みなさん「貝ボタン」を活用していますか?
貝ボタンはシャツやジャケットに使われる天然の美しい素材で、プラスチックや水牛とはまた違った高級感や風合いが特徴です。
この記事では、貝ボタンを初めて選ぶ方や、あまり使ったことの無い方を対象として、貝ボタンの基礎や魅力、取り入れ方についてまとめてみました。
前編の今回は、貝ボタンの大まかな特徴、種類、そして見分け方をご紹介します。
1.貝ボタンの大まかな特徴
そもそも「貝ボタンってなに?」「それって美味しいの?」という方向けに、貝ボタンの大まかな特徴をご紹介します。(詳細は次項以降でご紹介します。)
貝から作られたボタン
貝ボタンは、その名の通り貝殻からくり抜かれ、磨かれて作られたボタンです。
普及品のシャツボタンは、一般的にプラスチック製が用いられています。しかし、オーダーはもちろん、既製品でも高級品ほど貝ボタンが多く使われています。(見分け方については後述します。)
誤解を恐れずに言えば、シャツのボタンをみて貝ボタンが使われていると「おっ、高そうなシャツだ」「(着ている)この人はシャツにこだわりがあるな」と思ってしまいます。
美しい輝き
高級品に貝ボタンが用いられる最大の理由は、その美しい輝きです。
貝ボタンはプラスチックボタンに比べ、光によく反射してキラキラと輝きます。そして、良い貝ボタンは、まるで美しい宝石のようです。
貝ボタンには上品な高級感があり、シャツを格上げしてくれるパーツと言えます。
ジャケットにも用いられる
貝ボタンというとシャツを連想することが多いかもしれませんが、ジャケットにも用います。
むしろ、水牛の確保が難しかった戦前は、ジャケットに貝ボタンが多く用いられていたそうです。
様々な表情をみせる
天然素材である貝ボタンは、同じ種類であっても表情は様々。そのため、ボタンを通して、シャツやジャケットに画一的でない「深み」を与えることができます。
また、一口に貝ボタンといっても様々な種類(色)があり、色々な表現が可能です。(種類については、次項で詳しくご紹介します。)
それでは、貝ボタンについて詳しくみていきましょう。
2.貝ボタンの種類
一口に貝ボタンといっても、素材とその表情は様々です。
本稿では、紳士服によく使われる「高瀬貝」、「白蝶貝」、「黒蝶貝」そして「茶蝶貝」の4つの貝ボタンをご紹介します。
高瀬貝
高瀬貝(たかせがい)は、貝ボタンでもっとも一般的な素材で、巻き貝から作られます。
単に「貝ボタン使用」と表記されている場合、(価格や流通量の観点から)高瀬貝であることが多いです。
高瀬貝の特徴
貝ボタンはプラスチックボタンに比べて高価ではありますが、高瀬貝は貝ボタンのなかでは比較的安価に入手できます(とはいっても、プラスチックボタンの10倍くらいしますが。)。
スーツのパターンオーダーでも、水牛ボタンが無料の場合は、高瀬貝のボタンも無料であることが多いです。
白蝶貝
シャツ用の貝ボタンとして次にメジャーなのが白蝶貝(しろちょうがい)でしょう。真珠母貝から作られるため、海外では「Mother of Pearl」、略してMoPなどと書かれます。
高瀬貝よもだいぶ高価なため、使われるのはかなり高級路線のシャツか、または白蝶貝であることをウリにしているものが多いです。
オーダーシャツの場合は、別料金を取られることがほとんどです。
白蝶貝の特徴
高い白蝶貝があえて使われるのには理由があります。それは、高瀬貝を上回る輝きを放つことです。
高瀬貝も貝ボタンとして美しいのですが、白蝶貝の輝きはまさに別格で、惚れ惚れするほど綺麗です。
高価な理由
高瀬貝はもちろん、後述する黒蝶貝や茶蝶貝と比べても、白蝶貝は際だって高価です。なぜでしょうか。(少なくとも、テーラーやシャツ店でのオプション価格や、手芸店での小売価格を見る限り、高瀬貝の2~3倍はします。)
理由のひとつは供給量が少ないこと。高瀬貝は大きな巻き貝から作られるため、一つの貝から多数のボタンを採ることができます。しかし白蝶貝は真珠母貝として用いられる二枚貝が原料であり、採れる量が限られる(供給が少ない)ためです。
そしてもう一つは需要があること。黒蝶貝や茶蝶貝も二枚貝で供給もそう多くないそうですが、単純に白蝶貝は高瀬貝よりも輝きが強く美しいことから、価格が高くなるようです。
黒蝶貝
紳士服の貝ボタンには、高瀬貝や白蝶貝のように白く輝くボタンが多いのですが、中には色つきのボタンが用いられることがあります。
