皆さんは「スーツの費用」と聞いたときに何を思い浮かべますか? 恐らくほとんどの方が「スーツの購入費用」と読み替えると思います。
一方で、私たちサラリーマンがビジネスの世界で「費用」を扱うとき、購入時の初期費用だけでなく、維持費用、さらには機会費用なども考えると思います。
先日、本サイトの読者から、ファッションアイテムのランニングコスト(維持費)が最近の関心事であるというメッセージをいただきました。
本来、ファッションは着たい物を着るのが理想です。しかし、結婚、子の誕生・進学などライフステージが進むに従って使えるお金も限られてくるのが現実。
ということで、今回はスーツの維持費について、一体いくらかかるのか、かしこい使い方は無いか等々、考えてみました。
1.メンテナンス費用
クリーニング
スーツの維持費と聞いて、最初に思い浮かぶのがクリーニング費用でしょう。年間のクリーニング費用は、単価×頻度で計算する必要があります。
単価
1回のクリーニング費用については、店舗やサービス内容によって大きく異なります。
東京では、一般的には上下で1,200円~が相場です。大手の白洋舍だと、税込で2,000円を超えます(記事初出時)。
もちろん探せばもっと安いところがあるかも知れませんが、クリーニングの品質(衣料管理、溶剤や仕上げの品質など)を考えると、極端に安い店はあまりお薦めしません。
頻度
では、どのくらいの頻度でスーツをクリーニングすれば良いのでしょうか。検討する観点は以下の3つです。
- 着用頻度
- 着用時季
- 着用状況
複数のテーラーとも意見が一致するところですが、クリーニングの回数は、少ない方が生地にとって良く、1シーズンに1回位が理想です。
ただ、着用頻度が多くなれば、自然と汚れも多くなるもの。例えばローテーションできるスーツが3着しか無い場合、1シーズン2回位はクリーニングした方が良いでしょう(毎月の稼働日が20日だとすると、1シーズン60日の間、1着につき20日着ることになってしまうため)。
2番の着用時季とは、春夏の蒸し暑い時期は汗を良くかくため、クリーニングの頻度を上げる必要があるということ。特に夏用の薄手の生地は、汚れに弱い(飽和しやすい)ということもあります。
最後の3番は、例えば接待や飲み会が多い、外出が多いなど、業種・職種の事情を加味する必要があるということです。
本項のまとめ
例えば、春夏用と秋冬用のスーツ各3着(計6着)を着回している場合、
- 春夏用:1,200円×3着×3回(1シーズン3回)×2シーズン=21,600円
- 秋冬用:1,200円×3着×2回(1シーズン2回)×2シーズン=14,400円
ということで年間36,000円くらいかかる計算です。(1着平均6,000円/年)
飲み会が多いなどの着用状況や、クリーニング店の選択によっては、さらに金額は上がります。また、スペアパンツ、ウェストコート(ベスト)がある場合、この費用も加味する必要があります。
日々のケア
続いて日々のケアに使うグッズの費用について見ていきましょう。
用具の購入
実際には単発の支出ですが、ケア用品(用具)としては以下があり、大体の金額はこんな感じです。
- ちゃんとしたジャケット用ハンガー(1,000円~)
- ズボン用ハンガー(300円~)
- スチーマー(3,000円~)
- 洋服ブラシ(3,000円~)
- アイロンやズボンプレッサー(5,000円~)
1番と2番のハンガーについては、スーツ購入時に付いてくる薄手の(ジャケット・パンツ兼用の)ものを使うこともできます。
ただ、ジャケットの肩やエリ周りを美しく保ち、ズボンのシワ防ぐためには専用のハンガーがあると良いです。
また、クリーニングの回数を抑え、スーツを綺麗に保つためには洋服ブラシは必須ですし、匂いやシワを取るためのスチーマーもあると良いでしょう。
そして、ズボンの美しさを保つ点で重要なのが、綺麗なクリース(センタープレスの折り目)です。これを維持するためには、アイロンやズボンプレッサーは必須アイテムです。
1~2は各スーツごとに、3~5は1つずつあれば十分です。
本項のまとめ
前項と同じ春夏用と秋冬用のスーツ各3着を着回している場合、
- ジャケットハンガー1,000円×6=6,000円(マイネッティハンガーを想定)
- ズボン用ハンガー300円×6=1,800円(mawaハンガーを想定)
- スチーマー3,000円×1=3,000円(Twinbirdスチーマーを想定)
- 洋服ブラシ3,000円×1=3,000円(KENT洋服ブラシを想定)
- アイロン→スチーマーのアイロン機能で代替
ということで、全て最初から揃えるとすると、13,800円かかる(2,300円/着)計算です。
ただ、本項についてはクリーニングと違って一度揃えてしまえばずっと使えるものですので、そこまで意識する必要は無いと思います。
保管
忘れがちなのが保管です。正確には、防虫剤などの保管に必要な消耗品と、保管場所の2つです。
