ビスポーク(オーダースーツ)

オーダースーツは本当に最良の選択か?

投稿日:平成28年(2016) 4月9日  更新日:平成30年(2018) 8月15日 

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良いスーツを求めると、必ず出てくるキーワードが「オーダースーツ」です。自分の体格に合った、腕の良い職人の仕立てるフルオーダーのスーツは、既製品全盛の今でも常にもてはやされています。

もちろん、フルオーダーはそれなりに高価ですから、金額面から敬遠する人が多い事も事実です。しかし、お金に余裕がある人の中にも、見栄えの問題からオーダースーツを嫌う人もいます。

これまでオーダースーツ肯定派の意見ばかりを紹介してきましたので、今回は否定派の意見をもとに、本当にオーダースーツは自分にとって最良な選択なのかを、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

1.オーダースーツとは

※ オーダースーツって何? という方向けの解説です。ご存知の方は読み飛ばして下さい。

服はもともと職人個人の手によって、一着ずつ受注生産で仕立てられていましたが、いまではその殆どが工場のラインで在庫として生産され、販売されるようになっています。

オーダースーツには既製服を受注生産にし、決まった生地やサイズから選べるようにした「パターンオーダー」、コンピューターを使って詳細なサイズ変更を可能にした「イージーオーダー」があります。

何れも工場のラインで生産されるファクトリーメードで、縫製品質は既製服と大きく変わならいことが殆どです。

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一方で、昔ながらのフルオーダーも生き残っています。

機械やライン生産による製図/裁断/縫製が主体のパターンオーダー/イージーオーダー/既製服とは違い、職人の手によって型紙作成/裁断/縫製されるスーツの事をいいます。

個々人の体型に沿った型紙の作成や仮縫いが行われるため、体に合ったサイズ、楽な着心地、高い自由度、手作業による美しい仕上がりなどが特徴です。

※ もっと詳しく知りたい方は「サラリーマンのためのオーダースーツ講座」もご覧下さい

 

2.既製服で十分?(消極的否定)

オーダースーツ否定派の意見として「サイズが合うなら既製品で十分。わざわざオーダーする必要もない」というものがあります。

たしかに、同じ工場縫製のパターンオーダーやイージーオーダーに対しては、意見としてもっともだと思います。また、消極的否定ながらも、一番多い主張だと思いますので、まずはこの点から考えてみます。

標準体型の意味

既製服は、体型や身長によるサイズ展開こそあれ、基本的には標準体型をもとにして作られています。この標準体型とは、人間の(日本のメーカーの場合は日本人の)より多くの人がフィットする体型のことです。

聞こえは良いのですが、大まかに言うと実態は以下の通りです。(註:あくまで概念図で、正確な分布ではありません。)

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たしかに、一番人数が多くなるところを基準に作られてはいますが、そもそも緑色の部分「ぴったり」の割合が、全体に比べて少ないのです。(一番人数は多いが、カバー率が低い。)

そのため、多くの人が、黄色の部分「少し小さい」「少し大きい」で気づかない、または我慢をしたり、赤い部分「大きすぎ」をお直しによって「少し大きい」に修正して着たりします。

もちろん、メーカー側も下図の様にサイズ展開を増やす事で、極力体型に合うよう努力しています。しかし、サイズ展開はあくまで収益が見込める範囲でしか細分化されず、またサイズは服の至る所で合わせる必要があるため、全ての部分が「ピッタリ」になることは難しいことが分かります。

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合う人にとっては既製服が最良の選択だが……

もし、ご自身が選ばれし標準体型の持ち主でしたら、(同じ工場縫製であれば)オーダーによる補正は意味が無い事も確かです。

プレタポルテなどと呼ばれる高級既製服も最近では多く出ており、合うサイズがあり、生地も気に入れば、良い生地や縫製にこだわる人も既製服が十分選択肢に入るのでは無いでしょうか。

 

3.オーダースーツを積極的に嫌う人々

一方で、別の理由でオーダースーツを嫌う人たちもいます。「既製服で十分」ではなく「既製服の方が良い」という考え方で、いわばオーダースーツに対する積極的否定派と言えます。

彼らの意見は2つに集約されます。

  1. よほど見た目に優れた肉体で無ければ、スーツを体にあわせすぎる事で、自身の醜い部分が表面に露出してしまう
  2. バランスのとれたデザイナーのパターンを、体型補正の名の下にゆがめられ、崩されてしまう

