皆さんはスエード靴をよく履きますか? かつては秋冬(これからの季節です!)の定番でしたが、最近では一年中履くことが一般的になり、活躍の機会がさらに増えています。
しかし、わかりにくいのがその手入れです。 靴屋によっては「ブラッシングだけで良いですよ」とか、場合によっては「ほぼメンテナンスフリーです」なんていう人も……。
今回は、そんなスエード靴の話です。 いくつかの靴屋、靴ケアグッズ売り場などでヒアリングした結果、また自分で試した結果を基に、スエード靴の手入れについて考えてみます。
また、記事の中でも実際にスエード靴の手入れグッズを使ってみて、その効果を確かめてみました。
(基本編)スエード靴の手入れ、基本はブラッシング
まずは、靴屋、靴ケアグッズ売り場の誰もが口を揃えて唱える「ブラッシング」。私もスエード手入れのキモは、ブラッシングだと感じています。
スムースレザーでも手入れの基本はブラッシングですが、スエード素材の場合は、ブラッシングが毛並みを整える、寝てしまった毛を立たせるといった、見た目にかかわる大事な役割があります。
こちらがスエード専用のブラシ。 サフィールの「クレープブラシ」です。 一見普通のブラシに見えますが……
このように、天然ゴムが使われています。スエードの手入れには必須ですので、スエード靴をお持ちの方はぜひ使ってみて下さい。慣れないと使いづらいですが、「毛」タイプよりもこちらの方が綺麗に仕上がります。
また、雨によって毛並みがみすぼらしくなるのを防ぐ意味で、防水スプレーも有効です。スムースレザーよりも防水スプレーが革へ与える影響が少ないため、雨天時には防水スプレーを使うようにすると良いと思います。
(なお、クレープブラシでも起毛が少なくなった場合は、金属ブラシを使って起毛を増やす方法もありますが、今回は割愛します。)
スエード靴における「保革」と「化粧」は?
ところで、以前の記事「新しい靴を下ろすときの手入れを考える」で、スムースレザーの手入れは、「革の状態を保つこと(保革)」と、「革を綺麗に見せること(化粧)」の2点が重要という結論に至りました。
一部には、スエードはブラッシングで十分という意見があるのですが、皮革なので当然保革や化粧(見た目を良くする)の工程があってしかるべきで、次に、同じ観点からスエード靴の手入れを考えてみます。
(応用編1)スエード靴の「保革」
デリケートクリームや乳化性クリームなどは、はっきりと「起毛革には使えません」と記載されており、一般的なクリームを使った保革は出来ません。
これは、起毛しているため、奥の革にクリームを均一に浸透させるのが難しく、さらにクリームによって起毛部分が寝てしまうからです。
そこで使われるのが、スプレータイプの製品です。
WOLY スエードカラーフレッシュスプレー。保革と防水を1本でこなす定番品で、1本2,000円弱くらい。(「カラーフレッシュ」という名ですが、日本では保革と防水が主眼の無色のみが出回っています。)
使い方はカンタンで、スエード靴をブラッシングした後、スプレーを均等に吹き付け、乾燥させた後に、もう一度ブラッシングをするだけです。
起毛革なのでどの程度奥の革が保たれているか確認することが難しいのですが、スエードの命である起毛については、潤いと艶がよく保たれる印象です。(保革というより保毛?)
(応用編2)スエード靴の「化粧」
スムースレザーにおける化粧とは、乳化性クリームなどを使い、抜けた色を補う「補色」と、靴墨などによって艶を与える「艶だし」でした。
これは「色あせがなく艶がある状態」が、スムースレザーの靴にとっての美しい状態だからでした。では、スエード靴に於ける美しい状態とは何でしょうか?
スエード靴における美しい状態とは
箇条書きで書き出してみます。
- 毛並みが整っていること →基本編
毛が寝ていたり、ぼさぼさだったりすると、とてもみすぼらしい感じがします。毛並みを整えるのは、ブラッシングが一番です。「スエードの手入れはブラッシングだけで良い」という人が居る理由はこれでしょう。 - 毛並みに艶があること →応用編1
毛並みを整えても、水分が抜けたボサボサの状態のままなことが有ります。これは、雨に濡れたまま放っておくとなりやすい現象です。前項のスエード用スプレーで雨を防ぎつつ、栄養を与えると艶が戻ります。 - 色があせていないこと →???
