着こなし

「スーツの上着」を「ジャケット単品」として使えるか考える

投稿日:平成29年(2017) 3月26日  更新日:平成30年(2018) 10月14日 

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ビジネススーツの上着をジャケットとして使えるか。こんな質問を戴きました。

確かにスーツの上着も単に「ジャケット」と言うように、お互いの境界はかなり曖昧です。しかし、実際にスーツの上着をジャケパンで使うと、おかしな雰囲気になる事も多々あります。

そこで今回は、スーツの上着と単品ジャケットについて、その違いやどんな上着だったら転用可能かなどを含め、考えてみたいと思います。

根本的な違いはカジュアルさ?

冒頭の質問に答えるためには、そもそもビジネススーツの上着(以下、単に上着といいます)と、ジャケパンのジャケット(以下、単にジャケットと言います)の違いは何なのかを考える必要があります。

上着とジャケットの違いを簡単に言うと「カジュアルに見えるかどうか」ではないでしょうか。

現代においては、ジャケットはカジュアル性の高い服装です。そのジャケットに、畏まったスーツの上着をもってくると、どうしてもちぐはぐに感じてしまいます。

従って、カジュアル性が低いビジネススーツの上着は、ジャケットとして適さない。ということになるわけです。

ただ、上着/ジャケットの「カジュアル性」とは一体何? という疑問は残ります。カジュアル性が高いスーツならば、ジャケットとしても転用可能なのでしょうか?

そこで、ジャケットのカジュアル性とは何か、を考えつつ、スーツの上着をジャケットとして使うにはどうすれば良いのか、生地・デザイン・ディテールの3つの観点から、探っていきます。

 

ジャケットとして使うには1:生地の違い

まずは、生地のカジュアル性から考えてみます。

ここでカジュアルな生地とは、ツイードやフランネルなどのカジュアルな織り、多色の格子柄などのカジュアルな模様をいいます。

ジャケットには、本当にカジュアルな生地が求められるの?

通常、ビジネススーツの生地には、カジュアル性が低いものしか使いません。では、反対にジャケットの生地には、高いカジュアル性が必須なのでしょうか。

私個人としては、ジャケットらしい生地を使えば当然ジャケットらしい雰囲気が出るものの、絶対に必要なわけでは無い、と考えています。

例えば、無地の濃紺やチャコールグレーのジャケットがあるように、ジャケット用生地におけるカジュアル性の多寡は、クリティカルな問題にならないからです。

ここでの結論

ここから導き出される答えは次の通りです。

  • ビジネススーツには、カジュアル性の低い生地が求められる(=スーツでは必須要件)
  • カジュアル性の高い生地であれば、ジャケットらしく見えるが、カジュアル性が低いからといって、必ずしもジャケットとして使えないわけでは無い(=ジャケットでは推奨要件)
  • 従って、生地にカジュアル性が無い事のみを理由として、上着がジャケットに転用できないわけでは無い

ということです。

ハッキリとしたストライプ柄はビジネススーツ向き、などと言われたりしますが、オーダーはもちろん、既製服でもこの手の生地を使ったジャケットは売られいます。このように、スーツだけに許される生地、というのは今のところ見つけられていません。ただ、この点については議論の余地があると思いますので、お考えがある方のコメントをお待ちしています。

 

ジャケットとして使うには2:デザインの違い

続いて、デザイン面のカジュアル性を考えてみます。

ここでカジュアルなデザインとは、着丈が短かったり、ラペル(下襟)幅が極端に太/細かったり、芯地が省かれた(いわゆるアンコン)ものを言います。

着丈は重要な要素

生地の時と同様、カジュアルなデザインでは無い(ラペルが極端で無く、芯地も省かれていない)ジャケットは当然存在します。

ただ、着丈についてはすこし事情が異なります。着丈が長めのジャケットは軽快さが失われてしまい、カジュアルなジャケパンスタイルとしては格好良さに欠けるからです。

実際、既製服で着丈が長めのジャケットは少なく(特に若者向け)、ダブルブレステッドも短めの丈になっていることが多いです。

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▲ あるテーラーで仕立てたスーツ上着の背。トルソーの腰まで着丈がある。

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▲ 同じテーラーで仕立てたジャケットの背。2センチ程度短い。

単に着丈を詰めるのはNG

それでは、着丈を詰めれば、上着をジャケットに転用出来るかというと、話はそう単純ではありません。問題が2つほど発生するからです。

問題①:ボタンやポケットのバランスが崩れる

単純に着丈を縮めただけでは、ボタンやポケットの位置は変わりません。しかし、これらは裾との距離を厳密に計算された上で配置されているので、着丈のみを詰めるとバランスが崩れてしまいます。

この点は、既製品購入時のお直しでも発生する問題です。袖丈は詰められても、着丈は詰めにくいというのにはこういった背景が有ります。

問題②:シルエットのバランスが崩れる

ジャケットの基本形は、正面から見た際の両肩と両裾を結んだ長方形です。(よく、肩幅と肩から裾までの距離は黄金比になっている、などと言われます。)

