スーツやジャケットをオーダーしていると、たまに出くわす「ビンテージ生地」。
ビンテージ生地とは、現在は生産されていないデッドストックの生地のこと。明確に定義はありませんが、感覚値としては概ね5年以上前に生産が中止された生地を言うことが多いと思います。
纏まった数量が確保できないため、既製服ではもちろん、他店舗展開するオーダースーツ店よりも※、生地探しが好きな個人テーラーで多く見かけます。
※大規模な生地倉庫を買収したビッグヴィジョンの店頭で並んでいて、驚いことはありますが……。
そんなビンテージ生地ですが、私も何着か作ってきた経験があります。どんなメリットとデメリットがあるのか、整理してみました。
1.ビンテージ生地のメリット
①高級生地が安価に手に入る
ビンテージ生地における一番の醍醐味が、高級生地が安価に手に入ることです。
実例で見てみましょう。
このScabalのLuxxorはビキューナ混のスーツ用生地で、バブル期にデパートで生地代だけで30~50万円くらいしていたそうです。仕立代を含めると100万円近くになりますね……。
しかし、ビンテージ生地として私が入手した段階では、生地代は僅か数万円になっていました^^;
仕立て上がりはこんな感じで、全く古くささを感じさせません。(写真には入っていませんが、用尺がギリギリ足りて三つ揃いで作りました。)
こういった掘り出し物は、今では数少なくなってきましたが、探せばまだまだあります。
そしてここ数年はチャイナや東南アジアが好景気で、かつてのバブル期のような豪華な生地が多く流通しているようです。今後、そういった生地を安く入手できる時代が来るかも知れませんね。
②差別化を図れる
ビンテージ生地のメリット2つめは、他人と被らない、差別化を図れるという点です。
差別化にはいくつかの観点があります。
生地の厚さ、重さ
生地には流行があります。
昨今は(揺り戻しがあったとは言え)薄手の軽い生地がメインで、売れ筋以外の重い生地は作られなくなっています。
一方で、ビンテージ生地の中には目付が大変重いものがゴロゴロしており、カントリー風のツイードジャケットが好きな方がビンテージ生地を漁っているのをたまに見かけます^^;
色柄
色柄にも流行があります。
オーダーのスーツやジャケットの利点として、他人とカブらないという点がありますが、色柄もビンテージであればさらに個性が出しやすくなります。
とはいえ、個性的すぎて売れ残った結果、ビンテージ生地として死蔵されているというケースもあるので、やり過ぎ注意の領域ではありますが……。
③コレクション的な価値
ジャケットの裏地に縫い付けられた生地タグ。生地タグは基本的に生地とセットで流通します。したがって、ビンテージ生地でスーツやジャケットを仕立てると、生地タグもかつてのタグがついてきます。
スーツ好き同士の会話で「それってお父様のお下がりですか?」「いや、この間ビンテージの生地を見つけてまして……」という会話が聞こえてきそうですね(ぇ
また、廃止されたブランドはもちろん、倒産した会社の生地も流通することがあるため、「マニア垂涎」みたいな領域でもあります。
2.ビンテージ生地のデメリット
メリットもあればデメリットもあるもので。続いてビンテージ生地のデメリットを考えます。
①すべてが良い状態とは限らない
「ビンテージ」と聞こえは良いですが、悪く言えば「古い死蔵された生地」とも言えます。
時間が経てば経つほど、生地は様々な劣化を起こします。(「エイジング」とか、いろいろ言い換えはできますが……。)
例えば虫喰い、日焼け、脂抜けなど。ビンテージ生地は、様々なダメージが蓄積していることがあるのです。
特に、その生地の来歴が不明なものは危険です。オークションやフリマサイトで生地を購入し、テーラーに持ち込む方もいるそうですが、私はあまり推奨しません。状態によっては仕立てを拒否されることもありますし、仕立て上がった後にダメージが発覚することも。
回避策としては、ビンテージ生地はテーラー自身に見つけてきて貰い、テーラーの責任において仕立てて貰うことです。
②サイズに制約がある(ことがある)
通常の生地は、体の大きさやオプション(ウェストコート/ベスト、スペアパンツの有無など)によって必要となった長さを切り取って使います。
一方で、ビンテージ生地の多くは、着分単位で流通していることが多いです。
従って、既に用尺分を裁断されているため、仕立て上がりのサイズに制約があったり、三つ揃いにできなかったりと、自由がきかないことも。
また、保存状態が悪く生地に傷があると、その部分を裁断時に除外する必要があるため、さらに制約が大きくなる場合もあります。
③失敗すると古くさい
ビンテージ生地は当然古い生地ですから、現在の流行とデザインが乖離しているケースがあります。
それを個性や格好良さにできない場合、一転して古くささやコスプレ感が醸し出されることに。
そうならないためにも、生地の選択や仕立てに当たっては、感性が合うテーラーに、よく助言して貰うと良いでしょう。
例えば、生地そのものは古くさそうだが、シルエットを現代風にしたり、ボタンに凝ったりすることで、一転垢抜けて見えるようになります。
3.おわりに
オーダーのスーツやジャケットをある程度こなすと、ビンテージ生地に手を出したくなってきます。
ビンテージ生地は素敵な世界なのですが、今回ご紹介したような注意も必要です。
上手く活用する一番のポイントは、ビンテージ生地が好きなテーラーを見つけること。
ビンテージ生地を多く扱う生地商とのパイプがあり、普段から扱い慣れているテーラーであれば、自分に似合う状態の良い生地を探して貰うことが可能です。