保管に必要な消耗品
スーツを保管する場合、必ず用意した方が良いのが防虫剤です。
良いスーツ生地であればあるほど、(軟らかくておいしいのか)虫に食われやすくなります。
とはいえ、1年用の防虫剤で500円もしませんから、そこまで費用がかかるものではありません。
保管場所の問題
それよりも、保管場所が問題になる事があります。
まず、部屋の中で、壁などに掛け続けるのは絶対にNG。食事/調理の油煙や、寝具のほこり、その他の汚れが付きやすいことはもちろんですが、蛍光灯や日光の紫外線が、スーツにダメージを与えるからです。
備え付けのクローゼットがあれば良いですが、スーツの本数が増えてくると、クローゼットの追加や、保管クリーニングを検討する必要が出てきます。
私は保管クリーニングを利用していますが、通常のクリーニング費用の1.5~2倍くらいを見込む必要があります(ここでは間を取って1.75倍と仮定します)。
先ほどの計算を引用すると、
- 春夏用:1,200円×3着×3回(1シーズン3回)×2シーズン=21,600円
- 秋冬用:1,200円×3着×2回(1シーズン2回)×2シーズン=14,400円
↓ ↓ ↓
- 春夏用@春:1,200円×3着×3回=10,800円
- 春夏用@夏:1,200円×3着×2回=7,200円
- 春夏用@保管:2,100円×3着×1回=6,300円
- 秋冬用@秋:1,200円×3着×2回=7,200円
- 秋冬用@冬:1,200円×3着×1回=3,600円
- 秋冬用@保管:2,100円×3着×1回=6,300円
ということで、年間41,400円くらいかかる計算で、1着換算で平均6,900円/年です。
自宅保管も費用換算すべき?
今回は計算しませんが、賃貸にせよ持家にせよ、家賃や自宅購入費用、税金等々を払っている以上、自宅でスーツを保管し続ける場合であっても、費用がかかっているものと見るべきです。
特に、都市部の地価/家賃が高いところにお住まいの場合、面積比で計算すると「自分の衣服置き場に、家賃の○%→○万円/年が使われている……」と結構ショックを受けるはずです。
決してケチケチしろという意味では無く、衝動的にスーツやジャケットを購入/仕立てがちな(私のような)人種の場合、常にこのことを念頭に置き、本当に必要なものを買うようにしなくては……という自戒を込めての話でした。
2.修理費用
日々のケアをしっかりしていても発生する問題がこちらです。
体型の変化
当然ですが、スーツのサイズ感はとても大切です。
如何(いか)に生地、仕立て、そしてデザインがよくても、サイズ感が合っていなくては台無しです。
私たちサラリーマンは、転勤や異動で外食が増えた、業務繁忙でストレスが増えた、加齢で基礎代謝が減った等々、様々な体型変化の危機にさらされています。
もちろん体型を元に戻すのがベストですが、一夜にして変えることはできません。我慢してサイズが合わない服を着るのは論外ですから、直近で採るべき選択肢は2つ。
- スーツを修理してサイズを変更する
- 新しいスーツを買う
ということになります。
サイズ変更費用
一番変化がつきやすいのは腹回りで、最低限、ズボンの修理が必要になります。
一方でジャケットの修理は、既製品の場合は痩せた場合の「詰め」がメインで、太った場合の「出し」は縫い代が少なく難しいと思います。また、けっこう費用がかかります。
ズボンも、ウエストだけで良いのか、尻周りも必要なのか等々、修理が必要な範囲によって金額が異なります。場合によっては新規購入と変わらないなんていうパターンも。
目安は、ズボンのウェスト周りだけで3,000円前後でしょうか。
修理は一度にやってくる
ここでおそろしいのが、(ほとんどの方がそうだと思いますが)全て同じサイズのスーツで、かつ全てが現役で使っているとすると、一斉に修理が必要になることです。
前項と同じ春夏用と秋冬用のスーツ各3着を着回している場合、3,000円×6着で18,000円。
しかも、摩耗を考慮してツーパンツスーツにしていると、その倍かかります。
もちろん、とりあえず1着の修理で良いや……と思うかも知れませんが、サイズの合っていないスーツを着るのはかなりテンションが下がりますし、見た目にも不格好です。
私の経験から言うと、最終的には全て修理したくなるはずです^^;
まぁ、一番は体型に変化を起こさないことですが「もっとスーツが似合う体になりたい!」と能動的に肉体改造した場合には、必要経費として割り切るしかありません。
損傷
こちらは不慮のアクシデントで修理が必要になるケースです。
良くあるのが、ボタンが取れたり(割れたり)、ベルトループがちぎれたり、ポケットが破れたり……といったものでしょう。
ボタンに関しては、購入時に付いてくる予備を自分で付け替えれば良いですし、クリーニング屋でも数百円の手間賃でつけてくれると思います。
ベルトループやポケットについては、専門店やテーラーで修理が可能で、金額としては3,000~5,000円前後でしょうか(購入時にもらえる残布を持って行くと良いです)。
