「生地」「サイズ」「襟型」といった重要どころ以外の、「ボタン」や「ステッチ」といった細かなディテールも、シャツ選びの楽しいところですよね。
今回は、シャツの細かいディテールのひとつ、「前立て(まえたて)」について、そもそもなんなのか、「表前立て」と「裏前立て」でどの様な違いがあるのか、そしてどう選べば良いのかを考えます。
1.前立てって何?
シャツにおける「前立て」とは、前開きの上前(シャツを閉じたときに上側にくる方)にある、折り返しや別布で施された装飾をいいます。
写真の矢印部分ですね。
本来は補強の意味があったようですが、今となっては単なる装飾と考えて差し支えありません。
「表前立て」と「裏前立て」
私たちが普段お目にかかる前立てには大きく2つ。表前立て(おもてまえたて)と裏前立て(うらまえたて)です。
表前立ては、上前を表側に折り返したり、別布(共地の場合が多い)を縫い合わせたりすることで、少し装飾的な感じになります。
一方裏前立ては、裏側に折り返されるため装飾的要素は無く、プレーンな印象になります。
それぞれの見た目の違いを、もう少し考えてみます。
2.表前立てとは?
ご覧のように、上前に帯状の布が追加されているのが分かります。これが表前立てです。
かつては同じ生地の別布を貼り合わせていたようです。いまでもその様な縫製の製品はありますが、ほとんどが生地の折り返しになっています。
表前立ての効果
表前立てにすることで、カジュアルやスポーティな雰囲気になると言われることがあります。
実際にはそう簡単に片付けることはできない(後述します)のですが、強いて一つの要素に集約すると、「質実剛健なイメージになる」といったところでしょうか。
かつての実用面である、補強用の当て布としてのイメージがあるからなのですが、皆さんはどう思いますか?
幅による違い
表前立ては、幅によっても表情が変わります。
現在市販されているドレスシャツでは、3.3cm~3.6cm位が一般的だと思いますが、2.5cm程度の細いものを選ぶことで、モードな雰囲気にもなります。
シャツのメーカーによって幅やステッチの位置が異なるため、シャツブランドに対するなんとなくの好き嫌いが、実は表前立ての幅に由来していた、という経験もあります(私だけ?)。
イギリスと表前立て
一般的に、イギリス製のシャツに表前立てが多いと言われています。
「当て布」として、質実剛健を美徳とするイギリスのファッションに合うのかも知れません。
確かに、手元の既製シャツをいくつかピックアップすると、傾向として多いように感じますが、もちろん例外も沢山あり、十把一絡げには言えないところです。
3.裏前立て
ご覧のように、上前が文字通り裏側に折りたたまれているのが、裏前立てです。
裏前立ての効果
写真で見て分かるとおり、よく言えばプレーンな、悪く言えばのっぺりとした印象です。
余計な装飾を廃して、美しい生地やボタンを楽しむには、こちらのディテールが良いかも知れませんね。
イタリアと裏前立て
表前立てがイギリス製のステレオタイプだったように、イタリア製のシャツには裏前立てが多いと言われています。
生地のドレープを大切にするイタリアのスーツスタイルにおいて、裏前立ては生地本来の美しさをアピールし易いから、なのでしょうか。
しかし、手元のイタリア製シャツには表前立てのものが結構あり、「表前立てはイギリスシャツの仕立て」以上に例外が多い説だと感じます。(イタリアも南北で違うかも知れませんね。)
4.どちらを選ぶべきか
結論から言ってしまうと、ルール的に、一般的なドレスシャツを着用するシーンであれば、どちらのディテールでも問題はありません。
ですから、あとは「そのシャツでどんな表情を見せたいか」につきます。
ここでは、私が実践している方法をいくつかご紹介します。
軟らかい、光沢のある生地には裏前立て
裏前立ては、生地をプレーンな状態で表現することに長けたディテールです。
したがって、生地の良さそのものを生かしたいとき、例えば細番手の軟らかい生地や、美しい光沢/ドレープがある生地などは、裏前立てで仕立てています。
かっちり見せたいときは表前立て
逆に、固めのハリのある生地に、アイロンで糊をきかせ、パリッと見せたい時は表前立てにしています。
礼服の側章(ズボンの両脇にある縦長の飾り)に、効果としては似ているかも知れません。
(ただ、この様なシーンではネクタイを着けるため前立てそのものが見えづらく、従って自己満足が9割くらいです^^;)
カジュアルなシャツにも表前立て
前項は、前立ての装飾性をかっちり見せる方向に利用するものでしたが、それとは別の表情を出せるのが、表前立ての面白いところです。
ここで重要なのは、表前立てにすることで、縫い目が増えるということです。
どういうことかというと、カジュアルシャツの少し内側に入ったステッチが前立てに走ることで、一転変わってとてもカジュアルな雰囲気になるのです。
これが、一説に「表前立てはスポーティな雰囲気」と言われる原因だと思います。
ただし、この縫い目を、目立たない糸で、細かい運針を端の部分にすることで、逆にドレスな印象にもなります。したがって、表前立てを直ちにスポーティというのは疑問です。
5.おわりに
自分の手持ちを調べて見たところ8:2くらいで裏前立てのシャツが多数でした。
細番手の軟らかい生地に沢山手を出すようになった――というのもありますが、シャツに余計な個性や装飾を持たせたくなかったのも理由の一つです。
つまり、表前立てにすると、前立ての幅やステッチの目立ち具合(糸の細さ/運針/色、ステッチの場所)などで主張が出てしまうことがあるからなのですが、一方で「とりあえず裏前立て」を横行させてしまう言い訳にもなっていました^^;
本来はここで思考停止せず、もう少し意味のある前立て選びをすべきだったのかも知れません。
これからの季節、クールビズでネクタイをしないスタイルによって前立てが目立つようになります。今一度、デザイン面での活用を考えてみたいです。