どちらも似た様な意見に見えますが、1は主にフルオーダースーツに対して、2はイージーオーダーに対しての批判で用いられる事が多いです。

まずは、1の主張について、検証してみましょう。

 

4.フルオーダーは醜いか

否定派の主張

フルオーダーは「体格に合った、着ていて楽な着心地が得られる、高い自由度、手作業による美しい仕上がり」などが特徴と、先述しました。

この「体格に合った」のデメリットが大きすぎるというのが、積極的否定派の意見です。

彼らに話を訊くと、ここで言う体格の合ったというのは、サイズが合っている事とは別の事だと言います。サイズを合わせるのはスーツを美しく見せる基本ですが、フルオーダーはサイズを合わせた上で、さらに体に沿うよう作ってしまうので、醜くなるという考えです。

デザイナーとしてのテーラー

私は以下のように考えます。

「体に沿うこと、着心地の良いことを優先するテーラーもあるが、デザイナーとしての実力があり、かつその振る舞いを心がけているテーラーは、常に補正後のシルエットやデザインを気に掛けているので、そういったデメリットは発生しにくい」

もちろん、シルエット/デザインと着心地はトレードオフ(二者択一)の関係にもありますが、テーラーの腕次第でそれらを両立することも可能だと考えています。

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もちろん、腕の良いテーラーを探すのは大変ですし、そもそもメゾンブランドのデザインが好きなどという場合はフルオーダーは選択肢に入らないかも知れませんが、自身の良いところを引き出し、美しくない部分は隠しつつ、デザインに優れた服を仕立てるテーラーが居ることも事実です。

 

5.イージーオーダーは崩れているか

イージーオーダーは、体型補正の名の下にデザインがゆがめられているという主張について。

これはもっともな意見だと思います。ただ、工場側もよく理解しており、体型別にパターンを用意したり、補正数値の上下限を設定したりと、数値の極端な変更によってデザインが崩れないような努力をしています。

店舗側の努力も大切です。工場のパターンとその修正時のクセを、いかに店員が理解しているかが、デザインを崩さない重要なポイントだと思います。フルオーダーのように、パターンを直接デザインすることは出来ませんが、店員の力量が試されるところです。

この様に、完全に崩さないことは難しいですが、工場や店員の努力が有れば、一定の水準を保つことが出来るのでは無いかと考えます。

サイズ変更時のデザインの崩れは、現在は予め設定された函数によって修正しているとのことですが、将来的には人工知能の活用により、今よりも違和感なく修正出来る様になるのでは無いかと期待しています。

 

6.まとめ

  1. 【消極的否定派】イージーオーダーとパターンオーダーは、縫製面では既製服と変わらず、既製服のサイズが合えば敢えてオーダーする必要は無い、という意見がある
    • 既製服のサイズがピッタリ合う人は少ないため、オーダースーツは活用されるべきではないか
    • サイズが合う場合でも、好みの生地やデザインが選べる点で、オーダースーツを活用するメリットはある
    • 上記ニーズが無ければ、既製服のみでも良いと考える
  2. 【積極的否定派】フルオーダーは、自身がよほど見た目に優れた肉体を持たなければ、スーツを体にあわせすぎる事で、自身の醜い部分が表面に現れてしまう、という意見がある
    • 体に沿うことを優先するテーラーもあるが、デザイナーとしての実力があり、かつその振る舞いを心がけているテーラーは、そういったデメリットは発生しない
    • 但し、腕の良いテーラーを見つけるのは難しい
  3. 【積極的否定派】イージーオーダーは、体型補正をすることでデザインが崩れてしまう、という意見がある
    • 体型別のパターンを用意したり、補正できる範囲を限定するなどの努力は続けられており、それらの特性を把握した店員であれば、そこまで崩れることは無い

 

服好きの知人(かなりの先輩ですが)から貰ったメールが、今回のエントリーの切っ掛けになりました。

要旨は、「オーダースーツは体の悪い点が分かるのでプレタが好き」「日本人は背中が扁平気味なので直しが上手なところで買う」「体にあう洋服を作らせるよりも、デザインの良い洋服が似合う体を作ることが重要」というものでした。

オーダースーツ好きな私としては、上記の考えに完全に同調するわけではありませんが、オーダースーツ至上主義(特に、フルオーダースーツ至上主義)の問題点を指摘し、冷静な判断を促す点で、とても重要な指摘だと感じたので、最後にご紹介しました。

 

皆さんはオーダースーツをどの様に捉えますか?

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