先日、面白いオンラインオーダーシャツ店についての連絡を戴きました。「フェールムラカミ」という会社です。
最近は、ベンチャーで色々なオンラインオーダーシャツ屋が立ち上がっており、情報を戴くこともあるのですが、クローゼットがシャツで一杯……ということもあり、新規に手を出せていませんでした。(情報をお寄せ戴いた方すみません。。。)
しかし今回は大手のシャツ工場自らが直販しているというもの。扱っている生地もトーマスメイソン、カンクリーニ等の舶来物もあり、高級路線に理解がありそうです。
そこで、今回はフェールムラカミに実際に注文し、レビューしてみました。もちろん、最近注文する事の多いFirst Experienceとの比較をしながら、進めたいと思います。
※ 本記事の仕様や金額については、特段記載が無い限り、レビュー品注文時点(H30.8)での情報です。
※ また、記載の金額も特記無き限り税込(8%)の金額です。
(参考)フェールムラカミについて
本題に入る前に、フェールムラカミの簡単なプロフィールだけ押さえておきます。フェールムラカミのテーラー/業者向け公式サイトによると、以下の通りです。
- 設立は平成20年
- 所在地は新潟県村上市(企業名の由来はこれですね)
- 従業員は145名、ミシン台数80前後の大規模なシャツ工場
- 取引先としてレオテックス(三越のオーダー関連会社)等
- 百貨店やテーラー等を営業先としているが、個人向けにも一部販売(地元で即売会や受注会を開いており、楽天への出店もその一環か)
念のためですが、筆者本人はフェールムラカミの関係者でも同社からお金を貰っているわけでもありません^^;
1.注文する
基本的に注文は、楽天市場のフェールムラカミからのみ可能なようです。
楽天のシステムは、オーダーシャツに向いていないような気がするのですが、とりあえずトライしてみることにします。
生地を探す
なにはともあれ、まずはサイトから生地を探します。
トーマスメイソンが一番上にあったので、とりあえずこれにしてみましょう。(緑色の線はこちらの註記。以降同じ。)
トーマスメイソンのコーナーでは、16種類の生地が出てきました。どれも同じ価格です。
今回はオーソドックスなこちらの生地を選んでみます。綿100%、100番双糸、ネイビーのピンストライプです。
サイズとオプションを選択する
このように、普通の、楽天の注文フォームなわけですが、ネーム刺繍の字体はあるのに肝心の文字の記入欄がなかったり、備考欄もなく詳細な連絡が出来なかったりで、一旦注文を中止してメールで質問してみることにしました。
ほかにも、オプションで選べる物が無いかも訊いてみます。
注文方法を質問する
メールで連絡すると、早いときは半日くらいで丁寧な返信がありました。このあたりは好感が持てます。
以下、許可を貰ったので簡単に質疑応答の内容を共有します。
注文方法について
- Q :詳細な指示やオプション指定はどの様にすれば良い?
→ メールで注文後に指定する。 - Q:一覧に掲載されている襟型8種類が全て?
→ 他にも選べる。公式サイトで60種類掲載されている(→参照)。 - Q:アームサイズ(腕周り)は指定可能?
→ 可能。 - Q:袖丈やカフスは左右で変更可能?
→ 可能。 - Q:ネームは指示する位置に入れられる?
→ 可能。(但し、大まかな位置指定のみ)
そのほかのオプションについて
- Q:オプションボタンは高瀬貝と白蝶貝を選べる? 厚手の物はある?
→ 高瀬貝のみ。3mm厚もあり。(有料、それぞれ378円、594円) - Q:余り布でポケットチーフは作れる?
→ 可能。(有料、594円) - Q:ダブルカフスは指定出来る?
