腕時計

機械式時計のメンテナンスを考える

投稿日:平成28年(2016) 12月11日  更新日:平成30年(2018) 12月18日 

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皆さんは機械式時計をお持ちですか? 機械式時計は、正確さや価格などの実用性ではクオーツ時計に劣ります。しかし、ファッションや趣味の世界では第一線で活躍しています。

先日「腕時計について新しい記事は無いのですか?」というメッセージを戴きました。実は靴やスーツと違い、私の中で時計は主要な趣味ではありません。そのため、腕時計はスーツスタイルの1パーツという扱いで、あまり話題に取り上げてきませんでした。

しかし1パーツだからこそ、腕時計も靴やカバンと同じく、メンテナンスをして、綺麗に永く使うべきアイテムのはず。ご指摘はごもっともということで、簡単なところから少しずつですが、まとめていこうと思います。

1.機械式時計とは

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本題に入る前に、そもそも機械式時計とはなにか、を整理したいと思います。(ご存知の方は読み飛ばして下さい。)

腕時計は、動作の視点から3種類にに大別することが出来ます。それらと対比させつつ、機械式時計を整理してみます。

① クォーツ式時計

水晶(クォーツ)片の共鳴振動を利用して、正確な時刻を刻むことの出来る時計です。その正確性や、製造コストの安さから、腕時計の多くがクォーツ式になっています。

(一社)日本時計協会の試算によると、いまや日本の腕時計出荷台数のおよそ97%がクォーツ式とのこと(参考URL)。

また、見た目の特徴として、針が1秒ごとに動くという点があります。クォーツが登場した当時は、正確な動きだとして好意的に捉えられていたようです。しかし、私の感覚からすると、後述する機械式時計のように、針が小刻みに動く方がより格好よく感じられるのですが、如何でしょうか……。

なお、最近流行のGPS時計や電波時計も、クォーツ式のムーブメントを補正しているという意味で、クォーツ式に分類される事が多いです。

② 機械式時計

今回の主役です。機械式時計は、クォーツ式の様に電力を使わず、巻き上げられたゼンマイを動力として動く時計です。

主に、手でゼンマイを巻き上げる必要がある「手巻き式」、手巻きに加え腕の動きでゼンマイが自動で巻き上がる「自動巻き式」の2つに、さらに分類できます。

クォーツに比べると正確性に劣り、長時間動作せず、衝撃に弱く、高価で、メンテナンスも必要という手のかかる仕組みです。

しかし、針の動きやムーブメントの美しさは、クォーツ式を凌駕します(あくまで個人的な見解ですが^^;)。また、クォーツ式と違い、メーカー以外でも部品の製作が出来るため、メンテナンスすることで何十年も使い続けることが可能です。

個人的には、メンテナンスやソールの張り替えでずっと履き続けることが出来る、グッドイヤーウエルテッド製法の靴と、立ち位置が似ているように感じます。

③ スプリングドライブ式時計

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そんなクォーツ式と機械式のいいとこ取りをしたのが、セイコー独自の機構であるスプリングドライブ式です。

機械式同様、ゼンマイを動力源としますが、時刻の補正に高精度のクォーツを使っています。ゼンマイで針とクォーツの動作に必要な電力を発生させて、ヌルヌルとした運針と正確性の両方を実現させたわけです。

機械式時計原理主義の方からは、クォーツを使っていることと、機械式時計特有の「チチチチ」というテンプの音が聞こえないため、ウケが悪いかもしれません。しかし、時計の正確性が要求される仕事で、スムーズな運針の時計をしたいという要望に答えられる時計です。

以下、①~③を表にしてみました。

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2.メンテナンスすべき部分

続いて、どうメンテナンスすべきなのか、ケース/風防、ベルト、ムーブメントの3つに分けた上で、それぞれ考えてみます。

① ケース・風防

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ケースとは時計本体のこと。風防とは、文字盤の上にあるガラスやアクリルの覆いのことです。手垢や簡単な汚れであれば、化繊の眼鏡拭きや鹿革(セーム革)を使う事で綺麗にとれます。

ただし、水拭きは、ケース内のムーブメントが錆びる原因になるので避けます。(生活防水を謳っていても、古い時計はパッキンが劣化していることが多いので避けます。)

同様の理由で、汗をかいた後は必ずから拭きするようにし、空気が乾燥した場所で保管するようにします。

風防――特に古い時計に多いアクリル風防の場合、使用に伴う細かい傷がつきやすいです。そんなときは歯磨き粉やサンエーパールなどで磨くと綺麗になります。(ガラス風防の反射防止用のコーティングなど、一部磨けないものが有るので注意します)

