今年もクールビズが始まりました。クールビズは依然賛否あり、特にクラシカルなスタイルを好む方を中心に、否定派もいらっしゃる事でしょう。
私もクラシカルなスーツスタイルが好きですが、クールビズの潮流はもはや止められる物でなく、逆に装いの幅を広げられる好機と、ポジティブに捉えることにしています。
とは言う物の、自由度の高さゆえに、クールビズはどういう格好をすれば良いのか迷う部分が多いのも事実です。特に、業界や職種によって許容範囲も異なるため、百貨店やファッション誌のコーディネート例を見ても当てにならないことが多々……。
そこで今回は、どこでも通用するベーシックなジャケパンに絞って、どんな格好ならこの季節のビジネスシーンで業種/職種問わず広く活躍できるか、さらに、ありきたりのジャケパンにどんな工夫が出来るかも考えてみます。
※ 本稿は、ビジネスではスーツしか着てこなかったという方向けに、かなり基礎的なところから書きました。ジャケパン上級者の方は拾い読み推奨です。
1.目的の整理
まず、本稿ではどんなクールビズのスタイルを目指すかを考えます。
見た目が涼しい
まずは基本的なところから。当然ですが、クールビズですから、ますは見た目に涼しい必要があります。
なにを当たり前のことを……と思われるかも知れませんが、ファッション、特にビジネスシーンにおけるファッションは、「自分が他人にどう映るか」が、とても重要な要素です。
従って、暑苦しく感じさせない、「見た目の涼しさ」確保を、一つ目のポイントとします。
実際に涼しい
二つ目のポイントは、自身が実際に涼しいことです。
クールビズ期間中、オフィスではおよそスーツスタイルには耐えがたい28℃に、室温が設定されます。(この数字には科学的根拠が無かったと、昨今話題になっていますが……。)
また、当然オフィスの外でも、(とりわけ営業職等外回りが多い方は長時間)高温の外気に曝され、できるだけ暑さをしのぐ必要があります。
そんなとき、熱が籠もる格好をしていては、思考能力と体力が共に奪われ、生産性が著しく下がることは火を見るよりも明らかでしょう。
格好良く見える(信頼感や清潔感を感じさせる)
単に見た目が涼しそうで、自身が涼しい格好……というだけでは、ビジネスシーンにおいてはNGでしょう。
接客業にかぎらず、殆どの仕事は対人関係が中心に成り立っています。軽装の期間にあっても、社内外の関係者に対し、自身の能力/主張を適切に(時には120%に)アピールできるなど、服装による信頼感の演出はとても大切です。
また当然ですが、対人関係を維持する最低限の清潔感も重要です(夏は汗や臭いがやっかいです)。
2.クールビズでは、ジャケパンに挑戦してみる
スーツ好きの方にとって、またはこれまでビジネスではスーツしか着てこなかったという方にとって、会社でのジャケバンは抵抗感があるかも知れません。
しかし、クールビズのスタイルには、やはりジャケパンが適していると考えています。
スーツから「ネクタイとっただけ」は難しい
スーツはその完成度の高さ故、ネクタイを外すとどうしても不格好に見えてしまいます。
これは、スーツは上着もズボン(英語でトラウザーズ、米語でパンツ)も同じ生地を使っているため、いわゆるVゾーンにネクタイの彩りがないと、どうしても味気ない印象になるからだと思います。特に、ビジネス用のダークスーツで「ネクタイとっただけ」をやると、かなり悲惨です。
ノータイに耐えるジャケパン
一方でジャパンは、上着とズボンで色が(当然ですが)分かれます。これによって、ネクタイをせずとも装いが華やかになるのです。
なお、前提として、ネクタイは残念ながら日本の夏にとって「見た目」「実際」の両方で暑すぎるアイテムであり、特に盛夏における装着は難しいと考えます。(麻素材やニット素材のネクタイなど、見た目的に涼しさを演出できるものもあります。しかし、いかに素材に気をつかったとしても、シャツの第1ボタンを閉じネクタイを装着すると、体感で3~5℃くらい高くなるのは言うまでもありません。)
どんなジャケパンを選ぶ?