→ 可能。
と、いろいろと選べるわけですが、結構自由度は高そうです。
そして注文
ということで、いつもFirst Experienceで注文しているのと同じサイズを、フェールムラカミの楽天サイトに入力し、注文しました。
※ ただし、First Experienceのサイズ情報ページは、ヌード寸と仕上がり寸を場所によって使い分けているため、こちらに転記する際には注意するようにします。
注文後、届いた自動返信メールに、襟型(サイトに掲載の無い「ワイドG」というセミワイドを選択)や、左のカフだけ少し大きくする(時計のため)、ネームの文字や場所等、追加のオプションを書いて、担当者に返信します。
そして、注文内容を変更した旨と、訂正した金額が来たら完了です。
だいたい2~3週間くらいで発送されます(私の時は、お盆休みを挟み、丁度3週間でした)。
2.外観レビュー
ということで、早速届いたシャツをレビューしていきます。
開封
こんな感じの段ボール箱の中に……。
テーラーや百貨店で見るような、無地の白い箱が入っています。
開けたところ。
残布もはいっていました。
今回は、共地でポケットチーフを頼みました。
シャツと共地のポケットチーフは、コーディネートがし易い上に、オーダー以外であまり見かけないので他人と被る事が無く、結構重宝します。
トーマスメイソンの織りネーム。(右上の白い部分は、私のイニシャルが入っていたのを、画像処理で消しています^^;)
襟
今回選んだのは、セミワイドの「ワイドG」という襟型です。
楽天のサイト上に掲載されていた襟型は、レギュラーと極端なワイドしか無かったので相談したところ、これをオススメされました。
トルソーに着せた状態。
少し浮いてしまっていますが、一回洗ってアイロンを掛けると、ここまで浮かなくなりました。(とはいえ、First Experienceの方がしっかりと着地している感じで好みです。)
ちなみに、襟はトップヒューズ芯(永久接着芯)です。賛否両論あろうかと思いますが、個人的にはフラシ芯(以下の「(参考)トップヒューズ芯とは?」を参照)の方が好みです。
もしや……と思って裏も確認すると、カラーキーパーがまさかの埋込式^^;
いまどき接着芯+埋込カラーキーパーは量販店のシャツでしか見なくなった仕様です……。
ただし、後日この仕様について確認したところ、標準はこれだが、無料でフラシ芯やカラーキーパー取外し式に出来ると回答が。
くわえて、芯地の堅さも調節出来るそうで、正直、最初からサイトに書いてくれれば……と思いました。
(参考)トップヒューズ芯とは?
襟の芯地を、襟の表地と接着剤でくっつけるタイプのもの。製造しやすく、安価なシャツに多いが、芯が縮んで襟がカールするトラブルが発生することも。
ただし、常時ノリが効いたバリッとした見た目を維持する為に、あえてオーダーで指定する人もいるそう。
一方、ノリで接着しないタイプを「フラシ芯」という。生地の柔らかさや風合いが出やすいため、最近の高級シャツはほとんどこれ。
水溶性の接着剤を使い、洗濯後にフラシ芯化する「仮接着芯」もあるので、購入時に見分けがつかないこともある。
ボタン
今回は3mmの高瀬貝ボタンにしてみました。
それがこちらです。
First Experienceの高瀬貝ボタンと殆ど変わらない大きさです。白蝶貝の3mmよりは、少し小さめでしょうか。
ただし、このボタンが襟の第1ボタンや、剣ボロのボタン(袖の第2ボタン)にも取り付けられていたため、つけ外ししにくいという……^^;
後日この仕様について確認したところ、標準はこれだが、無料で小さい3mm厚の高瀬貝ボタンにできるとのことで、正直、最初からサイトに書いてくれれば(後略)。
また、スペアボタンはありませんでした。
縫製
肩の部分。
脇の部分。(腕を上げたところ。)
裾部分。ガゼット(補強布)はありません。(個人的には不要な意匠だと思っています。)
すこし意地悪なレベルですが、柄あわせは……少しズレている?
ポケットチーフ
共地のポケットチーフです。
500円台で作ることができるのは、かなり安い方だと思います。
縫製も良い方だとおもいます。
1辺は約30センチ。
フランコバッシのチーフと比べると若干小さめですが、国産としては普通のサイズですね。
(参考)First Experienceでもポケットチーフのオプションが始まるそうです
以前から、First Experienceに「ポケットチーフのオプションが欲しい!」とお願いしていたのですが、なんとこの度実現するそうです。
前回の注文時、再度ダメ元&久しぶりにこの件をお願いしたら「やる方向で検討します」とのお返事が。しかも「試作品作ってみました」と、シャツの納品時にチーフを同梱いただきました。
それがこちら。
綿麻のシャツなので、チーフがあるとノーネクタイでも綺麗に見えるので助かります。
残布が体型によってことなるため、サイズが人により若干違うかもとのことですが、麻素材を多く扱うFirst Experienceでこのオプションは本当に嬉しいです。
10月までにはスタート予定、価格は1,080円とのことでした。
スーツを着せる
ジャケットのみ。
三つ揃い。
ウェストコートのみ。
やはり、こうなる恐れがありそうです。
ウェストコートを着る方は、注文時に襟を堅めにしたり、キーパーは取外し式にした方が良さそうですね。
背の部分。綺麗ですね。
ネクタイと襟のアップ。比較的好きな襟型でした。
3.着心地レビュー
基本的には良い着心地
自身の体にあわせて作られており、また生地も名門トーマスメイソンなので、何か違和感があるというわけではありません。
ただし、いくつか気になる点があったので、ご紹介します。
カフが短い?