スエード靴は大切に使っていても、日光の紫外線や風雨などで、どうしても少しずつ色があせてしまいます。そんなときは、補色剤などを使うことで、かなり回復します。
1は基本編で採り上げた「ブラッシング」で、2は前項の応用編1で紹介した「スエード用スプレー」で対応が可能ですよね。おそらく、日常の手入れは1と2で十分なはずです。
しかし、長く使っているとどうしても色があせてしまい、3番の処置が必要になってきます。そこで、色あせた場合の、スエード靴の補色について考えてみます。
スエード靴の補色
補色で活躍するのがWOLY スエードカラーフレッシュリキッド。さっきのスプレーと見た目が見ていますが、こちらはリキッド(直液式)タイプです。
※H30.8.5追記:現在この製品は取り扱い中止になっていおり、後継製品は「ファマコ スエアドカラーダイムリキッド」です。
左がスプレー、右がリキッドです。スプレーは無色のみですが、リキッドは黒、グレー、茶など、スエードのにあわせて様々な色が展開されています。
蓋を取ると頭がスポンジ状になっています。よく振った後、逆さまにして頭を押しつけて、スポンジに液をしみこませながら、靴にリキッドを塗布します。
こちらの能書きには「補色・栄養・防水」とあり、前項のスプレーの方は「栄養・防水」ですから、仕様上はリキッドの方がナンデモできる(上位互換)みたいです。
しかし、実際に使ってみた感想を言うと、スプレーの方は栄養○、防水◎。リキッドの方は、補色○、栄養○、防水△ といった感じです。
しかし、使いやすさは格段にスプレーの方が上なので、日常の手入れにはブラシか、ブラシにスプレーを。色があせてきたと思ったら、リキッド(+防水スプレー)がお薦めです。
(実践編)実際にスエードの手入れをしてみる
と、理論的なところは整理できた(?)ので、実際に手入れをしてみたいと思います。
今回の生け贄はこちら。3年以上履いているCrocket & JonesのSavileです。
今回は分かりやすい様に、まずは右側(左足)だけを手入れしていきます。
1.ブラッシング
クレープブラシ(↓)をつかい、ブラッシングしてみました。これだけでも十分見た目が良くなっています。
わかりにくいので、拡大した物がこちら。毛並みが整っていますよね。日常の手入れは、ブラッシング(+保革用&防水のスプレー)だけで十分な気がします。
2.保革/補色
前回の手入れから時間が経って毛に艶がなくなってきたのと、3年間、ブラッシングと無色のスプレーだけで頑張ってきたのですこし色があせ気味なため、リキッドタイプの補色剤(↓)を使って手入れをしてみます。
右側(左足)だけにリキッドを塗ってみました。ムラになっているように見えますが、塗った先からどんどん乾いていくためで、実際には均一に塗って(いるつもりで)います。
リキッドの方はこんな感じから
こんな感じになっています。
自然乾燥させてブラシをかけるとこんな感じです。補色だけでなく毛並みに艶が戻り、思った以上にいい感じになっていてビックリ。(必要に応じて防水スプレーをかけてください。)
最後に、左側(右足)も手入れします。元の写真(↓)と比べると、まさに新品同様になりました……。
まとめ
長くなったので、まとめてみます。
- スエードに乳化性クリームや靴墨は使えない
- スエードの美しさは、①毛並みが整い、②毛並みに艶があり、③色あせていないこと
- ① ←手入れの基本はクレープブラシによるブラッシングで、毛並みを整える
- ② ←艶がなくなったときは、保革用&防水のスプレーを併用する
- ③ ←さらに色があせてきたら補色用のリキッドを使う
日頃の手入れはブラッシングで十分で、たまにスプレーやリキッドを使うというのは、スムースレザーから比べると、ずいぶん手入れが楽なのが分かります。
もちろん、靴の手入れそのものが楽しいという変態(→私)が若干居ますが、手入れが楽なのは忙しいサラリーマンにとってとても嬉しいこと。スエードという素材はもう少し見直されて良い素材なのではと思いました。