それでは、具体的にどんなジャケパンを選べば良いのか考えます
ネイビーのジャケットとグレイのズボンでOK
誤解を恐れずに言うと、ジャケパンは「ネイビーの上着に、グレイのズボン」とだけ、まずは覚えておけばOKです。
あとは、シャツや靴のコーディネート、上着/ズボンの色の濃さや材質、細かいデザイン等でバリエーションをつけていきます。
もちろん、グレイやグリーン、ブラウンなどのジャケットも良いですが、「ビジネス」「夏季」「合わせやすい」という前提条件がつくと、やはりネイビーのジャケットにグレイのズボンという組み合わせが一番です。
(参考)他の色のジャケットってどう?
量販店に行くと、黒やグレイのジャケットも薦められることが多いです。これら無彩色は汎用性が高そうに感じますが、実際には経験上、ズボンとのコーディネートが難しいため、少なくとも最初は避けた方が良いと感じます。(ジャケットとズボンのコントラストがつけづらく、また両者の材質/質感の違いも分かりやすいため、ちぐはぐになりやすいのです……。また、黒はどうしてもモード感が出てしまうこと、そして暑苦しく見えかつ実際に暑いため、オススメしません。)
既製品では数が少ないですが、グリーンやブラウンのジャケットも個人的には好きです。しかし、ことビジネスという前提からすると、万人受けしないでしょう。(秋口には良いかも?)
あとは、生成り(アイボリー)の麻ジャケットや、水色なんかも個人的には好きなのですが、こちらも業界や職種を選びそうですね……^^;
3.ジャケットを脱いでも様になる格好を
続いて重要なのが、シャツです。
というのも、(これも保守派から否定されそうですが)基本的にはオフィスでは上着を脱ぐことが多いでしょうし、特に炎天下の外回りでは上着は脱いだまま持ち歩きますよね。
また、そもそも7月くらいになれば、ジャケットそのものを会社に着ていかない、という選択もありえます。(突発での謝罪対応など、上着が要る可能性がある方は、汎用性の高いジャケット、またはスーツを会社に置いておくことをオススメします……。)
その時に一番注目される(人に見られる)のは、やはりシャツだからです。
適正サイズを選ぶ
クールビズにおける、シャツ選びの一番重要な点は、なんといってもサイズ選びです。
なにを当然のことを……と思われるかも知れません。しかし、スーツにおいては首回りと袖丈だけ気にしていればなんとかなっていたところが、ジャケットを脱いだ状態が基本になることで、その他の部位のサイズ違いが露わになってしまうのです。
一方で、シャツは基本的に「首回り」と「袖丈」の組み合わせしかなく、ヒドイ物ではS、M、L、LLなどの数サイズ(基本的にこういうサイズ表記のシャツは、ビジネスには向きません)という有様です。
従って、標準体型から外れる方は、安いところでよいのでオーダーシャツをオススメします(特に、鍛えている方、肥満/やせ体型の方は、首回りを基準に選ぶと胸回りと腹回りに、どうしてもサイズが合っていない感じが出てしまいます)。
へんな装飾はいらない
インターネットの普及でだいぶ浸透してきた点ではありますが、シャツの過剰な装飾は、少なくともビジネス用途やジャケットを着る前提においては避けた方が良いでしょう。
代表的なものが、襟の色つきステッチ、二重の飾り襟、襟裏の派手な別布等々です。
カジュアルシャツとしては問題はありません。しかし、どうしても遊びの要素が強くなってビジネスには不適であること、また個人的な感想ですが、こういったシャツに良い品質のものが少ないと感じるからです(粗悪な食品を濃い味付けでごまかすのと同じ)。
素材感のあるシャツを着る
とはいえ、スーツ用のプレーンなドレスシャツを着るのも、味が無いと感じるかもしれません。
そこでオススメなのは、オックスフォード生地や、綿麻素材の生地など、ザックリとした素材感を生かしたシャツです。
また、クラシカルなスーツスタイルでは嫌われるディテールですが、スポーティなジャケパンにテイストを合わせ、ボタンダウンシャツを合わせるのもオススメです。特に、ノーネクタイの場合は襟が潰れやすいということもあり、ボタンダウンの利用価値は高いです。
下着で汗と透けを防ぐ
また、シャツだけになる機会が多いと言うことは、シャツに現れる不潔感を取り除く事も重要です。
不潔感の3大要素が、「滲み、張り付く汗」と「透ける乳首」と「透けるアンダーシャツ」です。
そしてこれらは、適切なアンダーシャツの選択と、制汗剤の利用によって、多くの場合簡単に解決できます。(とりあえず、ベージュ色のグンゼYGカットオフと、スティックタイプのレセナドライシールドを買っておけばなんとかなります……。)
詳しく知りたい方は、過去に以下の記事で取り上げていますので、宜しければご覧下さい。
4.涼しげな素材とは?