黒光りするこちらのボタンは黒蝶貝と呼ばれるもので、シャツよりもスーツやジャケットのボタンとして出会うことが多いかもしれませんね。
こちらも真珠母貝となる2枚貝から作られます。
黒蝶貝の特徴
黒蝶貝には二面性があります。
通常、ビジネスシャツの貝ボタンとしては高瀬貝や白蝶貝といった白色の貝ボタンがメジャーです。これらは、もちろんフォーマルな席にも利用可能です。
一方で、シャツに黒蝶貝はかなりカジュアルな印象で、ビジネス用途には向かないと思います。色つきのデニム地のシャツや、厚手の麻など、素材感があるカジュアルなシャツに合います。
しかし、これがスーツやジャケットとなると立場が逆転します。
スーツやジャケットのボタンにおいては、黒蝶貝であればビジネス用途にも耐えられますが、逆に白色の貝ボタンを用いるとカジュアルっぽくなるからです。
茶蝶貝
白や黒があれば茶もあるということで、茶色の貝ボタンです。
特徴や使い方は黒蝶貝と似ているため詳述はしませんが、個人的には黒蝶貝よりも生地と合わせやすく気に入っています。
写真は三つ揃いのチャコールグレースーツに茶蝶貝を使ったもの。裏地に同系色の茶を使う事で、統一感が出るようにしています。
3.貝ボタンの見分け方
役に立つかわかりませんが、以前質問をいただいたことがありましたので、「貝ボタンとプラスチックボタン」「白蝶貝と高瀬貝」について、私なりの見分け方をご説明します。
(もっと良い見分け方があれば、是非コメント下さい^^;)
貝ボタンとプラスチックボタンとの見分け方
その1:輝きが違う
光に照らすと、当然貝ボタンの方がキラキラ輝きます。
とはいえ、精巧なプラボタンもありますから、これだけだと難しいかもしれません。
その2:ヒンヤリ感が違う
貝ボタンとプラボタンでは、手触りが結構異なります。
中でも、熱の伝わり方が大きく異なり、貝ボタンの方が触ったときにヒンヤリします。
(店頭では真似できませんが)私の場合は冷たさを感じやすい上唇の「人中」のあたりで触って、「これは貝ボタンだ」などと確認したりします^^;
その3:模様が一つ一つ違う
多くのプラボタンは大量生産で同じ模様をしていることが多いです。
一方で、貝ボタンは天然素材であり、一つ一つが全く表情が異なります。
少々脱線しますが、オーダースーツやシャツで貝ボタンを選ぶ場合は、サンプルのボタンとだいぶ違う表情のものが取り付けられてしまうことがあります。店によっては取り付けるボタンを直接選ぶことが出来ますが、多くは工場の在庫から選択されるためです。その点は貝ボタンを選ぶ上でのリスクといえます。
白蝶貝と高瀬貝の見分け方
続いて、同じ白色の貝ボタンである白蝶貝と高瀬貝の見分け方を見ていきます。
ただし、かつてシャツ専門店が白蝶貝と高瀬貝を区別できずに販売し続けていた事案(参考記事)があったなど、プロでも見分けづらい問題です。
輝きが違う
高価な白蝶貝が、なぜ安価な高瀬貝と併売され続けているかといえば、(人により評価は異なり、またどちらが良いというのは誤りかもしれませんが)やはり美しいからです。
高瀬貝は少々直線的でマイルドな光り方をしますが、白蝶貝は豪華で細かく複雑な光り方をします。
ボタンの裏側が違う
最も有名な方法は、ボタンの裏側を確認することでしょう。
白蝶貝はボタンの裏も白色ですが、高瀬貝は赤や緑のマーブル模様をしています。
たとえば、こちらは高瀬貝のシャツボタンです。
裏側を見るとこの通り模様が見えます。これは大きなボタンで確認するとさらに分かりやすいです。
こちらはジャケット用の高瀬貝ボタンです。
裏返すとこんな感じ。カラフルですね^^;
とはいえ、裏側も削ってしまえばマーブル模様は見えなくなります。
こちらは先ほどのジャケットですが、フロント用のボタンは目立たないように裏が削られているようです。
こちらはシャツ用の高瀬貝ボタンの裏側ですが、おそらく削られています。
裏側が削られた高瀬貝のボタンはそう多くありません(特に、シャツボタンでは稀だと思います。)が、裏側に模様が無いというだけで、十把一絡げに白蝶貝とは言えない点に注意が必要です。
前編のおわりに
本当は1つの記事にまとめたかったのですが、前後編まとめて文字数が5,000文字をオーバーしたので断念しました。
次回は、貝ボタンを使うメリットとデメリット、貝ボタンの厚みについての考察、そしてまとめをお送りします。
もし、貝ボタンについてのご自身の考え、エピソード、取り入れ方などでご意見がありましたら、コメントからお寄せ下さい。
R01.8.27 タイトルが漠然としていたので修正しました。