みなさん、靴、磨いてますか?
私は数ある服飾アイテムの中で、靴が一番好きです。ですから、靴磨きはおしゃれへの手段でもあると同時に、趣味としての目的にもなっています。
しかし、皆が皆、靴磨きが趣味というわけではないですし、趣味の靴磨きは往々にして時間が(フルメニューだと1足30分~1時間)かかり、忙しい方、「靴磨きは手段」という方にとって、靴磨きはだんだんと負担になってきます。
そこで、今回は短時間で靴を磨く方法を考えてみます。勿論、ただ光らせることを目的にした「靴磨き用スポンジ」などは使わず、乳化性クリームをつかった、保革にも配慮した磨き方にしてみようと思います。
さらに、従来の磨き方とどう違うのかも、最後に考えます。
用意する物
用意する物はたったこれだけです。左上から時計回りに、極薄ゴム手袋、馬毛ブラシ、豚毛ブラシ、乳化性クリーム、ストッキングです。一つずつ、説明していきましょう。
ブラシその1(馬毛)
これは、最初に埃を落とすのに使います。(写真左側下から2つめ)普段お使いの靴用ブラシでOKです。馬毛がお薦めですが、ナイロン製でも大丈夫です。
ブラシその2(豚毛)
乳化性クリームの塗布と磨きに使います(写真左下)。腰が強い豚毛がお薦めですが、こちらもナイロン製で大丈夫です。(ただし、必ずブラシその1と2と、2本用意して下さい。)
乳化性クリーム
保革成分である油分と水分が含まれた靴墨です(写真右下)。保革には油分だけが必要と思われがちですが、水分も重要なため、乳化性を使います。写真はサフィールの通常ラインです。(かならず、靴と同色の物を用意して下さい。)
サフィールノワールやコルドヌリアングレーズなどの高級ラインは、乳化性ではなく油性クリームなので、今回の磨き方には向きません。どうしても使う場合は、靴墨を塗り込む前に良く絞った布巾で靴を拭き、水分を与えて下さい。
ストッキング
仕上げに光沢を出す際に使います(写真右上)。使い古しでも新品でも、効果は変わりません。
極薄ゴム手袋
靴磨きの際に、手を汚さないために使います(写真左上)。無くても靴は磨けますが、手を汚さないように磨くこと、また、磨き終わった後に手についた靴墨を落とすのは思った以上に時間がかかります。
それでは、準備が整ったところで、実際に磨いていきます。
手順
0.ゴム手袋をはめる
使い捨ての極薄ゴム手袋をはめます。これで、手に気兼ねなく靴クリームを塗り込むことが出来、手や手と爪の間に入った靴墨を洗い落とす時間を短縮できます。
パウダーがつくと靴を汚してしまうため、パウダーを使っていないタイプのニトリル手袋がお薦めです。
1.ブラシその1(馬毛ブラシ)で埃を払う
馬毛ブラシなどの、柔らかめのブラシを使い、靴の表面、コバ(靴底の側面)、コバと表革の間など、ホコリや土などをよく払います。
2.ブラシその2(豚毛)に乳化性クリームを取る
乳化性クリームの瓶の蓋を開け、少量(写真参照)の乳化性クリームを豚毛ブラシの縁に取ります。
手や布などにとらず、直接ブラシに付けることがポイントで、ペネトレイトブラシなどを用いるよりも、早く塗布することが出来ます。
3.靴に乳化性クリームを塗り込む
1で埃を取った靴に、2の乳化性クリームを塗り込みます。このとき、前回塗った靴墨を掻き出すように、勢いよく塗るのがコツです。また、コバやコバと表革との間なども、忘れずに塗り込んで下さい。
4.ブラシその2で光沢を出す
ブラシを反転させ、2で靴墨を付けたのと反対側を使ってブラッシングします。乳化性クリーム塗布後のマットな感じが無くなったら、終了です。
5.ストッキングを使って光沢を出す
仕上げに、丸めたストッキングで光沢を出します。最後の工程です。この工程でかなり光沢が出るので、全体を光らせたくない場合は、靴のすべてを擦る必要はありません。
なお、靴に乳化性クリームをしみこませる時間を確保するため、時間配分は左足の1~3(45秒)をやった後に、右足で1~3(45秒)を行い、左足の4~5(45秒)、右足の4~5(45秒)と進むと、丁度良いと思います。
