みなさんはスーツ派ですか? ジャケット&パンツ(ジャケパン)派ですか?
私は、平日の殆どがスーツということもあって、当サイトであまりジャケパンの話題を取り上げてきませんでした。
しかし先日質問箱宛に「ジャケパンの話が少ない、基本を知りたい」「クールビズでジャケパンにしたいが、どうもしっくりこない」など、ジャケパンに関するメッセージを複数戴きました。
また、5月のクールビズ開始と同時に「ノータイスーツもどき」や「不自然なジャケ(スーツ上着)パン」を街中で多く見かけるようになり、悩んでいる方は多いのではと感じるようになりました。
そこで今回は、ジャケパンの基本について、みなさんと考えてみようと思います。
はじめに
ひとくちにジャケパンの基本と言っても、検討の観点は様々です。
そのため、今回は以下の状況を想定した、アドバイス形式の記事にしたいと思います。
- 普段はスーツしか着ていないビジネスマン
- クールビズを切っ掛けに、平日の勤務にジャケパンを取り入れてみたいと考えている
こんな時、どうやってジャケパンに必要なアイテムを買いそろえていったら良いのか、考えてみることにしましょう。
1.まずは「紺無地の上着」と「グレイ無地のズボン」を「セットで」選ぶ
もし、ジャケパンを1着も持っていないのであれば、揃えるべきは紺無地のジャケットとグレイ無地のズボンがオススメ。それも、セットで揃えましょう。
なぜ「紺無地の上着」なのか
紺のジャケットは、グレイ系、紺系、茶系等々、比較的多くのズボンと合わせやすいのが特徴です。(それが、ビジネスでの使用に耐えうる地味系の色であればなおさらです。)
グレイや黒のジャケットも無彩色だから合わせやすいのでは? と思いますが、色つきのズボン選びや、コントラスト調整が難しく、実際には上級者向けです。
グレイ系のジャケットが難しいのは、私に色選びの能力が無いだけかも……と当初悩んでいました。しかし、複数のテーラーでこの話をしたところ、ビジネス系の組み合わせをする場合、グレイの上着は組み合わせが難しく、生地選びも苦労する場合が多いとのコメントが多かったのを覚えています。
また、紺色、特に紺無地は誠実に見えやすい色合いです。普段のスーツからフォーマル度が落ちるジャケパンに変更する際、(言い方は悪いですが)最も無難な選択肢といえます。
なぜ「グレイ無地のズボン」なのか
今後、どんな色や柄のジャケットやシャツを持ってきたとしても、グレイ無地のズボンは期待を裏切らない万能選手として活躍してくれます。
また、靴の色が黒、茶、紺、バーガンディなど、様々に合わせやすいのもグレイパンツの特徴です。
たとえるならば、スーツにおける白や水色のシャツ、紺無地のサテンタイのようなものです。グレイ無地のズボンは、今後、ジャケットを増やしていったときに、ペアを組ませられるよい財産となるでしょう。
なぜセットで選ぶのか
ただ、一言グレイ無地といっても、様々な濃さや生地の質感があるのは事実です。
写真は、手近にあったグレイ無地ズボンの一部です。単純にグレイといっても、チャコールグレイからオフホワイトまで、様々な色味があるのが分かります。
紺無地×グレイ無地なら、相性が悪いという事態は少ないですが、それでもジャケパンの色合わせは意外に難しいものです。
そこで、最初の2~3着は、ジャケットとズボンを一緒に買うことをお薦めします。(オーダーする場合も同様。)
私の場合は、今でもズボンとセットでオーダーすることが多いです。いざというときに困らない「これは鉄板!」という組み合わせを作れたり、ジャケットとズボンのボタンを同じ物にして遊んだり出来、オススメです。
