かつて年配者の象徴だったスリーピーススーツ(三つ揃い)。しかし、今では若手サラリーマンを中心に、かなりの人気スタイルになりました。
特に、ここ2~3年、既製品スーツにもスリーピースが多くラインナップされるようになり、とてもメジャーになったととも、質問やコメントを多く戴くようになりました。
そこで今回は、「買ったは良いが上手く着こなせない」といったスリーピーススーツ初心者の方を対象に、これを上手に着こなすコツについて、考えてみたいと思います
今回は、既に持っているスリーピーススーツを対象に、初歩的なルールベースの話を中心に進めます。応用的な内容(購入時やオーダー時のポイント、コーディネート中心のポイント等々)については、別途日を改めて考えたいと思います。また、ここでご紹介する方法が正解および全てではありません。ご自身の工夫などありましたら、ぜひコメントからご意見をお寄せ下さい。
1.シャツ襟が遊ばないようにする
スリーピーススーツを見かけたとき、最も気になる部位の一つがVゾーンです。一般的な上下のスーツに比べてVゾーンのスペースが狭く、視線が集中しやすいか。
そんなスリーピースのVゾーンでありがちなのが、シャツの襟羽根がウエストコート(ベスト)の襟に乗ってしまったり、浮いているのが目立ってしまったりする事です。
勿論、普通のスーツでも、ジャケットの襟にシャツ襟が乗ってしまうことがあります。しかし、ウエストコートの襟の方が圧倒的に薄く、かつシャツ襟に近いため、遊びやすく注意が必要です。
襟の遊びや浮きを防ぐには?
以下に防ぐポイントを書き出してみました
基本
- カラーステイを使う
- 襟羽根の大きいシャツを使う(襟羽根がウエストコートの襟下に入るようにする)
- そもそもシャツ襟が浮かない仕立ての良いシャツを選ぶ
応用
- 厚みのある、襟付きのウエストコートを選ぶ
- スナップボタンシャツを選ぶ
- ウエストコートの襟と重ならないタイプのシャツ襟を選ぶ(ナローポイント、ラウンドカラーなど)
また、ソファーに深く座ってくつろいだり、体を大きく動かしたりすると、対策をしていても襟が乗ってしまう場合があります。
そのため、手洗いの際など、鏡でさりげなく確認するクセをつけておくとも重要だと思います。
2.背中のシワとベルトに気をつける
スリーピーススーツを着ていると、ジャケットを脱ぐ機会が多いと思います(ジャケットを脱いでも失礼にあたらないのがスリーピーススーツのメリットですよね)。
ジャケットを脱いでウェストコート一枚になったときに注意したいのが背中の部分です。
背中の「蛇腹」を伸ばす
ウェストコートの背中は、多くの場合キュプラ(再生繊維)やポリエステル(合成繊維)などのスーツの裏地に使われる、薄い生地が用いられます。
そのため、椅子に座ったり、もたれかかったりした際に、どうしも裾の辺りが蛇腹のシワになりやすいのです。
このシワは、単純に不格好なだけで無く、着丈を短くしてしまい、中に着ているシャツを露出させてしまうことにもなります。
着用前に確認し、ヒドイ場合にはアイロンで伸ばすようにします。
ベルトの弛みを締める
スーツ用ウェストコートの背中には、多くの場合ベルトがついています。
このベルトをしめることで、ウェストが引き締まり、ウェストコートを格好良く着こなすことができます。
一方で、これが弛んでいるととてもだらしなく見えます。慣れないうちは定期的に弛んでいないか確認することをお勧めします。
3.ベルトのバックルやネクタイの大剣を隠す
スーツスタイルは、体を単一生地のスーツで包むことで、男性の格好良さ、あるいは色っぽさを演出します。
そのため、想定外の肌やシャツの露出は避けるべき(ソックスからすねが見えたり、ウェストコートとズボンの間にシャツが見えたり等々)なのですが、これは附属物にも言える、という話です。
バックルが邪魔をする
ウェストコートとトラウザーズ(ズボン)の連続性は、スリーピーススーツにおける美しさのキモであると思います。
この連続性を阻害するアイテムが、実はズボンのバックルです。理由は2つあります。
1つはバックルがウェストコートの裾を跳ね上げてしまうことです。特に、大きなバックルは、お腹が出ているようにも見え、とても不格好です。
もう一つは、バックルそのものが見えてしまう事です。ウェストコートの裾は、その多くは左右に分かれています。従って、中心にあるバックルが、裾の間から見えたとき、ズボンとウェストコートの連続性に水を差すことになります。