着心地に影響するところとして、カフの長さが最近のトレンドより若干短い気がします。実測値、6.5センチでした。
一方、First Experienceや、土井縫工所など、これまでレビューしてきたシャツは殆(ほとん)ど7センチです。
個人の好みにもよりますが、5mmは結構着心地や見た目に影響します。(シャツの袖をしっかりジャケットから出しておきたい、という場合には少し長めの方が良いと思います。)
ただし、祖父が古いシャツ屋や百貨店で作ったものが殆ど6.5センチでしたから、年配者向けにはこちらの方が馴染みが良いかも知れません。
カフの型にも注意
また、カフのデザインも往年の「アジャスタブル(ボタンが2つあるタイプ)かつコンバーチブル(カフリンクスがつけられるタイプ)」なものしか選択肢がありませんでした。
オーダーメイドなのにアジャスタブルなのは少々格好が悪いので、こちらもメールで今回の注文ではやらないようにお願いしました。
ボタンつけが弱い?
機械で自動的に取り付けるタイプだと思いますが、若干ボタンつけが弱い気がします。
最近の高級シャツは、止めにくくかつ負荷がかかりやすい、少なくとも首の第1ボタンと両袖のボタンの計3カ所について、ボタンをしっかりつけた上で、根巻き(下の写真参照)をします。
しかし本製品については、1回の洗濯で袖のボタンから引っ張ると簡単に取れる糸が出てしまい、自分でつけ直しました。
少し大きめ?
もうひとつ感じたのが、若干余裕を持って大きめに作られているという点です。
同じ数値で、テーラー経由でもFirst Experienceでも注文していますが、フェールムラカミはすこし余裕をもった作りな気がします。
特に、首周りの遊びは1センチくらい、大きくとってあると思いますので、その点を留意して注文を出すと良いでしょう。
カフの長さと良い、古き良き(いまでも?)百貨店と似た雰囲気を感じます^^;
4.First Experienceとの比較1(価格)
どうせなので、First Experienceとも比較してみます。(なお、First Experienceは、上級ラインのUEMACHI MODELINGを前提として比較しています。)
最初は価格です。文章だと分かりづらいので、表にしてみます。
今回と同じ仕様で、First Experienceで作るとどのくらいかかるかを比較してみます。
フェールムラカミは、フラシ芯やサイズの細かい調整は無料なのに、背ダーツ(背中~腰の部分につまみを入れて、腰部分をくびれさせる方法)有料というのが面白いです。
比較すると、5,000円弱First Experienceの方が高い、というよりはフェールムラカミが安すぎますね^^;
トーマスメイソンはここ数年値上げが激しく、1万円台前半ではもう買えなくなってしまいましたが、ポケットチーフと高瀬貝までつけてこの価格です。
なお、First Experienceもセール時にはこのくらいまで下がります(基本料金の30%OFFセール前提)。
これだと良い勝負です。ただし、全ての生地がセールにかかる事は滅多に無いので、その点はじっくり待つしか無いですね。
5.First Experienceとの比較2(オプション/仕様)
続いて、オプションや仕様の状況を確認してみます。
表の読み方(凡例)は以下の通りです。
- ○:無料で対応可能
- ★:サイトでは説明も入力項目もなく、後からメールで指示する必要がある裏メニュー
- -:今回購入時に標準で未対応(……つまり、オプションで出来るか聞き忘れた項目^^; すみません)
オプション/仕様の傾向
先ず目に付くのが、フェールムラカミの★マーク(サイトに掲示が無い裏ニュー)の多さでしょう。カスタマイズ性がとても高い(襟型が60種類!)のは分かりますが、一方で周知されないオプションは無いのと同じです。
普段指定する客が少ないのかもしれませんが、ネットの良いところは多品種を提示できるところ、つまり多岐に亘る個人の嗜好を一気に受け入れられるところです。
(工場直営なので当然ですが)製造側が許容するのであれば、許容する内容を全て提示する方が良いと感じました。
サイトリニューアル?