② ベルト

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ベルトは大きく、金属、皮革、布、樹脂の4種類に分けることが出来ます。このうち、スーツスタイルで用いられるのは金属と皮革ですから、この2つについて言及します。

金属製

使っているうちに、コマとコマの間に皮脂や垢が入り込みます。また、オフィス内の什器と擦ったり当てたりして、擦り傷も出来るでしょう。

皮脂や垢については、必ずケース(時計)本体から分離した上で、中性洗剤などで洗います。このとき、超音波洗浄機などがあると、綺麗に落とすことが出来ます。

擦り傷については、軽い傷であればサンエーパールをはじめ、コンパウンドなどで磨くことが出来ます。ただし、深い傷は時計店などで磨いてもらう(現実には削って貰う)必要があることと、ヘアライン加工など表面に加工のある金属は磨けないので注意します。

参考記事:

皮革製

ほぼ、革靴と同様のメンテナンスが必要です。箇条書きにすると

  • 毎日同じベルトを使用しない(中2日は休ませる)
  • 表面が乾燥したら、デリケートクリームなどで保革する
  • カビやすいので、湿度を低く保つ

似ていますよね。さすがにシューツリーは無いですが^^;

留め外しで傷みやすいのと、さらにその際時計を落下させやすいので、金属製のDバックルを利用するというのもお勧めです。(Dバックルについては、別途記事にしてご紹介したいと思います。)

③ ムーブメント

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機械式時計の特徴である機械式ムーブメント。中身はゼンマイや歯車など、沢山の金属部品から出来ています。当然、経年や使用に伴って摩耗や油切れなどの劣化が起きます。

そこで必要になってくるのがムーブメントのメンテナンス。「分解清掃・調整」「オーバーホール」等といいます。革靴のオールソール張り替えと同様、専門の職人や業者に任せる必要があります。

一般的なオーバーホールの内容は、分解点検、部品洗浄、摩耗部品の交換、注油と再組立て、進みや遅れの調整、外装の仕上げといったところです。

クォーツ式時計の普及に伴って、オーバーホールが出来る時計店はその数をかなり減らしたとのことです。しかし高級時計の殆どは機械式のラインナップになっているため、優秀な時計技師はまだまだ残っています。

オーバーホールについては、次項以降でさらに詳しく考えてみます。

 

3.オーバーホールのタイミング

ランニングコストに大きく影響する

オーバーホールの金額は、時計の種類、メーカー、依頼する店によって様々です。それでも、1回当たり安くて2万円、高いと5万円以上します。またこれは、摩耗等による部品交換/修理の費用を除いた金額です。

したがって、オーバーホールの頻度により、時計のランニングコストが大きく変わってきます。どのくらいのタイミングでオーバーホールすれば良いのでしょうか。

ややこしいのが、時計店や時計技師によってその回答が千差万別という点です。ある人は「3年おきに」といい、ある人は「6年に1度くらいで良い」といいます。いったいどれが正解なのでしょうか。

参考にしている目安

私の中での、今のところの結論は「オーバーホールのタイミングに正解は無いが、参考に出来る目安はありそう」というものです。

正解が無いというのは、ムーブメントの種類、素材や設計、作られてから経った年月、使用頻度と環境によって、タイミングはそれぞれですよね、ということです。(身も蓋もない話ですが……^^;)

そこでポイントは、参考に出来る目安、の部分です。これも自分で編み出したというよりは、複数の時計技師の話を参考にまとめたところがですが……

  1. ほぼ毎日使用する時計は、3年に1回実施
  2. 月に数回程度利用する時計は、5年に1回実施
  3. 日差に大きな遅れや進みが生じ始めたら、上記にかかわらず実施
  4. その他、巻き上げが重いなどの不調があったら、上記にかかわらず実施

という基準を設けて、オーバーホールを行うようにしています。

ただ、3の日差については、実際に測定しているとかなり手間がかかるので、「タイムグラファー」を利用すると便利です。

タイムグラファーを使った日差の確認

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タイムグラファーとは、ムーブメントの音を読み取って、時計が進んでいるのか・遅れているのか、振り子(テンプ)の振り幅は正常か等を計測する機械です。

