前回までに、1着目のスーツをイージーオーダーで作りました。
1着目は仮縫いと割り切り、ウール100%ですがなるべく安い生地で、
かつ、オプションなども出来るだけつけずに、安価に済ませることをお薦めしました。
それでは、2着目以降はどの様にすれば良いのでしょうか?
逆に、どの様な選択肢があるのでしょうか……?
今回は、脱イージーオーダー初級者を目指して、スーツ作りの「遊び」も考えていきたいと思います。
■ まず考えるべきは、サイズ感
2着目を作る場合、まずは1着目のスーツを着て、姿見(全身が映る鏡)の前に立って下さい。
できれば、ネクタイも締めて。
見るべきポイントは主に以下の9点です。
- 上衿のサイズ(首の後ろがシャツの衿にピッタリくっついているかどうか)
- 肩幅(小さすぎるとモード寄りになりますが、先端が落ちていると広すぎです)
- ラペル(ラペル<下襟>が胸から浮いていないかどうか)
- 胴回り(ボタンをしめた状態で内ポケットに手を入れられるか、逆にブカブカで無いか)
- 着丈(服の裾<すそ>の長さ;人それぞれの好みですが、時流に大きく外れていないかなど)
- 袖丈(袖<そで>の長さ;シャツ<のサイズに自信が無いときは腕時計>が1-2cmくらい見えるか)
- ズボンの幅(座ったときに膝が突っ張らないか、逆にだぼついていないか)
- ズボンの丈(これも好みですが、今時はハーフクッション<靴の上にすこしたわむ程度>が多い)
- 全身に出ているシワ(サイズが誤っている場合、その多くはシワとなってスーツを醜くします)
これらは全て、サイズに関する問題です。
2着目を作る際は、これら1着目からのフィードバックを参考に、より適切なサイズを追求します。
イージーオーダーは仮縫いが無いため、上記のうち初回2~3点は問題が出ることを覚悟して下さい。また、これらのポイントは、出来れば他の人と一緒に点検してみて下さい。その後、フィードバックを1着目と同じテーラーにし、2着目を誂えましょう。
(別のテーラーでも良いですが、「××を○cm詰めましょう」というのが難しくなります)
スーツはサイズ感が非常に大事です。
サイズを完成させたうえで、ディテールなどの遊びに手をつけるべきだと思います。
■ ボタンで遊ぶ
実は、生地の次くらいに印象を大きく左右するのはボタンなのです。
スーツ然と見える紺のジャケットも、薄茶のナットボタンに取り替えるだけで、
見事に週末用のジャケットに様変わりします。
ボタンの良いところは、店に頼まなくても自分で付け替えられるところ。
雰囲気が合わないな、と思ったら、取り替えてしまいましょう。
トラウザーズ(ズボン)が傷んで使えなくなったスーツも、ジャケットに転用できます。
残念なのは、チェーン店にはボタンの種類を沢山用意している店が少ないこと。
大抵の店では、練りボタン(カゼイン)、水牛ボタンのそれぞれ艶有り/無しがあるくらい。
逆に、個人店は店主自ら買い付けることができるため、沢山の種類から選べることがあります。
■ 生地で遊ぶ
生地は沢山の種類があるので、最初に遊びたくなるのですが、慎重になることをお薦めします。
というのもすぐに下品になってしまうからです。
どうしても、光沢のある生地は美しいので選びがちなのですが、そこで思いとどまる勇気が大切です。
パーティ用、舞台用の衣裳だったら良いのですが、昼の生活に必要以上の光沢は不要です。
10%以上のシルク混、40%以上のモヘヤ混、単糸のSuper120以上は注意して下さい。
また薄い色、グレー/紺以外色(黒、茶、緑、ベージュ)は慎重に判断して下さい。
また、以下に生地選びのTIPSを列挙しますので、参考にして下さい。
- 番手が細い生地の方が耐久性が低くなる傾向にある
- 番手表示が高いからといって、必ずしも高級なわけでは無い
