涼しい日が多くなり、そろそろスーツでも仕立てようか(or 購入しようか)……と思っている方は多いと思います。
私も先日スーツを1着仕立てたのですが、こんなときに思い浮かぶのが古いスーツをどうするか、という話です。
普段スーツを大事にしている方ほど、捨てるというのは大きな決断だと思います。本日はスーツの捨て時について、どの様な判断材料があるのか、皆さんと考えてみます。
本記事の概要
今回のテーマは、スーツ好きの方とそうでない方で、じっくり読みたいか/流し読みたいかの差がかなりあろうかと思います。
ということで、始めにスーツの捨て時について、私が実践している5つのポイントを最初に挙げておきますので、詳しく確認したい方はこのまま記事を読み進めて下さい。
- 大きく傷ついたとき
- 落ちない汚れが付いたとき
- テカったとき
- 体型が変化しすぎたとき
- 形が古くなったとき
スーツの劣化と捨てる基準
各ポイントへ言及する前に、少し前提を整理します。
清潔さが第一
ビジネスマンは、清潔さがとても大事です。
これは内勤/外勤を問わず、また業界職種を問わず、ビジネスは人と人との関わりに基づいて動いているからです。
つまり、相手と円滑なコミュニケーションを取るためにはもちろん、信頼感や安心感を生み出すために身なりの清潔感は大切で、そもそもスーツを着用する目的はここにあったはずです。
まぁ、好きだから着るというのも、目的の一つではありますが……^^;
スーツの清潔感とは何か
それでは、スーツの清潔感とはなんでしょうか。
革の靴や鞄は、適切なメンテナンスをしつつ使い込まれることによって、とても味が出てきます。清潔感を維持したまま、場合によっては新品よりも美しくなりますし、格好良く見えます。
一方で、残念ながらスーツは使い込むことによる味を出しにくいアイテムです。
もちろん、ツイードのジャケットなどエイジングが楽しめるものがあるのは事実です。しかし、ことビジネススーツに至っては、靴や鞄ほどの、良いエイジングを楽しむ余地は無いと感じています。
手縫いのジャケットなど、着続けることで体になじむ感覚がありますが、見た目にそこまで影響しないのでは、と思います。
劣化させず、劣化したら修復し、修復しきれなければ捨てる
従って、スーツにおいては、第一に劣化(汚れたり傷ついたり)させないことが重要です。
そして劣化したら当然修復が必要になりますが、一方で物理的あるいは金銭的に修復不能なものも出てくるわけで、このとき捨てるかどうかの判断が必要になります。
そして、その劣化とは具体的に何かを、次に見ていきます。
1.大きく傷ついたとき
生地の破れ
頻繁に経験する事ではありませんが、ちょっとした金属の出っ張り等に生地を捕まれると、スーツの生地が破れることがあります。
使い込んで薄くなった生地、夏場の薄手の生地、高番手の生地などは、被害に遭いやすいです。
また、防虫剤を適切に用いなかった事による虫喰いもあります。
少しの破れであれば、残布と共に修理屋に持ち込むことも可能です。しかし範囲が広くなると比例して工賃が高くなりますし、修理痕も目立ってしまいます。
従って、大きく破れたら処分を検討します。
芯地やパッドのトラブル
スーツは「裏地」「芯地やパット」「表地」の3層から構成されていますが、芯地やパッドのトラブルにも注目します。
例えば、安価なスーツに多い芯地と表地が接着剤でくっつけてあるパターンで、経年、雨、クリーニングなどで剥がれてしまうケースです。
下襟(ラペル)や胸の部分にシワや小さな膨らみが出来たり、全体的にクタッとなったりします。軽い物ならアイロンで目立たなくなる可能性もありますが、酷い場合には処分を検討します。
また、重い鞄を肩掛けで使い続けるなど、肩パッドが変形した場合も同様です。
2.落ちない汚れが付いたとき
食べ物、文房具、化粧品、事務機器、カビそして自身の皮脂等々、私たちの周りにはスーツを汚すものが数多く存在します。
クリーニング(ドライ、水洗い、シミ抜き等々)でかなりの部分は落とす事が出来ますが、それでも生地の性質や状態、汚れの種類によっては、落ちないことも多いです。
汚れは清潔感に大きく影響します。信頼できるクリーニング店に相談/依頼し、落ちない目立つ汚れが残る場合には処分を検討します。
3.テカったとき
破れたり汚れたりしていなかったとしても、目に見えて生地が劣化していることがあります。
それが、生地が擦れることによって生じる、テカリです。
ビジネスマンに多いスーツのテカリ箇所
ビジネスマンで多いのが、以下の箇所のテカリです。
- 袖口とジャケット袖の後側……机や肘掛けで擦れることが多いため
- 尻……椅子の座面と擦れることが多いため
- ひざ……膝をつき、しゃがむ動作が多い方
- 太ももの外側……鞄で擦れることが多いため(特にナイロンの肩掛け鞄)
- 肩……肩掛け鞄を使っている場合(スーツと肩掛け鞄は本当に相性が悪いので出来ればやめた方が良いです)
その他、自身の職種や、仕事の内容によって擦れたり打ったりする箇所について点検してみて下さい。