サスペンダーを活用する
この2つの問題を完全に解決する方法が(最初のうちは少し抵抗があるかも知れませんが)、ブレイシズ(サスペンダー、ズボン吊り)を活用することです。
ベルトを使わないことでバックルからも解放されますし、さらに腰および裾の位置が安定するため、ズボンが美しく見えます。(なお、ウェストコートを着ていると、ブレイシズは殆ど目立ちません。)
クリップ型のものを使っても良いですが、個人的にはボタン型の方が、身に付けていて快適です。詳細は、以下の記事をご覧下さい。
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サスペンダー(ブレイシーズ)の着こなしを考える
サスペンダー(ブレイシーズ)について、基本的な部分から、色合わせ、素材の違い、クリップ式とボタン式の違い等々、考えてみました。
薄型バックルのベルトを、ずらして使う
もう一つの解決策は、裏技的な方法ですが、小型のバックルのベルトをずらして使うという方法です。
バックルを中央から左右どちらかに少しずらすことで、ウェストコート裾の間から見えるのが目立つ金属ではなく、黒いベルトになり、かつ盛り上がることも無いというわけです。そして、ずらしたとしてもバックルが薄いため、他の部分にも影響しません。
大剣はズボンの中へ?
そして、ウェストコートから出てくるのは、バックルだけではありません。バックルの次にメジャーなのは、ネクタイの大剣でしょう。
資料によっては、ネクタイがウェストコートから出てしまうのは問題ない、と記載しているものもありますが、個人的にはズボンの中に仕舞った方が美しいと感じます。
まぁ、このあたりは個人の好みの領域かも知れませんが……。
4.ボタンのルールを押さえる
ご存知の方が多いかと思いますが、念のためおさらいしておきます。
一番下のボタンは外す
ジャケットのボタンと同様、一番下のボタンは外します。
なぜ外すかというと、これも紳士服にありがちな物語がいろいろとあるわけですが、一番大きな理由は「そう設計されているから」です。
つまり、作る側が、一番下のボタンが外れていることを前提に、座った際など、窮屈になったりシワがよったりしないように設計しているということです。
ちなみに、ジャケットの一番下のボタンについては、以前の記事「スーツスタイル「ボタンのルール」を考える」で詳しく書いています。興味がありましたらご覧下さい。
初めからかけられないようになっている物も
なお、ウェストコートの中には、初めからボタンが掛けられないようになっている(飾りボタンになっている)物もあります(写真右のウェストコート)。
上着はボタンを閉めても閉めなくても良い
スリーピーススーツは、上着のボタンを閉めなくてもシャツや肌が露出することが無いため、失礼に当たりません。
もちろん、立っているときであれば閉めても問題ありません(座っているときは外す)。
これは何が良いかというと、温度調節が結構楽なのです。ジャケットのボタンを絞めた状態、開けた状態、ジャケットを脱いだ状態と、3段階で温度を調節することが出来ます。
普通のツーピーススーツであれば、ジャケットを絞めた状態だけであるのと、対照的ですよね。
5.靴、鞄、時計などのアイテムの雰囲気をスーツに合わせる
イメージをちぐはぐにしないためにも、靴や鞄、時計などのアイテムをスーツに合わせることも大事です。
スーツはスリーピースのクラシカルなものなのに、時計は樹脂バンドのデジタル式、靴はライトブラウンやスリップオン、鞄はナイロントート……となると、やはり統一性が崩壊してしまいます。
クラシカルにしすぎる必要はありませんが、靴は良く磨いた黒の紐靴、鞄も革製、時計は薄い2針か3針等々、雰囲気を合わせることで、格好良く見せることが出来ます。
「コスプレ」にはしない
とはいえ、「クラシカルに振りすぎ」は上級者でないと難しく、コスプレになりがちなので注意します。
以下のキーワードは、(私を含む)初心者~中級者には高難易度ですから、採用の是非はよくご検討下さい。(決して悪いというわけでは無く、むしろ1~2品程度だったらとてもお洒落に見えるのですが、なんというか……とにかく難易度が高いのです。)
- 帽子(ハット)
- 見慣れないコート(二重回し、マントとか)
- 懐中時計
- スカーフのようなネクタイとタイピン(ブローチのように挿すタイプ)
- ボタンブーツ
- 特殊なシャツの襟型