- イタリア系は単糸(光沢が強い)、イギリス系は双糸(耐久性が高い)が多い
- 日本製の生地も良い物が多く、選択肢から外さない方が良い
- ストライプシャツが多い人は、ストライプ生地を選ぶ際には慎重に(コーディネートの幅が狭くなる)
- バンチ(生地見本)は色合いの判断が難しいので、なるべく現物から選んだ方が良い
- 柔らかい生地の中にはスーツに不向き(弱くてトラウザーズに不向き)な生地があるので注意
以上を踏まえ、面白い生地を探すと良いのでは無いでしょうか。
スーツに凝るとどうしても高価で、細番手なテロテロとした生地に走りがちですが――やはりビジネスのスーツスタイルに於いて「目障りな派手は野暮」だと心得た方が良いようです。
(個人的には、三杢などのざっくりとした生地、バーズアイやハウンドトゥースといった面白い柄などは結構好きです。「派手すぎず面白い、かといって既製品ではあまり見ない生地」ですよね。)
参考:左が三杢(3ply)の生地、右がハウンドトゥースの生地。
■ 色で遊ぶ
スーツの生地は基本的に地味な物が多いのですが、
かといって、派手な色を入れる余地が無いわけではありません。
代表的な部分としては、裏地、糸、ボタンが挙げられます。
ボタンは先述しましたので省略すると、まずは裏地が代表的な部分です。
江戸の倹約令時代、庶民は挙って裏地に力を入れたようですが、スーツも裏地に凝る人が多いですね。
たとえば紺色のスーツの場合、茶色や水色が軽めのハズシとしては相性が良いです。
裏地はチェーン店でも豊富に用意していることが多いので、様々な色や模様から選ぶことが出来ます。
ただ、一つ注意したいのは、スリーピースを作るときです。
ウェストコート(ベスト)の背中は、裏地と同じ生地なので、派手な物を選ぶと結構目立ちます^^;
そして糸ですが、おもにステッチ、ボタン穴、ボタン付け糸の3つが該当します。
フラワーホールや袖の第一ボタンの色を他とは違う色にしている方はよく見かけます。
遊び用のジャケットなどでは、ステッチの色を目立つ色にしても良いかも知れません。
■ サイズで遊ぶ
最初に断りますが、サイズ変更はスーツの美しさ(サイズ比)をぶちこわすことがあるので、
店員の意見を聞きながら、慎重に変更して下さい。
一番変えやすいのはラペル(下襟)の幅でしょうか。
一時期、極端なまでに細くなったラペルは、現在完全に揺り戻しがきているようですね。
お持ちのネクタイ幅、ご自身の顔のサイズとも相談しながら(!?)、アレンジしてみて下さい。
あとは、肩幅や着丈なども印象が大きく変わります。肩幅が広くなると、顔は小さく見えますが、鎧のような印象になります。着丈を短くすれば軽快な印象になりますが、貧相で軽薄な印象にもなります。
加減が難しいので、少しずつ変更してみることをお薦めします。
■ まとめ で、どうすれば良いの?
ポケットをパッチポケットにする、ベントをサイドベンツに変える、ベルトループを止めてブレイシーズ(ズボン吊り)のみを使う股上の深い形に変える云々……
スーツには様々なディテールが有り、それぞれに多種多様な印象を見る人に与えます。
しかし、最初にも書きましたが、サイズ感が何よりも大事です。
いくらトッピングが美味しくても、本体のラーメンが不味かったら目も当てられませんよね。
そして、サイズ感が整ったら、ボタン→色……と、本エントリーで紹介した順に試してみて下さい。
きっと、スーツ作りが今よりもっと楽しくなるはずです。
さて、本稿を以て、イージーオーダーのコツシリーズはいったん完結です。
久々に長い連載になりましたので、このシリーズもまとめをいずれ作ろうと思います。
ご質問等はコメント欄へいただければ幸いです。最後まで御覧いただきありがとう御座いました。