前回、貝ボタンの大まかな特徴、種類、そして見分け方をご紹介しましたが、今回はいよいよ実用的(?)な内容に入っていきます。
紳士服(シャツやスーツ/ジャケット)に使われる貝ボタンについて、使うメリット/デメリット、厚みについての考察、また私なりの取り入れ方を共有したいと思います。
なお、前回の記事はこちらからご覧下さい↓。
4.貝ボタンを使うメリット
貝ボタンを使う機会の多いシャツやジャケットについて、メリットとデメリットを考えてみます。
まずはメリットから。
高級感が出る
なんといっても、一番のメリットはこれでしょう。
シャツにせよ、ジャケットにせよ、ボタンはとても目立つパーツです。
たとえばシャツの場合、タイドアップ時は袖のボタンが、ノータイであれば前立てに並ぶ多数の(ボタンダウンであればさらに+2つの)ボタンがよく見えます。(タイドアップ時は袖ボタンだけか……と思うかも知れませんが、人間は動くものがよく目に入るため、思った以上に目立ちます。)
このとき、貝ボタン(特に白蝶貝)は強い輝きを放つため、たとえ高級な生地で無くともシャツをかなり豪華に見せます。
ジャケットも同様で、フロントボタンと袖のボタンは生地の見栄え大きく左右します。そして、フェイクの(プラ製の)ボタンよりも、本物の貝ボタンの方が段違いに高級感が出ます。
清涼感が出る
ジャケットの場合、樹脂(カゼイン)、水牛、ナットなどのボタンを用いることが多いですが、貝ボタンを使う事でとても清涼感が出ます。春~夏物のジャケットにオススメです。
また、これはジャケット(替え上着)だけの専売特許ではなく、スーツにも応用可能です。
さすがに白色の貝ボタンをビジネススーツに使う事は難しいと思いますが、おとなしめの茶蝶貝や黒蝶貝でれば意外と合います。
環境に優しい
貝ボタンは炭酸カルシウムを主原料とする貝殻から作られます。そのため、たとえそのまま廃棄されたとしても、土壌や海洋の汚染に繋がりにくいのです。
一方で、プラスチックであればそうはいきません。
昨今、マイクロプスチックが問題となっていますが、環境保護の観点からも貝ボタンはもう少し日の目を見ても良いのでは無いかと思います。
(とはいえ、本格的にこの観点を語るためには、貝ボタンの製作及び流通の過程での環境負荷を別途検討する必要はありますが……。)
5.貝ボタンのデメリット
当然、貝ボタンはメリットだけではなく、デメリットもあります。
高価
シャツボタンの場合、プラスチックボタンは1個1~2円と言われていますが、高瀬貝で20~30円、白蝶貝で厚手のものになると100円位するそうです。
また、ジャケットの場合も、白蝶貝の場合は本水牛よりも高くなるそうで。
実際、オーダーシャツに白蝶貝を使う場合、多くの店で1,000~2,000円程度のオプション料金がかかります。
割れやすい
貝ボタンは、衝撃や圧力に弱いため、割れやすいというデメリットがあります。
シャツの場合、洗濯時のフチ欠けはもちろん、クリーニングの機械プレスで穴の部分が割れ(抜け)たりします。
ジャケットの場合もクリーニング時が一番高リスクで、欠けて戻ってくることがあります。また、クローゼットの扉で挟んだりしないよう注意が必要です。
目立ちすぎる
ザックリとしたカジュアルなボタンダウンシャツをオーダーで作ろうとした時、普段ドレスシャツに使っていた大きめの白蝶貝を指定してしまい、「派手すぎた……」と後悔したことがあります^^;
それぐらい貝ボタンは目立つため、製作するシャツが目指す雰囲気に貝ボタンが合わない、といったケースもあります。(とはいえ、やろうと思えばボタンは自分で交換できるので、そんな痛手ではありませんが……。)
(番外)ボロシャツの貝ボタン
ここで小休止。貝ボタンはポロシャツにも使われているというお話です。
こちらはラコステのポロシャツ(L1212)です。
よく見ると、高瀬貝の貝ボタンが使われているのが分かります。
こちらも同じラコステ(型番失念)ですが、黒蝶貝が使われいてます。
貝ボタンか使われることで、ポロシャツ全体の雰囲気が華やかになるように感じました。
6.貝ボタンの厚みを考える
貝ボタンを選ぶ時に重要なのは、その大きさです。特に、厚みは貝ボタンの見た目や使用感に大きく影響します。
シャツ用貝ボタンの厚み
標準は2mm程度
一般的なシャツ用の貝ボタンは2mm程度のものが多いです。
写真は高瀬貝のボタンですが1.8mmです。
高級品は厚みで競う?
