先日、ビジネス靴に鏡面磨きをすることについてどう思うか、というメッセージをいただきました。
鏡面磨きとは、靴をワックスで磨き込み、まるで鏡のような光沢に仕上げることを言います。
靴好きの間では日常的に行われているテクニックではありますが、一方で鏡面磨きは「あまり好きではない」「ほどほどにしている」といった声があることも事実です(質問者の方も、ビジネス靴へ鏡面磨きを施すことに、否定的なニュアンスでした)。
そこで本日は、ビジネス用を前提とした、革靴における鏡面磨きの是非について考えてみたいと思います。
1.鏡面磨きとは
本題に入る前に、鏡面磨きとは何か、簡単なやり方も含め整理しておきます。(ご存知の方は読み飛ばして下さい。)
鏡面磨きのしくみ
革の表面は一見滑らかに見えますが、顕微鏡で見ると実はかなり凸凹しています。
この凹凸が光を拡散するため、磨いていない状況では表面がマットな感じになるわけです。
言い換えると、この凸凹を滑らかにすることで、光沢を出すことができます。
(参考)実際の画像
※写真は同一の靴を撮影したものです。
鏡面磨きの方法
用意する物
基本的には、缶入りの靴墨(油性靴墨)、綿の布(ネル布がオススメ)、水を使います。
靴墨はすこし固めのものを使うと、比較的早く鏡面に仕上げることができます。
良く使われるのはキィウィのパレードグロスですが、個人的にはトラディショナルワックスの方が簡単に光らせることが出来ると感じています。
手順
油性靴墨をネル布にとって、数滴の水を加えながら靴(主につま先とかかと)を磨いていきます。
1回でもかなりピカピカになりますが、複数回繰り返すと自分の顔が映るくらいになると思います。
今回は鏡面磨きの手順を紹介する記事では無いため詳細は割愛しますが、慣れれば数分で光らせることができます。
2.鏡面磨きのメリット
次に、鏡面磨きの何が良いのか、そのメリットを考えてみます。同時に、ビジネスシーンでどの様な意味があるのかも、考えます。
メリット1)靴が綺麗に見える
一番のメリットは、なんと言ってもこれでしょう。靴に一部でも光沢を持たせることで、靴が輝き、また輪郭もハッキリとするため、美しく見えます。
また、この光沢はかなり遠くからでも分かるのがポイントです。
通常のメンテナンスでも「手入れされた靴」かどうか確認することは可能ですが、鏡面磨きを施すことで、遠目にも、そして意識せずとも「手入れされた靴だなぁ……」と見えるのです。
ビジネスシーンでは初対面時の印象が重要であるといわれます。よく手入れされた綺麗な靴は、行き届いた配慮や勤勉さを連想させるため、相手の信頼感を得るために有用なツールだと思います。
メリット2)簡単に美しさを復活できる
一度鏡面磨きを施しておくと、少しの手入れ(ブラッシング程度でも)簡単に輝きを復活することができます。
よく「ベースができている」などといわれたりしますが、2度目以降の磨きが楽になるのです。
たとえば、出張が多い場合や、出先で靴磨きができない場合などに便利です。
メリット3)汚れやギズが付きにくくなる
鏡面磨きは、革の上にロウ分の層ができている状態です。この層が汚れやキズを防ぐ一種のバリアにもなります。
多少の水分は弾きますし、擦れたとしても鏡面磨きのコーティングが剥がれただけだった、というパターンもあります。
3.鏡面磨きのデメリット
メリットが多く語られる一方で、鏡面磨き否定派(または慎重派)からは、次のようなデメリットを指摘されることがあります。
デメリット1)靴が下品に見える
メリット1の「靴が綺麗に見える」と一見矛盾しているように見えます。しかし、これはそのメリットと表裏一体なのです。
これはスーツに置き換えると分かりやすいです。
例えば、商談に来たビジネスマンが、まるでステージや水商売で使われるようなギラギラした光沢のスーツを着ていたらどう思うでしょうか。
「成金なのかな……?」「自意識が強すぎる人なのかな……?」と、あまり良い感触はもたれないはずです。
スーツスタイルはおろか、ファッションにおいて靴は最も重要なアイテムの一つ。特にビジネス用途においては、ピカピカすぎる、過度な光沢は品のなさに繋がると考えます。
デメリット2)靴のダメージに繋がる
革の品質を維持するためには、適度な油分と水分が不可欠です。
しかし、鏡面磨きを施すことで、表面に積層したロウ分により、油分と水分の吸収が妨げられるという意見もあります。
個人的には、適切にロウ分を取り除けば問題無いと思いますが、一方で(リムーバー等の溶剤を使って)取り除くこと自体が、靴のダメージに繋がるという反論もあろうと思います。
4.私の考え
結局のところファッションは個人の自由です。したがって、参考までに本項では私が実践している方法を記載したいと思います。
鏡面磨きとは「無くても良いが、少しあると効果的」……金箔のようなもの?
和洋問わず、数の子、酒、ケーキ、和菓子等々、おめでたい場やオフィシャルな場で多用される食用の金箔。
個人的には、鏡面磨きとは金箔のような物だと感じます。
つまり、「なくても味には影響しないが、あると華やかになる」「かけ過ぎると下品になる」、要するにやり過ぎないことが重要と考えています。
鏡面磨きをやり過ぎないために
やり過ぎないための調整方法については、「場所」「強さ」という2つの観点から整理しています。
場所を限定する
一つは、磨き込む場所を限定することです。
私は、つま先とかかとの一部をレベル3、小指からかかとに掛けてをレベル2、それ以外をレベル1と分けています。
- レベル1……油性靴墨は使わず、乳化性クリームのみを使用するエリア。
- レベル2……油性靴墨は薄く使うか、油性のビン入りクリームを使用するエリア。
- レベル3……油性靴墨を使って、鏡面磨き可とするエリア。但し、使うシーンはわきまえる(後述)。
鏡面の強さを加減する
レベル3で鏡面磨きを可としても、その加減も重要だと思います。
例えば、慶事やパーティーなど、華やかな雰囲気が許され(推奨され)る環境では、目一杯磨いても良いでしょう。
しかし、謝罪対応や弔事に、それと同じ磨き方が許されるのでしょうか。個人的には違いがあるべきと考えています。
幸い、磨き込む際のワックスの量や、磨き込む回数によって、鏡面の強さは加減が可能です。
業界、職種、年齢、その日の服装等によっても変わる
また、靴の鏡面磨きについては、靴を履くシーンの他に、自身の業界、職種、年齢、その他その日のファッション全体でも考える必要があります。
よって、一概に靴の鏡面磨きは「すべき」ものでも「すべきでない」ものでもないというのが、私なりの結論です。
5.おわりに
革靴の鏡面磨きについては、ビジネス用途だからといって全て否定されるものではなく、むしろ有効活用したいテクニックだと思います。
その点で言うと、私は鏡面磨き賛成派なのかもしれません(質問者の方には申し訳ないですが。。。)
ただし、鏡面磨きにはメリットとデメリットの両方があり、他のファッションアイテムの選択と同様に、「派手さ」と「上品さ」のバランスを考える必要があります。
ですから、トータルのコーディネートを無視し、考え無しに全ての靴、全ての箇所をピカピカに磨き上げるのは、いわゆる「成金ファッション」に似た、野暮なのではと思います。
本記事をご覧の皆さんは、鏡面磨きについてどう思いますか?
賛成反対大歓迎ですので、よろしければコメントをお願いします。