着こなし

夏に相応しいスーツスタイルとは?

投稿日:平成29年(2017) 7月9日 

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先日、読者の方から「仕事上、夏でもスーツを着なければいけないシーンが多いのですが、夏にはどの様なスーツが良いのですか?」というメッセージを戴きました。

7月に入ると、東京では30度を超える日も出てきており、正直タイドアップには厳しい陽気です。

そんなことは百も承知なのですが、諸事情でスーツを着なければならない事もあるのが日本のサラリーマンです。ということで、今回は敢えて、夏用に相応しいスーツとは何か、を考えてみます。

1.「見た目の涼しさ」と「実際の涼しさ」

夏のスーツにとって大事なのが、涼しさです。そしてポイントは、この涼しさには2つ有ると言うことです。

一つは本人が涼しいこと。快適にすごすためにはとても重要な事です。事実、涼しさを謳う機能性スーツが量販店から多数販売されていますし、ビスポーク向けにも機能性生地が多数あります(クールエフェクト、クールマックス等々)。

もう一つは他人から見て、涼しげに感じられることです。暑い季節であっても、見た目に何らかの工夫が施され、きっちりとした格好は保ちつつも、涼しげに見えることはとても重要です。

そして、個人的には、実際の涼しさよりも見た目の涼しさを追求した方が良いのでは? と考えるようになりました。

 

2.なぜ見た目の涼しさを追求すべき?

見た目の涼しさを追求すべき、というのには理由があります。

それは、実際の涼しさの追求は早々に限界がくるからです。例えば、幾ら生地を薄くしようが、太陽光を反射しようが、気温が30度を超えてくると、それこそエアコンが無い限り涼しくするのには難しいですよね。

だったら、ある程度体感の涼しさを確保できたら、余力は見た目の涼しさに注いだ方が、「自分をどう見せたいか」というファッションの観点からは効率的だと考えます。

ということで、上記の観点を意識しつつ、夏らしいスーツの特徴について、具体的に見ていきましょう。

 

3.夏らしいスーツスタイルの特徴1:ディテール

まずはディテール面から、代表的な特徴を見ていきます。

① 背抜き

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▲ 背抜き仕立て

背抜き(せぬき、背抜き仕立て)とは、背中の裏地を一部取り去ったジャケットの仕立てを指します(⇔総裏仕立て)。

夏用のスーツにはどんな特徴があるかとの質問に、多くの人が背抜きのスーツとお答えになるのでは無いでしょうか。背抜き以上に裏地を廃した大見返し(広見返し)などもあります。

背抜きには、体感にはそこまで涼しさが向上するわけでは無い、背中の滑りが若干悪くなる、海外では見かけないディテール……などと、スーツ好きからはネガティブな意見が多いのも確かです。

しかし、広見返しを含め、裏地の省略は見た目には涼しく見え、個人的には日本の夏に相応しいディテールだと思います。

 

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▲ 総裏仕立て

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▲ 広見返し

② 薄い芯地と肩パット

芯地とは、ジャケットの主に胸部に織り込まれたパーツのことです。肩パットと共に、薄いタイプが使用されたものを選ぶことで、見た目が涼しげな印象になります。

数年前、アンコンジャケットと呼ばれる、芯地を完全に廃したジャケットが流行しました。究極はこれが最も涼しげに見えることになりますが、カジュアル度が増す作用も有り、業種によってはビジネスで使いづらいかもしれません。

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▲ 一般的なスーツの肩

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▲ 夏用の薄い肩パット

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▲ 肩パット無し(いわゆるアンコン仕立て)。肩が落ちているのが分かる。

③ 貝ボタン

シャツでは無くスーツに貝ボタン? と思われるかも知れません。しかし、戦前から戦後直後に掛けては、良質な樹脂ボタンや水牛ボタンが無かったため、季節を問わずスーツには貝ボタンが使われていました。

そんな貝ボタンですが、薄く、かつ光を反射するため、とても涼しげに見えます。

もちろん、白蝶貝など色の薄いボタンはリゾート色が出過ぎるためスーツには不向きでしょう。スーツ用としては、色の濃い黒蝶貝や茶蝶貝が良いと思います。

 