ただし、フェールムラカミによると、近日サイトリニューアルの予定とのことでした。(8月に確認した際9月予定との事でしたが、先日確認すると作業遅れで時期未定になっていました。)
これだけ多彩なオプションが選択可能なのは、他には無い大きな強みです。サイト更改時には、ぜひとも対応可能なオプションを分かりやすく、そして選びやすく掲示して欲しいと感じました。
オプション価格の傾向
工場直営の強みとして、フェールムラカミの方がオプションにお金を取らない傾向にあることがわかります。
なお、First Experienceが高いのかというとそうではなく、一般のテーラーと同じような価格です。
オプションは美味しい?
これは別のテーラーからきいた話ですが、工場側としてはオプションの料金には殆ど原価がかからないものが多いそうで。
薄利でまわしている工場側としては、オプション料金は貴重な利益源なのですね。
これはパターンオーダーやイージーオーダーのスーツでも似た様な現象があり、元の値段が高めのイージーオーダーでオプションを入れまくると、フルオーダーと変わらない値段になったりします……。
その他
白蝶貝は輝きが違うので、ぜひフェールムラカミも対応して欲しいところですね。
6.First Experienceとの比較3(個人的評価)
最後に、自分なりの評価をしてみます。
私の好みが多分に入っていますので、その点を前提としてご覧下さい。
項目別評価
価格
一般のテーラーや百貨店から比べると、両者共に安いと思います。ただし、非セール時でも安いフェールムラカミは、一歩優勢ですね。
縫製
完全に個人の好みですが、運針や柄あわせなどを考えるとFirst Experienceの方が優勢。
デザイン
襟の作り方、カフの形状や長さ、ゆとりのサイズなど、個人的にはFirst Experienceの方が好みのデザインでした。
ただし、古典的な百貨店風のシャツが好みの方は、フェールムラカミの方がよいと感じます。
生地の豊富さ
圧倒的にFirst Experienceの方が勝っています。個人的には麻や綿麻のシャツが大好きなので、こういったラインナップが多いFirst Experienceはとても助かっています(既製服でも殆どなく、テーラーやオーダーシャツ屋にも少ないですよね……)。
もちろん多品種にもデメリットはあります。例えば在庫が増えたり、逆に在庫をもてないことで小ロット購入になったりと、基本的にコスト増に繋がります。一概に私たちのメリットに繋がると言えないのが難しいですよね。
フェールムラカミのように、生地の種類を絞り、価格を低減させるのは一つの戦略として有りだとは思いました。(個人的には多品種の方が好きですが……。)
ただし、First Experienceについては、セール等を考慮するとかなり価格的に努力しているのが分かります。
カスタマイズ性
他の業界もそうだと思いますが――カスタマイズが多く/細かくなると、販売と製造の間で意思疎通が煩雑になったり、ミスが起きやすくなり、製造側が嫌がるというご経験をされた方も多いと思います。
その点からすると、現段階でもFirst Experienceはよくやっていると思いますが、嫌がる製造側がいないフェールムラカミの方が優勢な結果になりました。
ただし、先述したとおり「購入者側が認知できないオプションは、存在しないのと同じ」という考え方もあります……。
注文しやすさ
採寸方法の詳細な説明や、ゲージ服(採寸用の服)の貸出、スマホフレンドリーなサイト設計、そしてオプションの選びやすさから圧倒的にFirst Experienceの優勢です。
フェールムラカミは、サイト更改の結果がどの様になるのかが楽しみですね。
サポート
今回、オプションや仕様について、フェールムラカミの担当者に質問攻めをしてしまいましたが、丁寧にかつレスポンス早くご回答を戴きました。
First Experienceについても、普段から各種QAに対応いただいており、両者ともに高品質なサポートを提供していると感じます。
評価のまとめ
各項目をA~Cで点数付けしてみました。また、総合評価もつけてみます。
※ ム:フェールムラカミ、Fex:First Experienceの略
繰り返しになりますが、あくまで個人的な好みをもとにした評価として、現段階ではFirst Experienceの方が総合評価高めでした。
生地の豊富さや、注文のしやすさが改善されれば、フェールムラカミもリピート購入先として組み入れても良いかな……と感じました。
以上、長くなりましたが参考になりましたら幸いです。