先日質問箱宛に、吊し(既製服)のスリーピーススーツについて買い方を教えて欲しいというお便りをいただきました。
その方には簡単にご返信をしたのですが、数日後別の方からも似たような質問を頂戴しました。さらにここ数ヶ月のアクセスランキング上位にスリーピースの話題が来るなど、スリーピースに対するみなさんの感心が最近高くなっているように感じます。
そこで、今回はスリーピースの選び方について、キモになるウェストコート(ベスト)を中心に考えてみたいと思います。
※ 以下は、基本的には吊し(既製服)で買うことを前提に書いています
1.スリーピーススーツってなんだ
本題に入る前に、基本部分のおさらいを。(ご存知の方は飛ばして下さい)
スリーピーススーツとは、ジャケットとトラウザーズ(ズボン)に加えて、ウェストコート(ベスト)の3つが揃ったスーツのことを言います。元々はスリーピーススーツが正式でしたが、20世紀後半からはウェストコートが省略され、いまのツーピーススーツが大勢を占めるようになりました。
服飾は変化の歴史でもあるため「ツーピースは邪道」という考えは違うと思いますが、スリーピースの方が仕立て映えすので、個人的には好きです。また、式典やパーティなど、手軽にドレスアップ出来、ウェストコートを脱げばすぐにツーピーススーツとしても使うことが出来ます。
日本語では、三ツ揃え、三つ揃い、三つ組みなどとも言います。
ウェストコート、ベスト、ジレ、チョッキ、胴着
スリーピーススーツの特徴は上着の下に一枚羽織るウェストコートです。このウェストコートには、ウェストコート<英>、ベスト<米>、ジレ<仏>、チョッキ<和>、胴着<和>など、様々な呼び方があります。
好きな表現を使って良いと思いますが、チョッキや胴着は年配者に、ジレは単品や共地で無い場合に用いられることが多いように感じます。
2.ポイント1:ウェストコートのサイズ感
スリーピーススーツを選ぶ上で最重要なのがウェストコートのサイズ感です。ウェストコートはサイズ違いが目立ちやすく、ジャケットのサイズ感に比べると格段にシビアです。
ウエストまわり
ここがしっかりフィットしているととても格好良く見えます。尾錠によってある程度調節出来ますが、脇腹のラインにしっかり沿っているか、フロントボタンは浮いていないか、座ったときボタンまわりに不自然なシワが出ないかなど、良く注意する必要があります。
袖まわり
特に既製服では袖まわりが多く取られていることが多く、背中に大きな隙間が出来てしまうことがあります。横から見たときに背中が浮いて見え不格好なのですぐに分かります。試着の際は、前だけでなく、側面も確認するようにして下さい。
ウェストコートの着丈とズボンの股上
ウェストコートとトラウザーズ(ズボン)に、隙間が空いてしまっている人をよく見かけます。酷い場合だと、背中側の隙間から、だぶついた白いシャツが出ているなんて言うことも……。
ブレイシーズ(ズボン吊り、サスペンダー。スリーピーススーツにはオススメ)を使うとずり落ちることが無いのですが、ベルトで留めたいと言う方は、歩いてみてズボンがずり落ち隙間が空いてしまわないか、試着時に確認して下さい。
また、ベルトもなるべく薄手の物を使う事をオススメします。バックルでウェストコートのフロントが盛り上がってしまっている人を見かけますが、結構目立ちます。
※ ブレイシーズに関しては、以下の記事を参照下さい
ブレイシーズ(サスペンダー)の魅力を考える1 役割、種類、ディテール
ブレイシーズ(サスペンダー)の魅力を考える2 ブレイシーズ5つのメリットと、手持ちのズボンで使う方法
3.ポイント2:ディテール
ウェストコートには様々なディテールがあります。購入前に把握しておきたい点をいくつか紹介します。
ボタンの数とVゾーンの深さ
メジャーな物は、6つボタン、6つボタン5つ掛け(ボタンは6つあるが、1つは飾り)、5つボタンの3種類です。
