「スーツの外ポケットには物を入れてはいけない」のはある意味原則になっていますが、唯一の例外が、装飾品を胸ポケットに入れることです。
そう、一時期廃れてしまいましたが、最近復権の兆しがあるポケットチーフです。
そこで問題になってくるのが、ポケットチーフ以外のものを入れても良いのか、ということです。最近「ペン(あるいは万年筆)を胸ポケットにいれても良いの?」という質問が立て続き絵に来ました。
答えは、由来やデメリットを理解していればYESです。
なぜYESなのか、そして胸ポケットにどの様な由来があり、胸ポケットにペンを差すことがどうデメリットに繋がるのか、今回は考えてみます。
胸ポケットの由来
そもそも、胸ポケットって何のためにあるのでしょうか?
諸説有りますが、胸ポケットが現在の形になったのは19世紀のチェスターフィールドコートといわれています。
そして、そのポケットに手袋を入れていたようです。そう、はじめからポケットチーフが入っていたわけでは無いのですね。
胸ポケットは装飾品のためのポケット
つまり、オーバーコートなので、ポケットに手袋を突っ込んでいても違和感が無かったわけです。
しかし、スーツはオーバーコートではありません。ある程度のエレガントさが必要とされています。
そういった理由から、スーツの胸ポケットはチーフだけ存在を許されているという意見もあります。
エレガントな装飾品として使えるか、がポイント
では、ペンや万年筆はエレガントじゃないのでしょうか?
かのモンブラン(Montblanc)が装飾品メーカーになったように(賛否両論有りますが^^;)、筆記具は立派な装飾品なのです。
日本ではポケットチーフと呼ばれていますが、欧洲では単にhandkerchiefと呼ばれています。
ポケットに入れようが、汗を拭こうが、鼻をかもうが(失敬)、ハンカチーフなのです。つまり、ポケットチーフも元は実用品。それが、胸元に挿したときに綺麗だから、装飾品になったのです。
厚手のジャケットに手袋を差した例
ジャケットならば、ある程度ラフな着こなしが許される
この例はオーバーコートでは無いが、今でも冬場には十分通用する着こなし
胸ポケットに厳密なルールは無い
初心者でも簡単にスーツスタイルが楽しめるのは、スーツスタイルにルールがあるからです。
一方、このルールは、(ルールを知り、かつある程度TPOを踏まえた上で、意図的に外す以外においては)基本的には沿うことが求められています。
では、ポケットチーフに明確なルールがあるのでしょうか。
ポケットチーフにも明確なルールは無い
パーティや式典の際に着る礼服、準礼服のように、ポケットチーフが半ばルール化されている物もあります。
しかし、私たちが普段着用するスーツにおいて、ポケットチーフはあくまで任意の装飾品です。つまり、必須の、明確なルールは存在しないのです。
もちろん、ガイドライン的な物は存在します。フォーマルな差し方はこれだとか、タイと完全に同じ色柄や大判の物で胸ポケットをモコモコにするのは野暮だとか。
まさに、そんな程度なのです。
一番ポピュラーな「TVフォールド」の例
オフィスでも十分通用する
TVフォールドより洒落た感じの「パフドスタイル」
オフィス内では難しいかも知れないが、アフターファイブにはこちらの方が良いかも
胸ポケットのおしゃれで注意すること
先述したように、胸ポケットは元々手袋も入っていたわけで、チーフだけの物ではありません。
美しければ、格好良ければ、ペンが入っていようとなんであろうと良いのです。
しかし、いくつかの制約があることを忘れてはいけません。
これはポケットチーフであっても同じ事です。
高級感のある物を
一つは、格好良くなくてはいけません。つまり、100円のボールペンや子供っぽいサインペンではダメなのです。
高級感のある、あるいは装いにあったペンを差すようにして下さい。
統一性を持たせる
また、コーディネートにも注意が必要です。
たとえば金属類(ペンクリップ、ベルトのバックル、腕時計の金属部分など)の色は統一するなどの、おしゃれ/コーディネートへの配慮も必要です。
胸ポケットにペンを差すデメリット
写真のペンは、冒頭の写真と同じく、モンブラン(Montblanc) マイスターシュテュック149万年筆(ドイツ製)です。
これを、濃紺無地のスーツに差してみました。華やかさはありませんが、非常に誠実な印象です。
生地を傷めないようにする
ただ、胸ポケットに差したペンを、筆記用に使うのはちょっとしたデメリットを受け入れなくてはいけません。
というのも、クリップの力が強いため、頻繁に抜き差しをするとスーツの生地を傷めます。要は、胸ポケットのハコの上に、ペンの痕がついてしまうのです。
そこでお薦めなのがバネ式のクリップを使ったもの。
写真の製品はファーバーカステル(FaberCastell)の伯爵コレクション/ギロシエロジウム万年筆(ドイツ製)です。
クリップにバネ付きの蝶番(ちょうつがい)がついており、適度な硬さで生地を挟み、傷みづらいのです。
(ファーバーカステル社の伯爵コレクションは、多くがこの様なギミックをとり入れています。)
ポケットの「笑い」にも気をつける
胸ポケットに入れる物は、似合っていれば何でも良いのですが、もう一つ気をつけたいのはポケットの「笑い」です。
笑いとは、ようはポケットの口が開いてしまい、笑っているように見えてしまうこと。大きな物や、重い物をずっと入れっぱなしにしていると、胸ポケットの形が崩れてしまうのです。
ペンを選ぶ時は、なるべく軽いものにします。
まとめ
- スーツの胸ポケットは、ポケットチーフだけの物では無く、似合っていれば、ペンや手袋を入れてもOK
- 万年筆は、クリップが堅い物は跡が残りやすいので注意
- 重い物、大きな物は型崩れが起きるので注意
ちなみに、スーツには「ペンポケット」というのがついています。
ちょうど、左側の内ポケットの下についていることが多いようです。実用のペンはこちらに入れておくとスマートだと思います。
ちなみに、私は胸ポケットにペンを差した場合、それを筆記用に使うことはしません。
※ トイレで手を洗った後、ポケットチーフでは手を拭かないのとおなじです。
スーツ好きの人に、万年筆好きの人が多いように思うのは私だけでしょうか(^^;
やはり、クラシカルな様式美、機能美に惹かれる人が多いのだろうと思います。
スリーピース(三つ揃いスーツ)にクラシカルな万年筆……。やっぱり格好良いですもんね。