「“なんでもできる”は“なにもできない”」の格言と同様、店員の「何にでも合います」は、自分で合うか判断できるまでは鵜呑みにしない方が良いです。特に、自分の記憶にある色は現実とかけ離れていることが多く、また蛍光灯の下、日光の下で色味も全く異なってくるため、ジャケットの生地とズボンの生地を実際に突き合わせて見比べることが重要です。
2.茶靴に挑戦する
茶靴の理由
スーツスタイルの場合、とくにビジネスにおいては黒い革靴が多いことでしょう。しかし、ジャケパンの場合は、往々にしてスーツよりも明るいトーン――特に、ズボンを明るくすることが多いです。
このため、黒い靴のままだと、ズボンと靴のコントラストが大きくなってしまい、目立たないはずの黒靴がかえって浮いてしまう、という事態か発生しやすいのです。
そこで、茶靴を活用します。
まずは焦げ茶から
とはいえ、まだまだ茶靴は「遊びの靴」という認識が強いのも確かです。ですから、「かろうじてジャパンが許容される」業界や職種の場合、ズボンのトーンを暗くして黒靴で行くことをオススメします。
しかし、全体的にジャケパンが許容されるような場所であれば、まずはダークトーンの焦げ茶から取り入れてみます。
靴の色は変えられる
靴を買った後に、少し明るいな……と思った時のテクニックを。
実は、靴墨の選び方次第では、靴の色を少しずつ変えることが出来ます。ポイントは、靴の色よりも僅かに濃い色の乳化性クリームを、少しずつ塗り込んでいく方法です。
また、上級者向けテクニックとしては、普段使っている茶色の乳化性クリームに、ほんの少しの紺色のクリームを混ぜて塗ると、早めに色を変えることが出来ます。
こういったシーンでオススメなのはサフィール(安い方)です。以前の乳化性クリームレビュー記事でも言及しましたが、色バリエーションが76色もあって好みの色が見つけやすいためです。また、品質自体も比較的上位なため、普段使いとしてもオススメできます。
3.ベルトに気をつける
靴のトーンと合わせる
普段スーツスタイルが多い(茶靴を履かない)人がミスしがちなのが、ベルトとの色合わせを忘れることです。
茶靴の面倒なところではあるのですが、ベルトと靴は同じ色で揃えることが、統一感のあるジャケパンスタイルに重要なポイントです。
これも「ジャケットとズボンをセットで買う」に通じるところがありますが、靴を買うとき、一緒にベルトを購入するのもオススメの方法です。
また、他の革製品(時計のベルト、鞄など)も、同じ色と言わないまでも、似た様な系統の色でまとめると統一感が出ます。
幅、バックルに注意
なお、茶色のベルトはカジュアル用も多いため、幅に注意します。極端に細い物や太い物、またバックルが派手な物はビジネスには不適です。
4.ノータイにはボタンダウンシャツも選択肢に
ボタンダウンシャツは、その出自からスポーティまたはカジュアルに分類されることの多いシャツです。従って、スーツスタイルにおける畏まったシーンには不適とされていました。
しかし、ことジャケパンに限って言うと、もうすこし見直されても良いのでは無いかと考えています。それは、ノータイ(アンタイド)シーンで、とても綺麗に見えるからです。
普通のシャツでは襟がジャケットに埋もれる
普通のシャツに、ノータイでジャケットを着せてみました。この状態ならば問題ないのですが……
こんな風になっている人を見たことは無いでしょうか。着た当初は良いのですが、少し動くとシャツの襟がジャケットの中に入ってしまい、非常に見苦しくなります。
まぁ、そもそもこの手のシャツはノータイで着られることを想定されていないため当然ですが……
ボタンダウンシャツなら、襟が立つ
そこで、ボタンダウンシャツを活用します。襟がボタンで固定されているため、ジャケットに隠れることはありません。
裏技:スナップダウンシャツ
