仕組み上の課題に思います。店も客を待たせない為に(機会損失を減らすために)店員を複数人配置するなど対策をしますが、客足が鈍る時季/時間帯は、接客をしていない(売り上げを産んでいない)店員が増員した分だけ発生し、利益率が悪化します。

イージーオーダースーツが1着5万円として、3割が店舗の費用(利益込)となるわけで、言い換えれば通販型にするだけで、この部分を割り引ける可能性が残っているワケです。

② 注文したいときに注文できる

もちろん、サイトの制作・維持費や、問い合わせ対応人員を配置する必要はありますが、店側にとっては上述した「店員数以上の客を同時に相手できない」「注文を取りきれない」問題という、ネックを解消することが出来ます。

私たち利用者側からすると、注文したいときに何時でも注文できる、というメリットになります。忙しい方にとっては、最大のメリットになるかも知れませんね。

③ 他人と顔を合わせずに注文できる

「服を買いに行く服が無い」というギャグがありますが、実際にそういう悩みを抱えている方が居るのも確かです。

また、なるべく他人と会話したくない、(有料オブションのボタンや裏地など)無駄な売り込みを受けたくないという方にとっても、メリットかも知れません。

通販型オーダースーツの今後

逆に考えると、生地選択、デザイン選択、採寸の3つの課題さえクリアできれば、オーダースーツがかなり身近になるのは間違い有りません。

仮想現実や拡張現実など技術面の発達――たとえば、スマホなどで正確な採寸、生地/ディテールイメージの投影/把握が出来る様になれば、通販型オータースーツはかなり化ける産業になるかも知れませんね……。

私個人としては、スーツはテーラーとの会話の中で二人三脚で作り上げるもの、という信条――というか楽しみがあるので、一部活用はすれど全面的に乗り換えることは無いと思います(^^;

 

 

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