量販店のスーツ売り場が大きく変わりました。 かつて男物のスーツで溢れていた店頭も、クールビズによる「男のスーツ率低下」と、女性の社会進出による「女のスーツ率増加」という両方向の要因からか、女性用スーツのコーナーがかなりの面積を占める様になりました。
先日、親戚の女子大生(以下Aさんといいます)がいわゆるリクルートスーツを買いにいくと言う事で、その母親と3人で某スーツ量販店に足を運ぶ機会がありました。
売り場面積の大きさにも驚きつつ、男物のスーツとの共通点、相違点など面白い発見がいくつかあったので、女性用就活スーツについて実物の写真も交えながらご紹介したいと思います。
この記事は、Aさん協力のもと、男性目線で女性用就活スーツとはどんな物なのかをレポートしたものですが、これから就職活動でいわゆるリクルートスーツを買おうとしている女性にも、出来るだけ参考になる様、直近のスタイルや流行の傾向などにも言及したいと思います。
1.はじめに
自分がスーツを買い/作り慣れているとはいえ、女性用スーツの購入に立ち会うのは初めてでした。 そこで、店に到着してすぐ、若い女性店員に声を掛け、アドバイジングをお願いしました。
お願いした店員はAさんと年頃が近く、店員自身も直近で就活を経験していたためリクルートスーツ事情を良く把握していましたし、幸いなことにスーツに対する知識も十分持ち合わせていました。
人材確保や教育を含めて、若年女性層への販売にかなり力を入れている証拠なのかもと感じました。たまたまアタリの店員だったのかも知れませんが……。
これは男性のスーツ購入と共通することですが、いかに自分の感性と近い(つまり同年代の)優秀な店員を捕まえられるかが重要です。 また、スーツはカジュアル衣料とはサイズ感がまったく違うため、初めて購入するときは店員の意見に耳を傾ることが重要だと思います。
革靴とスニーカーのサイズ感の違いによく似ていますね。
2.色
売り場に占めるリクルートスーツの割合は、黑が最も多く6割程度、ついでチャコールグレイと紺でそれぞれ2割位でした(何れも無地)。 店員曰く、一昨年くらいまで黑が殆どだったが、去年から今年に掛けてグレイや紺が増えてきたとのこと。
いままでリクルートスーツは男女問わず黑ずくめで、会社説明会の会場などはさながら葬式会場の様になっていましたが、変わりつつあるようですね。
黑はよほど良い素材で無いと安っぽく見えてしまう色です。また、こすれによるテカリが早く、ホコリ汚れが目立ちやすいうえ、コーディネートもしにくいのでとにかく扱いづらいです。 Aさんは黑と紺をそれぞれ試着した上で、紺色を選びました。
日本人の肌には、やはり紺色がよく似合うと改めて感じました。
3.形
スカート派が主流だが……
女性用スーツと男性用スーツの最大の違いが、スカートが存在することです。 売り上げ上はまだスカートが多いとのことですが、スラックスも徐々に増えているとの事でした。
多くのスーツがスカートとスラックスを両方買うことが出来る仕様になっていました。ボトムスは傷みが早いので、男性で言う2パンツスーツと同じ感覚で両方購入するのも手です。(Aさんは両方購入しました。)
写真はAさんが実際に購入したスーツのスラックスです。
一見男性用のスラックスと似ていますが、ポケットが男性だとカジュアルなタイプとされるL型が採用されていたり、スカートと同じくハンガーに掛けられるループがついていたりします。
1ボタンと2ボタンが主流
ジャケットのボタンは1ボタンと2ボタンが主流のようです。1ボタンは男性だと礼服や制服に見られるものの、ビジネス用途には珍しいですよね。
どちらを選ぶかは、試着してシルエットを気に入った方にすれば良いと思います。ただ、次項で言及する「ボタン全部留めルール」があるため、面倒くさがり屋の人は1ボタンが良いかも。
第2ボタンも留める!?