一部のオーダーシャツなどでは、隠しボタンやスナップダウン仕様のものを作ることが出来ます。これは、外側からボタンが見えないため、「どうしてもボタンダウンシャツはイヤだが、襟は固定したい」というニーズに対応できます。
第2ボタンの距離にも注目
これはMOSCAのシャツですが、第2ボタンが第1ボタン寄りに作られています。これにより、ノータイで第1ボタンを開けたときに、開きが小さくなるため、だらしなくなりません。
ボタンダウンシャツは比較的襟が開きにくい構造になっているものの、購入する際は第2ボタンの位置に注目してみて下さい。(オーダーするときも、第2ボタンの位置を指定できる場合があります。)
余談ですが――ボタンダウンシャツは、クラシック好きからは総攻撃され、アメトラ好きからは全力で掩護射撃されるという、本当に毀誉褒貶(きよほうへん)の激しいアイテムの一つです。そのため、SNSでこの話題をするときには、細心の注意を払わなくてはいけないのですが……というのは冗談です^^;
5.ズボンはシルエットに注意
▲ 同じ生地で作ったズボン。左は三つ揃いスーツ用でタック入りで股上も深い、余裕のあるトラウザーズ。右はシルエットを絞ったジャケパン用。
個人的には、スーツ用のズボンとジャケパン用のズボンは、別物だと思っています。
具体的には、スーツ用のズボン、特に三つ揃い用についてはゆとりが必要ですが、ジャケパン用については、少し絞ると格好良く見えます。
ディテールで言うと、腰前のプリーツ(タック)の有無、股上の深さ、大腿や膝のワタリ幅です。また、全体的に幅が絞られたことで、ズボンの丈も短くなります。
なお、昨今の異常に短いくるぶし丈(いわゆるアンクルパンツ)の素足を見せるズボンは、少なくともビジネス用途としては論外です。一昨年辺りからセレクトショップを中心に流行していましたが、一番遅く流行が反映される傾向にある大手ファストファッションがこれまた一番遅く流行が送出されるテレビCMで大々的に宣伝し始めました。そのため、流行はミッドコースを過ぎ、ターミナルフェーズに入っていると予想しています。早ければ来年には終焉しているのでは無いかと……。
(番外)夏は素材感を活用する
ジャケットはスーツと違い、カジュアル感が出やすい麻やシルクといったウール以外の素材が多用できるのもポイントです。手近にある物をいくつかご紹介します。
▲ 麻100%の紺色。麻素材は色が定着しにくく、何回か洗濯をすると色落ちを始める。生地は丈夫なので、色落ちが進行したら休日用に活用できる
▲ こちらも麻100%だが、織り方によってはこの様に光沢が出る
▲ ウール麻混。麻のザックリさとウールのカッチリさをいいとこ取りできる。麻ほどカジュアルさを出したくない……という際に有用
▲ ウール・麻・シルクの3者混素材。ウール麻混にくらべ光沢が出るため、少しラグジュアリーな感じになる
▲ モヘアウール混(上はグレイ、下は紺)。織り方が三杢(3ply)のため、ザックリとした印象。三杢のモヘアウール混は、暑い時期のビジネス用ジャケットとしておすすめ
▲こちらもモヘアウール混。モヘアは混紡率40%を超えると、写真のように光沢が強くなる
おわりに
ジャケパンは選択の幅が広く、お洒落としては”考え甲斐”のあるスタイルです。これからも折に触れて、取り上げていこうと思います。(特に、ジャケットのディテールについては、日を改めて記事にしたいと思います。)
一方でスーツと違い、カジュアルに倒そうと思えばいくらでも出来てしまいます。ビジネスでは対面した相手がどんな受け取り方をするかが重要ですから、初めのうちは自身や対面する相手の業界、職種、立場などを考えた上で、徐々に取り入れて行くと安全だと思います。
ビジネスマンのジャケパン着用是非については、賛否両論あると思いますので、ご意見のある方はぜひコメントをお寄せ頂ければと思います。