スーツをオーダーするときに気をつけることは何でしょうか?
今回は、自分を含む、これまでスーツをオーダーしてきて「あれは止めておけば良かった」という意見の中から、万人に共通しそうな点を5つご紹介します。
スーツをオーダーする前の、特に初心者の参考になれば幸いです。
(とはいえ、ファッションに正解は無く、自分の着たいもの、見せたいものを纏うのがベストですので、「こういう意見もあるんだ」程度にご覧下さい。)
1.一着目から高い生地
どんなに腕の良いテーラーも、素晴らしいシステムを導入している店でも、1着目から完璧なスーツは作れません。
誤解されがちですが、これは中縫いや仮縫いをしたとしても同様です。
なぜなら、テーラーの採寸・デザイン・好み、自身の体の特徴・着用感覚・外観上の好み・慣れ、工場や職人の縫製・クセ、等々多数の――それも未知の変数を抱えたまま、限られた費用と工程のなかで、初回から完璧な最適点を当てることなど不可能だからです。
入社や昇進など、祝い事に奮発してオーダースーツを……というケースは多いかと思います。しかし、「オーダーなのだから高い生地で」と初回からやってしまうと、タンスの肥やしが出来上がることになります。
何着か作り、試行錯誤する中で改善していくことが重要になるわけです。
初回のオーダーは、オプション少なめ、普及価格帯の生地で、オーソドックスなものに挑戦してみて下さい。
2. 思想のない糸色変更
スーツのオーダーをしていると、自身のスーツがオーダーであることを主張したくなります。
しかし、腕時計なら外観からブランドが分かりますが、スーツは外観から高い/安いがわかりにくいアイテムです。
そこで手を出し始めるのが、手軽にできる糸色を使ったデコレーションです。
多いのはフラワーホール(下襟上部の飾り穴)の色を変えたり、派手な色のステッチを入れたり、カフのボタンホールに色を付けたり、といったものです。
もちろん、配色のバランスや、アクセント色を拾う等、デザイン上の明確な思想が有ってのデコレーションならば美しいのですが、「オーダー顕示」「高価格顕示」のためのデコレーションは、芋臭く、痛々しく見えてしまうのは私だけでしょうか?
3. 狭すぎる/広すぎるラペル
多数派から距離を置き、自身の特徴を出して差別化しようとするとき、スーツの世界ではラペル(下襟)の幅を極端に広くしたり、逆に狭くしたりする傾向があります。
オーダースーツの場合は、流行の最先端を行こうとしたり、より格好良く見せたりという企業努力の末に行われることが多く、30歳~40歳代の、イキったテーラーとイキった顧客が集まる個人経営店に多い印象です(← 偏見)。
オーダーの最中や納品当初は、イキったスーツに特別感を覚えます。しかし、数ヶ月後に社内や客先で周囲を見渡して自分を客観視したとき、または2~3年経って流行が少し変化したとき、ちょっとやり過ぎたかな……と後悔することがあります。
女性のファッションのように、1年着て捨てていくというサイクルならこれでも良いのですが、男性のスーツは長く着られるものです。長く着たいのであれば、流行に全振りしたデザインは避けた方が無難です。
ビジネススーツにおいては、中庸から少し自分の好みや流行に振ったデザインが、出番を増やし長く着られるコツです。
(なお、個人的にはクラシカルなデザインが好きなので、好みとしては主流サイズ+1センチ程度です。今なら9~9.5センチ程度でしょうか。)
4. 極端な短丈(ジャケット、ズボン)
スーツが醸し出す「大人な落ち着き」は、ともすると「野暮ったさ」に捉えられることがあります。
そして、これを解消するために採られるのが、ジャケットやズボンの丈を短くすることです。若年層をターゲットとした店や、ブランドで顕著な印象ですね。
丈を短くするメリットとしては、スポーティで軽快な印象になることです。
しかし、週末用カジュアルジャケットであれば問題無いのですが、ビジネス用のスーツで丈を短くしすぎると「軽快」から「軽薄」にシフトします。
目安としては、ズボンなら立ったときに靴下が見えてしまうサイズ、ジャケットならお尻が半分を超えて露出してしまうサイズは注意が必要です。
5. いろんな店を試し歩く
オーダースーツが好きになると、いろいろ調べて、いろんな店に行きたくなってきます。
また、万全を期したはずの渾身の一着が、なんか納得いかない……となると、違うテーラーも試したくなります。
もちろん、本当にそのテーラーとの相性が悪いのであれば店を変えた方が良いのかも知れませんし、様々な店でオーダーすることは貴重な経験に繋がります。
しかし、オススメしたいのは、よほど酷い対応をされたので無ければ、最低3着は同じ店で作ってみてほしい、ということです。
冒頭の「一着目から高い生地」と同じ話ですが、初回から完璧なスーツはどんなテーラーでもできません。
1着目でオーソドックスなものを作り、2着目で1着目の改善項目を吸収し、3着目で多少遊びを取り入れる。その時点で自分の満足するものが出来上がったかを確認してみて下さい。
個人的な経験から申し上げると、テーラーにも得意不得意があります。お堅いビジネススーツが得意なテーラーもいれば、週末のジャケパンが得意なテーラーもいます。縫製やフィット感がピカイチだけどデザインがまぁまぁだったり、その逆もあったりと、色々です。
一つの店と一蓮托生しろ、というわけではありません。3着作って、色々見極めてから、新規開拓をするのはどうでしょうか?
終わりに
冒頭申し上げたとおり、ファッションに正解はありません。自分の着たいもの、見せたいものを纏うのがベストです。
今回はその前提で、あえて自分の体験から後悔したな、と感じたことを5つに纏めてみました。
……はい、一発目を高級生地で作ったり、イキって太すぎるラペルにしたり、派手な糸色にしたのは良い経験でしたが、確実に着用頻度が低かったですし、寿命は短いスーツになってしまいました。また、周囲から見ると、少しコスプレチックになっていたことは否めません。
ただ、協調性を求められるサラリーマンと違い、経営者や個人事業主の方などは、それで自分のキャラクターを確立するという方法もあるので、一概には言えません。そういった方は、ある意味衣装感覚/看板感覚で、極端に振ったデザインも良いと思います。
なお、こういう「○○べからず」系の話を聞きすぎると、初心者の方はオーダースーツに踏み出すのを気後れしてしまいそうですが、恐れる必要はありません^^;
次こうしてみよう、ああしてみようと考えているときが一番楽しいものです。この手の話は参考程度にとどめつつ、まずは1着オーソドックスなものを作ってみて、テーラーと相談しながら自分の理想に近づけてみて下さい。