ボタンの数が少なくなると、当然Vゾーンが広くなります(オレンジ色の点線をご確認下さい)。Vゾーンが狭い方が格式ばって、広い方がゆったりとして見えます。
なお、ジャケットのフロントボタンをしめたときにウェストコートの襟が見える必要があるため、ウェストコートのVゾーンが広いものを選ぶと、ジャケットのVゾーンも広いものになってしまうので注意が必要です。 (逆に、Vゾーンが狭いジャケットには同じく狭いウェストコート、となります。)
襟の形
ウェストコートにも、ジャケットと同じような襟が付いた物が有ります。古い時代の写真を見ると、襟付きのウェストコートをよく見かけます。無難なのは襟無しですが、格式張って見せたい場合などは襟ありも効果的だと思います。
ポケット
吊し(既製品)では、左右の腰ポケットが2つというパターンが多いように思いますが、個人的には胸ポケット付きをオススメします。装飾面では万年筆をさしたり、実用面では(浅い腰ポケットに入れられない)スマートフォンを仕舞ったりすることが出来るからです。
尾錠
尾錠とは、ウェストコートの背中にある、腰回りのサイズを調節する仕組みです。しかし、ベルトはツルツルとした裏地で出来ており穴も無いため、動いているとすぐ緩みます。そのため、尾錠は飾りだと思って、サイズを選ぶ時はジャストサイズを選ぶようにして下さい。
また、脇に一つずつ付けられた脇尾錠も少数ながら存在します(飲食店の制服では脇尾錠の方をよく見かけます)。デザインによりけりですが、正面から見たときに脇がスッキリ見えないかも知れません。
シングルとダブル
スーツの前袷(まえあわせ)にもシングルとダブルがあるように、ウェストコートにもシングルとダブルがあります。殆どはシングルですが、最近はセレクトショップが提案している影響で、ダブルのウェストコートも出てきているようです。
ダブルの方が貫禄が出ますし、流行に乗っている感はありますが、一過性の可能性があり注意が必要です。(ちなみに私は形が好きでは無いので、一つも持っていません。)
4.ポイント3:色使い
背中の裏地
ウェストコートの背中は、全面がジャケットの裏地と同じ素材なので、オフィス内をウェストコートだけで歩く際、この裏地が結構目立ちます。目立つ方が好き、という方も居るかと思いますが、購入時にはウェストコートの背中がどんな色なのか、どう見えるかを確認すべきでしょう。
オーダーの場合は背中も共地(ともじ;スーツと同じ生地)で仕立てるという選択肢があります。
ボタンの色
スーツと違って、ウェストコートはボタンが5つ6つと並びます。従って、とてもボタンの印象が強く出ます。ジャケットでは似合っていたのに、ウェストコートでは浮いて見える……等という事も有るので、試着時にはウェストコート単品でも浮いて見えないか確認します。
5.スリーピーススーツを仕立てる
今回は「吊しのスリーピーススーツを購入するとき」という前提の質問でしたので敢えて触れませんでしたが、個人的にはスリーピーススーツは、仕立てた物の方が好きです。いくつか理由があります。
- ウェストコートはサイジングが難しい:ぴったりが求められるウェストコートは、既製品ではなかなか出会えません。
- 選択肢が少ない:最近は数が増えているとは言え、まだまだスリーピーススーツはスーツの中でも少数派で、店頭に並ぶ数も少ないです。そのため、沢山の種類から選べるという、既製品のメリットが得にくいのです。
- オーダーが意外と安い:カッティングの関係で、仕立代に僅かな生地代を追加するだけで完成します。従って、パターンオーダーやイージーオーダーの場合、1万円台前半で追加できることもあります。
如何でしょう。スリーピーススーツを仕立てるときのノウハウは別の記事で書こうと思いますが、既製服を見て回って納得がいかなければ、ぜひ誂え(オーダースーツ)も検討してみて下さい。
以上、皆様の参考になりましたら幸いです。