軽度なテカリは補修出来こともあるが……
軽いテカリであれば過去の記事で紹介したとおり修復することは出来ますが、状況が進行すると修復は難しくなります。
自分ではあまり目立たないと思うかも知れませんが、屋外の自然光下で、それも他人の目の高さからみると結構反射して目立ちます。
中高生の制服なら良いですが、ビジネスマンとしては清潔感を欠く一つの要因になるため、処分を検討します。
仕事上必要な動作にテカリを発生させてしまう物があるというパターンもあるでしょう。その場合は、購入時にテカりやすい素材を選ばないよう、店に相談するのも大事です。なお、色が濃く、生地が薄く強く撚ってあり、そして起毛の少ない素材ほどテカりやすい素材です。
4.体型が変化しすぎたとき
体型の変化により着られなくなった場合も、処分を検討する必要があります。
軽度なものであれば、お直しで修正出来ます。しかし、大きな体型の変化は、大胆な修正や修正箇所の増加をもたらします。
大胆な修正は難しい
スーツをお直しする上で、大胆な修正は以下の理由から難しいです。
太りすぎた場合:縫い代の限界
例えば太りすぎた場合は、当然ですが生地の縫い代が少なく、拡張には物理的な限界があります。
痩せすぎた場合:デザインの崩壊
では、逆に痩せすぎた場合は大丈夫かというと、そうではありません。
服は、仕立てた当初のサイズで格好良くなるようデザインされています。
例えば胴回りを詰めると裾と地面が平行で無くなったり、複数の箇所を同時に詰めないとデザイン的にバランスがおかしくなったり、もし複数箇所修正できたとしても縫い目で見た目が悪化したりします。
ボタンホールやポケットなど、生地に穴を開けて動かせない部分があることも、スーツの修正をややこしくしている原因の一つなのだそう。
金額面での判断も必要
当然ですが、大きな体型の変化に伴う複数箇所に亘るお直しは、金額が高くなります。
そのスーツを仕立てた金額にもよりますが、その金額をお直しに使うか、新しいスーツに使うかを、自分なりに判断する必要があります。
フルオーダーで手縫いの場合は、お直しをしつつ永く着ることを前提にしている場合が多く、縫い代に余裕があったり、安価に請け負ってくれたりと、お直しを選択するケースが多いと思います。もちろん、フルオーダーの場合は仕立てが高額なため、お直しをした方が安価に済むから、という理由も大きいでしょうが……。
5.形が古くなったとき
スーツを大切に扱い、そして体型の変化が無かったとしても、外的要因によって処分を検討する必要が出てくることもあります。
それは、流行の変化に伴い、そのスーツが古くさく見えてしまうという問題です。
変化を見極めるポイント
一番変化しやすいのはラペル(下襟)の幅です。
10年前の、特に若手を対象としたファッション雑誌を見ると、ラペルの幅が5~6センチなどはザラだったのがわかります。
一方で、そのさらに10~15年くらい前は、逆にかなり太く、10センチ以上という世界でした。(ちなみに、本記事初出時点では8~8.5センチが標準でしょうか。多分太くなっている最中。)
他にも、ズボンの丈、全体のゆとり、ボタンの位置、ゴージライン等々、様々な要素が時代と共に変化します。
このように、あまりに違和感がないかどうかも、処分の検討ポイントです。
流行に寄せすぎないと長生きする
とはいえ、変化するポイントは極端から極端へ動くことが多いため、流行に寄せすぎないことが、型を古く見せないという点で重要です。
つまり、型を新しくしすぎないということです。(最近だと、昨年・一昨年に流行した極端に短いズボン丈に違和感が出てきたように思います……。)
特に吊し(既製品)、それも若手向けについては流行に寄せる傾向が強いため、大事に扱っていたスーツもこの点でレギュラー落ちすることがあります。
お直し等で対応できる部分もありますが、前項と同様、修正箇所が複数に亘る場合は新しくしてしまった方が良いこともあります。
ただし、先述の1~4についてはビジネスマンとしては敏感になるべき清潔感に直結する問題でしたが、本項だけは実は異なります。どんなに古いデザインの服を着ていようが、それが自己を表現する上で問題無ければ、気にする必要は無いのでは、とも思います。
おわりに
念のためですが――本記事は「スーツに問題が出たらすぐに処分しよう」という主旨のエントリーではありせまん。
当サイトでは、これまでスーツを長持ちさせるTIPSや手入れ方法について何度か考えてきたように、できるだけ長く愛用していこうというのがポリシーです。
しかし、いくら気をつけて着て、きちんと手入れをしたとしても、上述したような問題が発生することで、スーツは確実に劣化します。
言いたいことは、「消耗品だからバンバン買い換えろ」ということでも、「ボロボロになりつつも大切に着ろ」ということでもなく、「適切な着用方法とメンテナンスをしつつ、スーツを着る目的を見失わず、自分の基準を下回ったら新しいものに買い換える決断が大切なのではないか」ということです。
皆さんがスーツを捨てる時の基準はありますか? 宜しければコメントをお待ちしています。