もうひとつ珍しかったのが、ジャケットはボタンをすべて閉じるという前提で作られていると言うこと。男性の場合は2ボタンの場合は上だけ、3ボタンは上2つか真ん中だけ閉じる――つまり、一番下のボタンは常に空いている状態になりますが、女性用は違うわけです。
上の写真をご覧下さい。左が女性用スーツ、右が男性用スーツです。 男性用スーツは第1ボタンからフロントカット(前裾)のカーブが緩やかに始まっているのに対し、女性用は留める前提になっている第2ボタンまで直線で、そこからカーブが始まっているのが分かります。
4.素材
こちらは男性用と同じく、ウール/ポリエステル混(50/50)とウール100%が主流でした。 割合としては混紡生地の方が多い印象です。
上質なメリノウールを前面に押し出したスーツも有りました。ただし、男性用のスーツでおなじみの生地メーカーや生地商社の名前を見つけることが出来ませんでした。
店員曰く、どの生地で作ったかよりも、だれがデザインしたか、のほうが売れ行きに繋がりやすいとのこと。 能書きや物語を重視する男性と、かわいさやシルエットを重視する女性との違いが現れているのかもしれません。(私を含む、生地タグで一喜一憂する男性諸氏は見習うべきところがあるかも^^;)
店員からはポリ混生地が薦められましたが、2着目であったことと、やはり美しさはどうしてもウールの方が優れていることから、Aさんはウール100%のスーツを選びました。
ポリ混は耐久面でお薦めという説明でした。たしかに生地自体は丈夫なのですが、毛玉になりやすいため、「見た目の耐久性」にさほど違いは無いと思います。
5.ディテール
裏地
まずは裏地から。購入したスーツは背抜きで内ポケットなく、男性用でいう煙草ポケットが内ポケット代わりに一つあるだけです。これは女性は胸が出ており、内ポケットを作っても物を入れると形が大きく崩れるためと思われます。
綺麗なパイピングです。このスーツは3万円台のスーツで、縫製はおそらくチャイナですが丁寧に縫われていました。 裏地はパイピング部分が無地、それ以外が織り柄のポルカドットと、極力女性らしく、ポップな感じにしようという努力が垣間見えます。
ラペル(下襟)
ラペルはフィッシュマウス型でした。表側は男性用と殆ど変わらないのですが、特徴的なのは裏側に大きく入ったダーツです。男性で言う「顎グセ」と同じですが、入れている方向が違います。
こちらが男性用スーツの同じ部位です。多くの男性用スーツは、顎グセがラペルの返りと交差する様に入れられます。女性用スーツはダーツを長く取るために、ラペルに沿ってとっているのでしょうか。
また、ジャケット全体としては本当に軽く、殆ど芯地が使われていない印象です。スーツ用の生地でカーディガンを仕立てたらこんな感じなんだろうなぁ、というのが感想です。
シャツの襟
男性でオープンカラーはリゾート用かマフィア用といった雰囲気があり、少なくとも就職活動には使えませんが、女性用としては一般的です(店ではスキッパーと言う表示名でした)。
写真を撮っていて思ったのは、シャツの襟が光を反射して、本人の顔が健康的に映るのです(シャツ襟がレフ板の役割を果たします)。襟を入れるタイプのシャツもあるようですが、顔が生き生きとするので、面接や写真撮影にはオープンカラーが向いていると感じました。
シャツの袖
男性用のスーツはシャツの袖を1~2センチ、スーツの袖から出しますが、店員いわく女性用は出さないとのこと。袖口が汚れないか非常に心配になるわけですが、気をつけてみていると、街中の女性用スーツは殆ど親指の第2関節あたりまで袖がありました。
理由を聞いたところ、腕を長く見せるためとのこと。 女性の長袖ドレスは袖口が直接ヒラヒラになっている物が多いのに対し、男性用の宮廷服は白いレースを袖口からのぞかせたうえで、これをヒラヒラさせていたあたりに、違いの起源がありそうですが、どうでしょうか。
女性用ドレスにも白袖がありますし、修道服も白袖ですしいくらでも反証は見つかるので何とも言えない仮説ですが……。
6.おわりに
今回、人生で初めて女性のスーツ、それもリクルートスーツ購入に立ち会うことができました。全体としては男性用のスーツに似せようという方向が見えましたが、細かい部分で女性ならではのディテールやルールがあり、かなり面白い経験になりました。
また、女性用スーツに対する、企業の注力ぶりにも驚きました。そういえば量販店だけで無く、保守的と思われた男性向けイージーオーダー業界でも、ここ数年女性向けスーツの販売を開始し、宣伝を見る様になりましたね。
「男性会社員の殆どが義務的にスーツを着ていた」時代は終わり、スーツ業界もターゲット顧客の転換を迫られているのは間違いないようです。