「フルメニュー」との違い
本サイトでも何度か紹介してきた「靴磨きの方法」(フルメニューと仮称します)とどこが違うのか、フルメニューに比べどの様なデメリットがあるのか、考えたいと思います。
まず、フルメニューとは、以下の流れでした。
ブラッシング → リムーバで古い靴墨を取る → クリームで保革 →乳化性クリームの塗布 → ブラッシング → 油性クリームで光沢を出す
※ コバを染色するコバインキや靴底用ローションなども適宜用いる
今回の「時短コース」と違うのは、「リムーバで古い靴墨を取る」と、「クリームで保革」、「油性クリームで更に光沢を出す」という3点です。
リムーバーで古い靴墨を取る
左がモゥブレイのステインリムーバー、右がサフィールのレザーローションです。これらは、靴の汚れ、前回の靴墨などを落として、靴の「厚化粧」を防止します。(レザーローションは、保革用としても使えるので、もっと簡略化したいときにはこれだけというのもあり。)
一般的に、靴墨を多重に塗り重ねた場合、革の上にロウ分の層が出来、靴の吸排湿が出来なくなり、また新しい靴墨の油分/水分が届かなくなり、やがて靴のひび割れの原因になると言われています。
勿論、その通りではあるのですが、層が出来るのは油性クリームを厚く塗り重ねた場合で、乳化性クリーム程度であれば、新しクリームの溶剤とブラッシングでこれを溶かし、また掻き出すことが出来るため、今回はリムーバの使用を省きました。
本項目について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧下さい。
→ ステインリムーバーを使う意味、を考える
クリームで保革
リムーバを使った場合、革の油分まで奪ってしまうため、油分と水分が入ったクリームで保革を行うことが有ります。また、かつて良い乳化性クリームが無かった時代、油性クリームを塗る前に使っていたようです。
しかし、時短コースで使うのは油分と水分が入った乳化性クリームであるため、革が極度に乾燥している、または油分が失われている状態などを除いて、必要では無いため、これも省きました。
油性クリームで光沢を出す
乳化性クリームのみの光沢で足りない場合、ロウ分が多く入った油性クリームを使って光沢を出す場合があります。
しかし、乳化性クリームにも一定のロウ分が含まれており、ブラッシングとストッキングによる磨きで、かなり近い光沢を出すことが出来るため、今回は省きました。
ただ、乳化性クリームの光沢は、経験上長期間保つことが出来ないため、旅行など一定期間靴を磨くことが出来ない場合には、今回の時短コースに加えて、最後に油性クリームによる仕上げを行っても良いかもしれません。
おわりに
これまで様々な靴磨き用品を紹介してきた身として、あまりそれらの価値を貶すようなことは書きたくなかったのですが(^^;、基本メニューはこれだけで良いのでは無いかと、最近思うようになりました。
今週は疲れているからと、休日出勤だからと、靴を磨くタイミングを失い、数ヶ月靴磨きが放置されるよりも、隔週くらいで、時短コースでの磨きをしたほうが、よっぽど靴が美しく、かつ長持ちするはずです。
元々綺麗な靴を磨いたため、あまり違いが感じられないかもしれませんが、右側が時短コースで磨いた靴です。乳化性クリームでも、シワが結構伸び、光沢が復活しているのがわかります。
初めて靴を磨く方、ご友人に靴磨きの楽しさを伝えたい方など、「時短コース」から始めるのも手だと思います。
改めて読み返してみると……手袋などの使用を除けば、今回ご紹介した「時短コース」の基本は、そもそもの靴磨きのスタンダードメニューだと言うことがわかります。
メーカーによる様々な靴手入れ用品を採り入れていったところ、靴磨きの満足度は向上し、恐らく綺麗に長持ちするようになったのでしょうが、時間とお金を取られる結果になったのだと思います。
靴磨きが趣味という方以外は、普段は時短コースを、何回かに1回はフルメニュー、という流れでも良いかも知れません。
それでは。