ジャケットやシャツの素材として、涼しげに見えるものをご紹介します。こちらも「ありきたり」を回避する、一工夫につながるポイントです。
麻
麻は、夏の代表的な素材で、ジャケット/シャツ共に使われます。
シワになりやすいという欠点はありますが、特に麻のシャツは見た目にも着心地としても涼しいため、本当にオススメです。私も、夏場はほぼ麻素材入りのシャツしか着ないくらいです。
シワや透けが気になる場合、シャツであれば綿との混紡を、ジャケットであればウールとの混紡を選ぶことで、軽減できます。
綿
綿も涼しげな素材です。
シャツでは綿は当たり前ですが、ジャケットでも綿を選ぶという選択肢も(業界や職種によっては)アリだと思います。
ただ、ジャケットについては、麻よりもカジュアルな感じが出やすく、汎用性はあまり高くないと感じます。
強撚ウール
ジャケットの素材です。ウールでも強撚で目の粗い素材は、涼しげですし、かつ風通しが良く実際に涼しく感じます。
モヘア混紡にすることで光沢感も出るため、ビジネス用途としても適しています。(ただし、混紡率が50%を超えると、光沢が強すぎてかえってビジネス感が無くなることがあるので注意します。)
▲ 上記の生地を、マイクロスコープで拡大したところ。糸は強く撚られているが、撚糸同士に隙間があり、風通しが良い。
ただし、素材感は揃える
涼しげな素材も重要ですが、見栄えの点でもっと大事なのは素材感を揃えることだと思います。
例えばジャケットだけザックリとしたものにしても、ズボンとシャツがツルツルだと、ちぐはぐに見えます。
ジャケパンは上下で生地が異なるため、気をつつけないと質感も上下で違ってしまう可能性があります。コーディネートを考える際は、色の相性に加え、上下で質感が違いすぎていないかの確認が重要です。
5.黒色だけがビジネスシューズではない
最後に靴の話を。実は、靴もクールビズにおいては大変重要だと感じます。
ジャケパンに靴も合わせる
これまでのビジネス用ダークスーツから、少しトーンが明るいジャケパンになったことで、靴についても見直しが必要です。
もちろん、ジャケパンに黒色のストレートチップがダメではないのですが、どうせならトーンやテイストを合わせると格好がよいです。
まずは内羽根のダークブラウン
そこでオススメなのが、内羽根のダークブラウンです。
内羽根はきっちり感を高めるディテールであり、ダークブラウンはビジネス用途として問題の無い色だからです。
装飾は、心配な方はフルブローグ未満とすれば、ビジネススタイルとしてどこでも通用すると思います。
ベルトと靴下に注意
ここで注意したいのは、ベルトと靴下です。
普段黒い靴ばかり履いている方が茶靴を導入すると、黒ベルトのままということが良くあります。
基本的に、革製品は色を揃えることでコーディネートに一体感が生まれます。そのため、少なくともベルトは、靴の色と揃えるようにします。(鞄、時計のベルトなども合わせられればなお良いと思います。)
また、ジャケパンにしたからといって、靴下までカジュアルにする必要はありません。スーツと同様、ロングホーズ(長いハイソックス)ですね毛の露出を防ぐ必要があります。
色は黒でもよいですが、(ネイビーのジャケットや茶靴にあわせて)ネイビーやミドルグレイも良いと思います。
クールビズはスーツのネクタイやジャケットをとっただけ、という方は、この夏、是非ジャケパンスタイルに挑戦してみて下さい。