厚手の貝ボタンは稀少なため、高級品の証しとして用いられ、ブランド物のシャツを中心に採用されています。
写真はフライのボタンで、なんと5.0mmもあります。一般的なボタンの倍以上です。
こちらはフィナモレで、4.0mmありました。
First Experienceの厚手タイプは、3.0mmでした。(とはいえ、直径が11.4mmもあるので、フライやフィナモレ以上の存在感があります……。)
厚手ボタンはコロッとして存在感あり
このように、厚手のボタンは見た目のインパクトが大きく、一目で高級シャツだと分かります。
オーダーでボタンを選ぶ際に、高級感や存在感を出したいのであれば、多少値は張りますが厚手のボタンを選ぶと良いでしょう。
一方で、機械式プレス機を使ったクリーニングの仕上げなどで、ボタンの跡が前立てについてしまったり、または欠けやすかったりするため、メンテナンスには注意が必要です。
ジャケット用貝ボタンの厚み
一般的にはかなり薄いものが多い
これは私の経験則ですが、吊し(既製品)/オーダーにかかわらず、スーツやジャケットの貝ボタンは薄手のものが多いです。
こちらはよく見るジャケット用の茶蝶貝ボタンですが、厚みは実寸で2.3mm。一般的な水牛ボタンが4.5mm厚くらいと考えると、半分の厚さしかありません。
水牛ボタンをしのぐ存在感があるため、薄くても問題が無いと感じていましたが、やはりクリーニング時に破損し易いことや、扁平で留めにくいなどのデメリットもあります。
厚手のジャケット用貝ボタンもある
テーラーに相談したところ、厚手の(しかもお椀型にシェープした)貝ボタンも一部販売されているとのことでした。
ただし、価格がいっそう高く、また流通量も少ないようですが、お願いして採用してもらったのがこちら。
実測4.1mm厚の黒蝶貝です。とても使いやすく、見た目にも優雅です。
特に三つ揃いで作ったため、ウェストコート(ベスト)のボタンの掛けやすさが全然違いました^^;
7.まとめ
前編後編を通じ、記事が長くなったので、まとめます。
- 貝ボタンとは、貝殻から作られたボタンの総称で、紳士用のシャツやジャケットにも用いられる。
- 美しい輝きがあるため、用いたシャツやジャケットでは、高級感や清涼感を出す事ができる。
- 一方で、高価、割れやすいなどのデメリットもある。
- 見た目や温感で、貝ボタンかプラスチックボタンかは見分けられる。
- 高瀬貝、白蝶貝、黒蝶貝、茶蝶貝などがありそれぞれに特徴がある。白蝶貝は最も高価。
- 厚手の貝ボタンほど高級とされ、既製の高級シャツではこぞって採用される。
- ジャケット用のボタンは薄手がほとんどだが、一部には厚手のものもあり使用感は良好。
シャツやジャケットにおいて、貝ボタンを採用するかどうかは、生地やデザイン、サイジング等から比べると些末なことかも知れません。
また、単なる「高級品の証し」という、場合によっては成金趣味的なネガティブなイメージがあるかも知れません。
しかし、デザインとうまく調和させて取り入れることで、アイテム全体の格を上げる、大きなインパクトがあるのも事実です。
貝ボタンに興味が無かった方も、本記事が貝ボタンをワードローブに取り入れるきっかけになれば幸いです。
(参考)私の貝ボタン活用方法
参考までに、私の貝ボタン活用法をお伝えします。
シャツ
基本的に貝ボタンを使う
シャツは基本的に全て貝ボタンで作っています。また、既製品でも貝ボタンを選ぶことが多いです。
自己満足も否定は出来ませんが、貝ボタンを使う事で多少安い生地でも高級なシャツに見えてしまうほど、見た目上の効果が大きいです。
白蝶貝と高瀬貝の使い分け
ドレスシャツであれば白蝶貝をデフォルトで選んでしまいますが、オックスフォード生地のボタンダウンシャツなどのカジュアルなシャツには、あまり輝きすぎない高瀬貝を使うなどの工夫もしています。
アクセントとして黒蝶貝や茶蝶貝も
デニム地等、休日の夜間使用を想定したカジュアルシャツには、黒蝶貝や茶蝶貝を使うこともあります(実は水牛ボタンも合うんですけどね……。)。
スーツ・ジャケット
スーツ
スーツは、基本的に春~夏物におけるアクセントとして、黒蝶貝や茶蝶貝を取り入れています。
ボタンによっては白色の部分が混じることがあるため、現物で選べる店だと安心です。(特に、スリーピースは縦に沢山ボタンが並ぶため、かなりボタンが目立ちます。)
ジャケット
ジャケットでは、夏用のジャケットを中心に、積極的に白蝶貝を選んでいます。華やかにしたいのであれば白蝶貝を、少しマット/大人しめにしたいのであれば高瀬貝がオススメです。
ただし、ビジネス用途として使う場合は、茶蝶貝や黒蝶貝の方が安全かも知れません(業種業態によりますけどね……。)。