本格的な革靴の靴底は、靴底がすり減っても修理し、何年も履き続けることが出来ます。この修理を、オールソール(交換)などといいます。
今回は、このオールソールについて、どんな靴が可能なのか、必要なタイミング、修理の申込先、費用などについて考えます。
なお、どうしてもオールソール交換は値段が高くなるため、安く抑えたい場合は部分的/応急的な修理も要検討です。詳細は第1回の記事を参照ください。
- 靴底の修理1:パーツ別に修理方法、タイミング、延命策などを考える
- <今回> 靴底の修理2:革靴のオールソールのタイミング、費用、申込先などを考える
- 靴底の修理3:実際にオールソールをしてみました
1.オールソールとは?
オールソール/オールソール交換とは、名前の通り靴底全体を交換する修理のことです。
革靴はデフォルメして言うと、①表革、②中敷き、③靴底(かかとを含む)の3つから構成されています。
そして、一番摩耗が激しいのが③靴底で、これを交換することで10年以上同じ靴を履き続けることが出来ます。
同じ靴をはき続けるメリット
当然「そこまでして同じ靴をはき続ける意味はあるの?」という疑問をお持ちの方もいることでしょう。
深い話なので本稿では軽く触れるだけにしますが、私としては下記のメリットがあると考えています。
- 外観上の利点:エージングが進んだ靴は、雰囲気に深みが出るため、見た目が良い
- 履き心地上の利点:靴は履き続けることで、予想を超えて足に良くなじむ事がある。上手な店に頼むことで、この履き心地を維持できる
- 経済上の利点:安価な靴でなければ、オールソールによる靴の延命は、買い換えに比べ経済上のメリットが出る
ただ、このようなメリットがあるとはいえ、これらは個人的には後付けの、他人に推奨する際の説明であって、そこまで重要視していません。あまりロジカルな話ではありませんが、行動やスタイルとして、良いものを手入れしながら長く使いたい、という思いが一番の動機です。
オールソールができる靴とできない靴
次に、オールソールができる靴の例を見てみます。
まず、オールソールは靴底と靴本体が糸で縫い付けられているタイプの靴で行うことができます。そのため、安価な靴に多い、接着剤のみで靴底がとりつけられているタイプ(セメンテッド製法)の場合は、基本的に出来ません。
代表的な製法
流通量が多く、オールソールが可能な製法としては、グッドイヤーウエルテッド製法、マッケイ製法、ハンドソーンウェルテッド製法などがあります(この中で一番多いのはグッドイヤーでしょうか)。
セメンテッド製法であっても、デザイン的に外観をグッドイヤーウエルテッド製法に似せている靴があるため、オールソール出来るかについては、プロ(購入時は店、修理時は職人)に確認してもらうのが一番です。ただ、概ね定価3万円以上の靴に多い印象です。
そして個人的には、1万円以上の費用を掛けてオールソールするのであれば、ある程度良質な靴を購入し、よく手入れして生かし続けるのがオススメです。
もちろんリーズナブルで良質なラインナップがあるメーカーもあります。オススメは日本のリーガルとスコッチグレイン。デザインは賛否の分かれるラインもありますが、革質、縫製品質、そして直営店のレベルが高い印象です。
2.オールソールが必要なタイミング
続いて、具体的にどんな状態になったらオールソール交換をすべきなのか、を考えてみます。
① 靴底に穴が開いた(必須)
当然、ソールに穴が開いたら、使用を即中止してリペアに出すべきです。
もちろん、前回の記事で紹介したように、ソールにラバーを張って履き続けることも出来ます。
しかし、履き心地は大分変わるので、革底の良さを継続して味わいたいのであればオールソールの出番です。
② 靴底が薄くなり始めた(推奨)
穴が空いてから使用し続けると、中に入っているコルクが漏れ出てきたり、中底部分にダメージが出たりします。また、そもそも、履き心地も悪くなります。
さらに、仕事で革靴を履いているのであれば、客先を回っている途中や、出張中に穴が空いたら最悪ですよね。
そうならないために、薄くなった段階での予防交換もお勧めです。
手入れで確認する
手入れの際、親指で靴底を軽く押してみて、すぐへこむようなら革がかなり薄くなっています。
普通に履いているだけでは気づきづらいため、普段の手入れでソールオイルを塗ったり、靴底に触る習慣をつけることで、気づく機会が増えると思います。
点字ブロックで気づく
街中や駅の中には、盲人用の点字ブロックがあると思います。
写真のような、点状ブロックの上に乗ったとき、足がかなり刺戟されるな、というときも薄くなっている徴候です。
③ 複数箇所が傷んだ
つま先だけ、かかとだけなど、前回の記事で取り上げたパーツ別修理で対応できるのであれば、安価に済むのでそれも良い選択です。
しかしオールソールは、つま先、かかと、ソールの全箇所を同時に交換することになります。