時計店向けの本格的な物はかなり高価なので手が出ませんが、個人の利用であればチャイナ製のジェネリック品で十分です。

写真は自宅で使っているチャイナ製タイムグラファーで、Amazonから2万円以下で購入出来ます。機械式時計が複数ある場合には、時計の体調管理に便利です。

 

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この様に集音装置に挟み込むと……

 

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液晶画面に日差やテンプの振れ幅、振動周波数などが表示されます。画面上は日差で+9秒の表示が出ています。機械式としてはかなり良い方です。

 他にも、スマートフォンアプリのタイムグラファーも有ります。ただ、集音器を普通のマイクやイヤホンで代替したりと、使用に工夫が必要で使い勝手は今ひとつでした。若年層の機械式時計ユーザーが増えていけば改良が進むと思いますので、今後に期待したいと思います。

 

4.オーバーホールの出し先

オーバーホールのタイミングと並んで困るのが、どこに出せば良いか、という点です。店ごとに価格もまちまちなうえ、オーダースーツや靴のオールソールなどと違って、仕上がりがわかりにくいという点が不明さに拍車を掛けます……。

どんな出し先が有るのかを整理しつつ、考えたいと思います。

① 製造メーカー

一番確実ですが、一番高価なのが製造メーカー(ブランドの正規修理窓口を通すものを含む)でのオーバーホールです。

その時計を知り尽くした組織/時計技師が対応し、摩耗したパーツは全て純正部品で交換されます。また、製造メーカーでのオーバーホールは中古品市場でも他店のオーバーホール済品と比べると高値で取引される傾向があります。

メーカーによって異なりますが、時計店のオーバーホールに比べるとだいたい1.5倍から2倍くらいします。また、海外メーカーの場合は本国でオーバーホールを行う場合があるため、要する時間も長めです。

なお、純正品が使われていなかったり、改造が加えられた時計は受け付けないメーカーもあるので注意が必要です。

② 時計店

街の時計屋さんで行うパターンです。良い店が見つかれば、このパターンが一番オススメです。(私も殆どこの方法です。)

比較的安価に、純正品だろうが改造が加えられていようか、時計技師の知識と経験に基づいて、最適なオーバーホールを実施してくれる――はずです。

ただ、腕の良い店を見つけるのが難しい、という問題もあります。ネット上のレビューサイトもないため、客が多く(修理経験が多く)、極端に安くない店の中から、人柄が信頼できそうな所に行き、試しに1本オーバーホールしてみて様子を見る、という地道な方法しかありません。

また、良い店を見つけられれば、時計を買う際のアドバイス(ネットオークションでビンテージの時計を買う際、ムーブメント写真の状態を見て貰うなど)を受けることも出来るでしょう。これは、時計店でしか出来ないコミュニケーションの一つです。

優秀なテーラーや靴の修理店を見つけるのと、似た様なところが有りますね……。

③ ネットの修理店

近年増えてきたのはネットでオーバーホールを受け付けてくれるお店です。物価が安い地方の店が、それを生かすケースも有るようです。

ただ、衝撃に弱い機械式時計を、宅配便輸送が必要な店に出すのは少し勇気がいります。また、顔をつきあわせてのコミュニケーションも出来ません。

この様な理由でずっと経遠していたのですが、人柱レビューとしても使えるのでは無いかと、ついに先月試しに出してみました……。そして、先日オーバーホールが終わり、返送されてきましたので、後日記事にしたいと思います。

 

5.終わりに

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時計は本当に奥が深く面白い世界です。しかし、服や靴と違って置き場所に困らず、沢山買ってしまえる上に、趣味性や蒐集(コレクション)性が高く、金額が青天井という凶悪なアイテムでもあります。

普段私が利用する時計店の店主曰く、時計の魅力に取り憑かれると、常識的な費用感覚が麻痺し、底なし沼のようにお金と時間が奪われていく人が多いとのことです……。

安い時計であれば安全というわけではありません。機械式時計はビンテージだと数万円からと、手軽に購入出来ます。しかし先述したとおり、イニシャルコスト(初期費用)だけで無く、かなりのランニングコスト(維持費)が発生するからです。

 

私は、時計はコレクション対象では無く、あくまでスーツスタイルを構成するパーツの一つと考えた上で、私たちサラリーマンの限られた給料と時間で維持出来るよう、やたらに購入しないように気をつけています。

スーツ、靴、筆記具/万年筆がお好きな方――本サイトを普段からご覧戴いている方の多くは、恐らく「時計沼」にはまる素養があると思います。是非ご注意下さい……。私も気をつけます。(^^;

 

 

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