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▲ 茶蝶貝

 

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▲ 白蝶貝

 

4.夏らしいスーツスタイルの特徴2:生地の違い

続いて、生地の違いを見ていきましょう。

① 薄い生地

当たり前ですが、肉厚の生地は体感にも、そして見た目にも暑く感じます。そのため、薄手のヒラヒラとした生地の方が、涼しげに見えます。

(私を含む)イギリス系のスーツ生地好きの方は往々にして重い生地(=厚手の生地)を好みますが、見た目の重厚感が増してしまい、暑苦しく感じられる事が多く注意が必要です。

② 夏用の素材

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▲ ウール麻混の生地

主に、麻や綿、モヘアなど夏用の素材を使うことで、涼しさを演出できます。

ただし、ビジネス用途として、これらの素材を100%にしてしまうとカジュアル感が出てしまうので、ウールとの混紡がオススメです。

なお、モヘアや麻の一部は混紡率が高いと光沢が出やすくなります。ビジネス用途なら、購入(仕立てる)前に、生地を太陽光の下でどの様な風合いになるかを良く確認することが重要です。

③ 目の粗い織り(但し薄いこと)

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▲ バスケット織り

目の粗い織りとは、フレスコ織りやバフケット織りなどに代表されるザックリとした、透け感のある、風通しの良い生地を言います。

また、強撚糸と呼ばれる、文字どおり強く撚った生地(ハリコシがあって肌触りがザラザラしている)もオススメです。

ただ、かつては夏用とされた(また私の大好きな)三杢(3ply)や四杢(4ply)のモヘア混生地は確かに涼しいのですが、少し生地が肉厚で、見た目には盛夏向きでは無いように感じます。

 

5.夏らしいスーツスタイルの特徴3:コーディネート

3つめはコーディネートです。手持ちのスーツで、効果的に涼しさを演出してみましょう。

① 麻やシャンブレー調のシャツ

最も簡単で効果的な、オススメの方法です。麻が入ったスーツはカジュアル過ぎてNGな業界も、シャツならば大丈夫ではないでしょうか。

ただし、麻のシャツにはカジュアル用が多いので注意します。購入時は、襟や袖にきちんと芯地が入っているか(タイドアップしたときに綺麗になるか)を確認しましょう。

 

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▲ 麻100%のシャツ

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▲ 麻と綿の混紡シャツ

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▲ シャンブレーのシャツ(綿100%)

② ニットタイ

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▲ ニットタイ(LANDS'END製)

ニットタイは、その粗い生地の見た目から、タイドアップしたとしても涼しげで、リラックスした雰囲気を演出できます。

以前は完全に遊び用の、カジュアルなネクタイとされていました。しかし、ここ数年でクールビズが浸透したこともあって、ニットタイの利用がビジネス用途として許されるようになったと感じています。

なお、ニットタイと普通のシルクタイとでは体感に殆ど差が無いため、これこそまさに「見た目の涼しさ」な素材であると思います^^;

③ 薄手のタイ

それでもニットタイはビジネスの場にそぐわない……。と考える方にオススメなのガルザタイに代表される薄手のネクタイ。

ガルザ(garza、ガルツァ)とはイタリア語でガーゼを指し、ガルザタイとは要するに透け感のある薄手のネクタイのことです。

特に、スーツと同じく、フレスコ調のザックリとした織り且つ薄いネクタイは、見た目にかなり涼しく見えます。

 

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▲ フレスコ調のタイ(フェアファクス製)

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▲ シャンブレー調の薄手のタイ(チェザレアットリーニ製)

 

6.最後に

涼しさは軽さにつながり、軽さはカジュアルに繋がります。

そのため、「涼しげに見え、かつビジネススタイルとしてもカジュアル過ぎない」という命題は、それなりのバランス感覚が要求されます。

従って、本日考えた夏らしいスーツスタイルの特徴を「全部入り」にしてしまうのではなく、実際の涼しさも加味した上で取捨選択するのがオススメです。

とはいえ、日本の都市部における7~8月のスーツスタイル はかなりキツいですよね^^; 秋が本当に待ち遠しいです。

 

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