このとき、着丈を縮めると、長方形から正方形に近くなっていき、バランスが崩れてしまうわけです。

なお、カジュアルジャケットの肩幅や胴回りが小さく設計されているのは、短い着丈でバランスが崩れないようになっている、とも言い換えられます(従って、短丈のジャケットは着心地が悪くなっていきます)。

ここでの結論

まとめてみます。

  • ビジネススーツには、カジュアル性の低いデザインが求められる(=スーツでは必須要件)
  • 芯地を減らしたり、ラペル幅を変えたりすることでジャケットらしく見える(=ジャケットの推奨要件)が、着丈に関して言えば、ジャケットは短いことが求められる(=ジャケットでは必須要件)
  • 従って、着丈を原因として、上着がジャケットに転用できない可能性はある

 

ジャケットとして使うには3:ディテールの違い

最後に、ディテール面のカジュアル性を考えてみます。

ここでカジュアルなディテールとは、ボタンがナットやくるみであったり、パッチポケットであったりするものを言います。

必ずしもカジュアルなディテールは必要ない?

世の中のジャケットには、スーツ用と変わらないディテール(水牛ボタンを使ったものもあれば、ポケットも玉縁ないし玉縁フタ付きになっている等)の物もあります。

一方で、ナットボタン、ステッチ、パッチポケット、フラワーホール無し、肘当て等々、ジャケット特有のディテールを取り入れることで、よりジャケットらしく見せることも出来ます。

ここでの結論

従って、生地と同じく、次のことが言えます。

  • ビジネススーツには、カジュアル性の低いディテールが求められる(=スーツでの必須要件)
  • カジュアル性の高いディテールであれば、ジャケットらしく見えるが、カジュアル性が低いからといって、必ずしもジャケットとして使えないわけでは無い(=ジャケットでの推奨要件)
  • 従って、ディテールにカジュアル性が無い事のみを理由として、上着がジャケットに転用できないわけでは無い

 

まとめ

すこし話がややこしいのでまとめてみます。

上着をジャケットとして使うための必須要件として「着丈が短め」であることが分かりました。その他の、生地やディテールについては、あくまで推奨要件として、満たすとよりジャケットらしく見えることも分かりました。

しかし、これらの要件を満たすスーツが、加減によってはビジネススーツとして機能しなくなることは、皆様ご承知の通りだと思います。

そこで最後に、ジャケット転用しやすいスーツの例を考えてみます。

ジャケット転用しやすいスーツとは?

まず、必須要件になっていた短めの着丈。実は、昨今の流行として、スーツでも着丈が短いため、この点に関しては有利な条件にあると思います(私の好みではありませんが^^;)。

ただ、それでもカジュアルなジャケットとして理想の着丈を目指すのは結構難しいと思います。さらに、短丈の上着は、肩幅や胴回りが小さくなるため、長時間着用することが前提のビジネススーツに求められる快適さが失われやすいです。

そして、生地をザックリ系(3plyや、バスケット系)にしたり、控えめなステッチを入れたりすることで、若干カジュアル寄りのスーツにしておくと、それらしくなります。

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▲ ステッチの例。左がステッチ無しの襟、真ん中が控えめ、右が派手目。真ん中くらいが適当か。

さらに、転用が日単位では無い(ある日はスーツ、ある日はジャケットでは無い)ならば、ボタンをナットなどのカジュアルなものに付け替えるというのも、簡単な推奨条件の満たし方だと思います。

まとめると、ジャケットに転用しやすいスーツとは、

「着丈が1~2センチ短めのスーツで、ビジネス用として許される範囲のカジュアル寄りの生地を使い、控えめにステッチを入れ、本格転用時にはボタンを付け替える」

といったところでしょうか。

 

(おまけ)私の失敗談

最後に、自分の失敗から学んだ、教訓としていることを少々……。

「どちらにも使える」は、「どちらにも使えない」物になる可能性が大きい

「帯に短したすきに長し」とはよく言ったもので、最大の教訓です。

ジャケットとしても使えるマルチロールなスーツは、何度か挑戦したものの、挑戦した回数分の失敗作が残りました。

カジュアルならカジュアル、ドレスならドレスと、目的に沿った仕立てにする方が、結果的に利用回数も増え、コスパも良くなるケースが多いように思います。

「ついで」と「もったいないから」は避ける

ジャケットを作った時に「生地がもったいない」といってパンツもセットで仕立てたものの、全く使われなかったことが多数あります。

ジャケットを購入/作るときは、合わせるズボンも一緒に

ジャケットを新調したものの、手持ちのズボンでは(とくに本数が少ないときは)組み合わせに苦労する事が多いものです。

そんな、私のような色柄あわせが苦手な方は、ジャケットを作る(購入する)場合、ズボンとセットで買ってしまうのがお薦めです。「鉄板の組み合わせ」があるだけで、ずいぶん気持ちが楽になります。

またこのとき、ジャケットとズボンのボタンを合わせたりすると、とてもお洒落に見えます。

本数が増えると合わせやすくなるものの、外出前の忙しいタイミングで考えるのは大変なので、予め良い組み合わせを見つけ、写真で記録しておくと便利です。

 

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