前回は高価格のフルオーダーについて取り上げましたが、今回は誰もが楽しめるイージーオーダーやパターンオーダーについての話題です。
みなさんは、スーツやジャケットをオーダーするときにどんなオプションを付けていますか?
チェンジポケット、色糸変更、本切羽など、どんなオプションを選ぶのかも、オーダースーツの一つの楽しみと言えます。
しかし、すべての業界に当てはまると思いますが、一般的に、オプションは店/企業側の利益改善施策の側面があり、個人的には「やたらと付けすぎない方が良い」というのが持論です。
そんな中、コストパフォーマンスに優れるオプションも存在しています。今回は、そんなおトクなオプションを独断と偏見でご紹介したいと思います。
はじめに(おことわり)
本日紹介するのは、一般的なパターンオーダー/イージーオーダーにおける、コストパフォーマンスが高いと私が感じるオプションです。
一方で、オプションは店によって価格が違いますし、標準に含まれていることもあります。また、扱っていないというケースもありますので、ご留意下さい。
1.スペアパンツ
当サイトへのコメントを見ると、結構な方が利用しているのがスペアパンツ(スペアズボン)のオプションです。
スーツは、ジャケットよりもズボンが早く傷みます。そのため、ズボンを2本作り、スーツ全体を長持ちさせるのが、このオプションの趣旨です。
安価にスペアを作る事ができる
ズボン単品を注文するよりも、スペアパンツオプションにした方が、多くの場合安価に作る事ができます。
相場観としては、だいたいスーツ上下の合計金額の3割くらいでしょうか。
店側からしても、客単価を上げることができるのと、生地を効率よくカットできるため、比較的安い金額で請け負うケースが多いのです。
店によってはディテールを変えられる
また、スペアと言いつつも、店によっては、無料でディテールを変えることができます。
たとえば、1本目はワンタック/2本目はツータック、1本目は裾シングル/2本目は裾ダブルなど、気分によってデザイン違いのズボンを履くことができます。
2.ウェストコート(ベスト)
イージーオーダーやパターンオーダーの場合、かなり安価に追加出来るのがウェストコート(ベスト)です。
近年は三つ揃い(スリーピーススーツ)ブームもあって、付けることの多いオプションかとおもいます。
三つ揃いはオーダーに限る
ウェストコートは、ジャケットよりもタイトに作るため、より体に合ったサイズが求められます。
言い過ぎかも知れませんが、個人的には吊し(既製品)でウェストコートを購入するのは難しいと考えています。(ただし、購入後にお直しに出す場合を除く。)
しかも、生地も工数も少なく作る事ができるため、相場観としてはスーツ上下の2~3割程度の金額で追加することができます。
3.ナットボタン
スーツのボタンと言えば、標準の練りボタン(カゼインボタン)か、オプションで水牛ボタンという方が多いと思います。
もちろん、オーソドックスなスーツには私も水牛ボタンを基本としているのですが、ナットボタンという選択肢もあります。
少しカジュアルに最適
ナットボタンは、植物から作られるボタンで、全開の雰囲気を温かく、カジュアル向きに変えることができます。
水牛に比べ、オプションの金額も安いことも特徴です。(だいたい+千円か、標準価格に含まれるイメージです。)
式典用など硬い用途には向きませんが、週末用のスーツとして用いるなら、むしろ水牛よりもオススメできます。
種類が豊富
特に、ナットボタンは種類が豊富で、水牛だとデザインが1~2種類しか置いていない店も、5~6種類くらい選べることが多いです。色も、水牛よりも沢山の色から選ぶことができます。
例えば、裏地や、表地のチェック/ストライプと似たような色を使う(いわゆる「色を拾う」)と、とてもオシャレです。
4.モーニングカット
ズボンの裾で選べるオプションが、モーニングカットです。
足を長く見せる効果
モーニングカットは、通常水平にカットされるズボンの裾を、後ろ方向へ斜めにカットすることで、足を長く見せる効果があります。
礼服のモーニングのズボンがこのスタイルをとっているため、この名前があります。
多くの場合、無料でこのオプションを選ぶことができるので、まだやったことがない方は是非試して見て下さい。
ダブルの場合は難しい
但し、裾を折り返す「ダブル」を愛用している方は、モーニングを選べないケースがほとんどだと思います。
5.ブレイシーズ用のボタン
ウェストコート(ベスト)をオプションで付けたなら、是非ブレイシーズ(ズボン吊り、サスペンダー)用のボタンも付けてみることをオススメします。
サスペンダーはボタン留めの方が快適
ブレイシーズは、クリップとボタンのどちらでも付けられることが多いですが、ボタンで取り付けた方か圧倒的に安定しますし、快適です。(金属のクリップが背中に当たって不快なので、私の場合はボタンしか対応していないブレイシーズを使っています。)
もし三つ揃いのスーツであれば、初めからブレイシーズ用のボタンを付けてしまいましょう。店によっては無料で、有料でも相場は1,000円程度です。
クリップ留めのブレイシーズを使っている方は、ぜひボタン留めに挑戦してみて下さい。
三つ揃いは吊った方が綺麗
なお、懐古趣味でブレイシーズを推奨しているわけではありません。トラウザーズ(ズボン)の線が綺麗に見えますし、なによりずり落ちることがなくなるため、快適に過ごせるからです。
大便の時に多少脱ぎづらいということはありますが、個人的にはデメリットを上回るメリットがあると考えます。
おわりに:「テーラーのDX」でオプションの融通が利かなくなっている
近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)の波は、テーラーにも押し寄せています。
元々、紙ベースで工場/職人と店舗はやりとりをしており、裏メニュー的なオプションや、マニアックな箇所のサイズやデザインの変更も、紙の様式の外枠などに、こっそり工場側への依頼事項として記入されていました。いわば職人同士の、あうんの呼吸ですね。
どこまでなら工場が我が儘をきいてくれるか、どこからがNGなのか。そういった点の把握が、店舗に在籍するフィッターの、力量の一つでした。しかし、DXによる画一化で、そのような遊びは無くなりつつあります。
DXはコスト削減、短納期化、オーダーミスの低減には大きな役割を果たしますし、一般的な注文には影響がないでしょう。(今回紹介したオプション5つも、恐らく影響を受けないと思います。) しかし、「かゆいところに手が届く」「80点の完成度を90点に高めたい」といった要望は、かなえられなくなると感じています。
低廉な価格でオーダースーツ/ジャケパンを楽しむ為には止む得ないことで、むしろDXは歓迎すべきことなのかも知れませんが、行きすぎた画一化は少し悲しくも思います。