つまり、複数箇所が痛んでいるのであれば、オールソール交換の価値がグッと上がるというわけです。
3.オールソールはどこに頼めば良いか
続いて、オールソール交換はどんな店に頼むべきかを考えてみます。
① メーカー修理
一番確実なのはこれです。多くの伝統的なシューメーカーでは、自社製品のオールソールを受け付けています。
なかでも、国内メーカーは良心的な価格でオールソールできます(スコッチグレインの匠JAPANなどは有名です)。
しかし、海外ブランドの場合は、本国への輸送費用などがかさみ、高額な修理代金がかかる場合があります。
そういった事情もあり、本国修理と並行して提携する国内修理専門店行きのメニューがあったり、国内代理店では修理を受けず修理専門店を紹介するのみのメーカーもあります。
こんなシーンで使える
絶対に修理を失敗したくない、純正ロゴの入ったパーツを使った修理をして欲しい、など。
② 駅ナカのチェーン店
靴の修理店として思い浮かぶのが、駅ナカにあるチェーン展開の靴修理店でしょう(東京ではミスターミニットが代表的です)。
確かに、アクセスがよく比較的低価格な場合が多いのですが、オールソール交換となると、その店舗では受け付けておらず、工場に送るパターンがほとんどのようです。
品質的には画一でハズレはないものの、価格的に専門店と大差なく、工場扱いになると納期もかかるため、個人的には信用のおける専門店の職人に頼むことが多いです。
こんなシーンで使える
仕事が忙しくて店に持ち込む時間が無い、都心を訪れる機会が無いなど。
③ 靴修理有名店
都心部に限られますが、革靴専門の有名修理店があります。
名が知られているところだと、ユニオンワークスやRESHあたりでしょうか。
前者は有名靴ブランドの公式リペアを担当しているなど、品質は高いです。また、レアなパーツも多く取りそろえているため、様々な靴の修理に対応できます。
ただ、最大の欠点は価格が高いこと。伏せ縫いのオールソールで2万円位します。
こんなシーンで使える
頼れる店が無いが大事な靴を頼みたい、というシチュエーションではオススメです。
④ 個人の靴屋/修理屋
個人的なオススメはこのパターンです。
腕の良い職人を見つけることが出来れば、③の有名店レベルのリペアを、6~7割くらいの価格で受ける事ができます。
一方で、職人1~2名の体制が殆どのため、組織化されていない故のデメリットもあります。例えば、業務繁忙で納期が不安定になったり、素材の在庫/調達能力に限界があったり、クレジットカードが使えなかったり……といったものです。
こんなシーンで使える
修理店と長く付き合い安価で品質の高い修理を受けたい、職人と直接会話をしてみたいという場合にはオススメです。
4.オールソールの費用
最後に、オールソール費用についてまとめてみます。
多くの靴修理店では、工賃と材料費によって価格が決まります。 工賃は、通常のオールソール代金に加え、靴底に縫い目を隠すヒドゥンチャネルにする場合や、ビンテージスチールなどを取り付けるための費用がオプションでかかります。
材料費は、革底の材質、具体的にはラバーであれば種類、革底であれば種類やタンナー(革の鞣しメーカー)によって価格が異なります。
代表的な費用
地方の個人経営の店であれば、一番安いラバーソールへの交換で8千円、革底なら1万円くらいでやっているところもあります。
一方で、都心の有名店になると、最安でも2万円弱、ヒドゥンチャネルも別料金の事が多く、2万円を超えてきます。
駅ナカは、多くが工場扱いになるためそこまで安くなく、ラバーのオールソール交換で1万3千円~でした(ミスターミニットの場合)。
メーカー修理だと殆どの場合有名修理店よりもさらに高額になりますが、スコッチの匠JAPANは例外的に安く1万2千円~でした。
5.最後に
個人的な理想はこんな感じです。
- 日頃手入れしつつ、革底の状態をチェックする
- ウエルト部分にダメージが出たり、ソールに穴が空く前にリペアを決断する
- 自宅近所や勤務先の周辺に良い個人経営の靴屋/修理店を見つけ、職人と仲良くなっておく
- 職人に相談しつつ、定期的にリペアを依頼する
- スコッチグレインの製品だけは、匠JAPANに依頼する
と言いつつも、実は先日、贔屓にしていた近所の個人経営の店が、残念なことに閉店してしまいました。
以来、新しい店を探しているのですが、自宅や勤務先周辺では見つけることが出来ていません。
そんな中、ついに一足の靴が要オールソールの状況に。そこで、以前から目をつけていた宅配便で靴修理を受け付けている個人経営の店に、人柱で依頼してみることにしました。
その店は、靴のビスポークもしていて、日頃綺麗な写真をブログにアップしていた靴工房です。実はかれこれ5年くらい、靴の画像や製作工程を、一読者としてニヤニヤと定期閲覧していました。
ということで次回は、その店とのやりとり、Before/Afterの画像、感想などをご紹介したいとおもいます。