こちらも、周囲に気をつけつつスーツを着るしかありません。ただ例えば、弱すぎる生地のスーツは選ばない、ちゃんとした仕立てのものを選ぶ、等々、購入時に一定程度の予防は可能です。
デザインの陳腐化
スーツは、女性服ほどではありませんが、周期的にデザインの流行が変わります。
例えば、ジャケットだとラペル(下襟)幅や着丈、ズボンだと太さ(ワタリ)や長さ(靴のクッション具合)といったところです。
もちろん「流行への寄せ具合」にもよりますが、どんなに大事に着ていてもデザインの陳腐化はいずれ訪れるもの。
そういったケースでは修理というよりはリメイクに近い対応をすることがあります。
が、スーツを新しくオーダーで仕立てる工賃と近くなるため、個人的には本当に思い入れのあるスーツでしかやらないと思います。
修理屋やテーラーにもよりますが、上下で少なくとも5万円以上は見ておいた方が良いです(また、縫い代の関係上対象となるスーツも限られますし、またバランスの取れたスーツにするためには、店側にかなりの腕が必要です)。
3.まとめ
長くなったのでまとめます。
- スーツスタイルを持続的に楽しむ為にも、初期費用以外もしっかりと考える
- ケアしやすい素材や仕立てを考慮する
- クリーニングの回数は少ない方が生地には良いが、それでも1シーズンに1回以上必要であり、この費用はスーツ廃棄まで発生し続ける
- 保管にも「費用」がかかると認識する(外注する場合も、自宅保管の場合も)
- スーツの所有数に応じ、維持費と体型変化によるリスクが直線的に増えるため、スーツは闇雲に増やさない
- 体型維持は重要(ただし、「スーツの似合う体作り」での体型変化はあっても良いのでは)
- 弱すぎる素材を使ったスーツの購入は慎重に
- スーツのデザインや流行は毎年変化しており、単一年度にスーツを集中購入するのは避ける
イニシャルコストだけで無く、維持費にも目を向ける
今回はスーツの維持費(ランニングコスト)について考えてみました。
購入価格が注目されがちなスーツですが、意外と維持費も多くかかることが分かります。
今回用いた「春夏用と秋冬用のスーツ各3着を着回している」というケースで、金額を出したところのみ合算すると、
- クリーニング費用:36,000円/年
- 保管クリーニングの場合:上記+5,400円/年
- ケア用品:13,800円(全て最初から揃えた場合。ただし、固定費:6,000円、変動費:1,300円/着×6。正確に言うとランニングコストではないですね。)
- +体型変化やアクシデントに伴う修理費用
といったところで、やはり一番大きいのがクリーニング代で保管費用を含めると年間4万円強。また、1着増えるごとに平均6,900円/年がプラスされることになります。
また、ハンガーやアイロンなどのケア用品が存在しない場合、さらに追加でコストがかかります。
スーツの追加は慎重に
スーツの寿命が5年と仮定すると、購入から廃棄まで、クリーニングだけでも1着あたり30,000~34,500円の費用がかかります。そして着数が増えれば、当然倍々で増えていきます。
ツープライスのスーツであれば、スーツと同額以上の維持費がかかるということです。スーツを手軽に増やす前に、(安いから、セールだからなどという理由のみでなく)よく考えた方が良さそうですね。
また、今回は話がややこしくなるため言及しませんでしたが、そのスーツを購入したことで(費用はもちろん、保管場所の関係上)他のスーツやファッションアイテムが購入できなくなるという、機会費用的な考え方も必要だと思います。
スーツのローテーション数もやたらに多くしない
これまで「スーツを休ませるために、ローテーション本数を増やすことは、長寿命につながり経済的」としてきました。
もちろんその通りなのですが、一方で1シーズンに最低1回のクリーニングと、そして特に体型変化によるお直しのリスクを考えると、闇雲に本数を増やすことはデメリットに繋がる事も改めて認識しました。
もちろん、コーディネートの幅が広がるなどの代えがたいメリットもあるのですが、そのあたりはトレードオフ(二者択一)の関係にあるので、是非自身の最適な所有数を見つけてみて下さい。
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ファッションは、感性に近いものであるためか、「お金の事を考えるのは無粋」といった風潮があるように思います。もちろん、何を着たいか、どう見せたいかが主体であり、予算はこれを実現する手段としての客体に過ぎません。
しかし、そのファッションアイテムを綺麗に維持するためには、ある程度の費用がかかることも事実です。
従って、頭の片隅ではきっちり費用を意識することが、自分の着たいものを着、見せたいもの見せるという目的への近道であり、かつ持続的にファッションを楽しむ為のポイントではないでしょうか。
みなさんはどの様にお考えですか?