歴史・勉強

スーツスタイル「ボタンのルール」を考える

投稿日:平成29年(2017) 5月28日 

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先週、ネットやTVマスコミを中心に、ある婚礼ニュースに関連して「2ボタンスーツの、上着のボタンを両方留めても良いのか」という話が盛り上がっていました。

こういった「ボタンのルール」については、着席時に留めるべきか、ベスト(ウェストコート)の一番下のボタンは外すべきか、本切羽のボタンは外すものなのか……等々、面白いネタが多いことに気づきます。

そこで今回は、スーツスタイルのボタンに関するルールや疑問について、QA形式で考えてみました。

Q1.ジャケットのフロントボタンは全て閉じても良い?

A.基本的には、一番下のボタンを開ける

現在流通しているスーツは、2つボタンまたは3つボタンの2つが主流ですが、いずれも「一番下を開ける」と覚えておけば、大丈夫です。

なお、3つボタンの場合は真ん中のボタンだけを掛けてもOK(上と下のボタンは掛けなくてもよい)ですが、「3つボタン段返り」(上のボタンが、下襟に隠れる仕様)は、真ん中だけを掛けます。1つボタンの場合は外しません。

そもそも、一番下は留めないデザイン

現代のスーツは、第1ボタンからなだらかな曲線を描きつつ裾のカットに到達するデザインが主流です。

そのため、一番下のボタンは留めることを想定しておらず、「飾り」の場合が多いわけです。

飾りになった経緯については、ボタン数とボタン位置の変化によって成立したという説、乗馬服の名残でもともと飾りだったという説など、諸説あります。また、かつて全て閉められるデザインの物が流行したことがあるそうですが、いまでばまったく見ません。

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例えば、このスーツの下のボタンを留めてしまうと……

 

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こんな感じに、想定よりも腰の部分が引っ張られ、大きくシワが入り、窮屈そうに見えてしまいます。

そのため、現代のスーツでは、「きっちり感」を演出しようと両方のボタンを留めると、あまり良い結果になりません。

例外は、女性用ジャケットとスクエアカット

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一方で、女性用ジャケットは、下のボタンも留める物が多いです。

上の写真の通り、男性用のジャケット(右)は、第1ボタンからフロントカットにかけてなだらかなカーブを描いていまが、女性用のジャケット(左)は、第1ボタンから第2ボタンまでは直線(緑色点線)、第2ボタンからフロントカットが曲線になっていることが分かります。

また、男性用の服でも、軍服や学生服など、裾が直角にカットされているタイプの服は、全てのボタンを留めるように設計されている物が多いです。

なお、一番下のボタンを留めないことを雑誌などで「アンボタンマナー」と紹介されることかあります。ただ、海外のサイトでこの表現を見かけたことがなく、和製英語かも知れませんね……^^;

 

Q2.着席時、ジャケットのボタンは閉める?

A.基本的には開ける

スーツのボタンは、着席時には開けるのよい、とされています。

※ とはいえ、日本の価値観は違うこともあるため、注意します(後述)

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上の写真は、イギリスのウイリアム王子殿下が初来日した際の様子です(産経新聞H26.2.26付記事より引用)。公式行事において記者やカメラマンに囲まれながら、ボタンを外して座っていることが分かります。

その他、外国の要人が着席しているシーンをネットで検索すればいくらでも出てきますが、殆どボタンを外していることが分かります。

シワが出来るから

何故ボタンを閉じないのでしょうか。調べてみると、単純に「シワが出来るから」としている書籍が多く、さらに複数のテーラーに確認してみましたが、同様の回答でした。

というのも、ジャケットのフロントボタンは、起立した状態で留めることを想定して作られます。当然、立ったときより座ったときの方が、腹回りはキツくなりますから、開けないとみすぼらしくなる、というわけです。

ウェストコート前提?

とはいえ、フロントボタンを開けると、シャツが見えてしまいます。元来下着であるシャツを見せるこの格好が、本当にあるべき姿なのか、という議論はあると思います。

そこで、私が思うのは、「座ったときにフロントボタンを開けるのは、スリーピースでウェストコート(ベスト)着用が前提なのでは?」ということです。

 

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このように、ウェストコートがあるだけで、だらしなさが全く違います。スーツからウェストコートが無くなった(2ピーススーツが大勢な)今だからこその問題なのかも知れません。

ちなみにスリーピースは、立っている場合でも、ジャケットの前を開けても良いとされています。

国内の価値観――就活の面接の時は……

正直「着席時はボタンを開ける」というルールが、日本の社会にどれだけ浸透しているかというと、微妙なところでしょう。

したがって国内では、少しでもマイナス要因を無くしたいシーン(例えば、就職活動の面接時など)では、閉めておいた方が得策でしょう。

 

Q3.ウェストコート(ベスト)の一番下のボタンはあける?

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A.開けるのが主流のようです

スーツスタイルには様々な(本当と嘘が入り交じった)逸話がありますが、ウェストコートのボタン問題もその一つです。

有名なものでも2つ有り、一つはジョージ4世(摂政時代)とブランメルの逸話、もう一つは少し時代が下ってエドワード7世の逸話です。

詳細は省きますが、うっかり閉め忘れた(前者)、肥満で閉められなかった(後者)のが慣習化したというものです。

デザイン的な理由は無いが……

ジャケットの時は、フロントカットのカーブが一番下のボタンにかかっているため開ける、という結論でした。しかし、こちらは最後まで直線です。

したがって、個人的には

  • 閉めても閉めなくても良い
  • 6ボタンなどで、座りにくいなどが有る場合は、一番下を常時あけても良いのでは

としています。

もともと開いているデザインを選ぶのも手

どちらが正統か、というこの手の話は神学論争になりやすく、あまり首を突っ込みたくないのが本心です……^^;

ということで、最近は元々開いているデザインを採用することか多くなりました。

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こんな感じです。テーラーなどでは「6つボタン5つ掛け」などと言われるタイプです。

 

Q4.ジャケットの袖(本切羽部分)は開けても良い?

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A.私は開けていませんが、お好きにどうぞ

ジャケットの袖にはボタンがついていますが、このボタンが開閉可能な仕様を「本切羽(ほんせっぱ)」といいます(英語だとWorking Cuffs)。

以前は、既製品スーツの殆どが「開き見せ(=本切羽では無い)」だったため、この本切羽が高級なスーツの証し、とされた時期がありました。

そこから、本切羽であること(=高級スーツであること)をアピールするため、わざとボタンを1~2個開けるというのが、かつて流行したわけです。

今でも量販店では「袖のボタンを外せますよ」「1個外すとお洒落ですよ」と店員から売り込まれる事があります。しかし、現在では量販店の既製服が殆ど本切羽に対応し、「高級スーツであることのアピール」から、「高級スーツであることをアピールしていることのアピール」になってしまいました。

そのため、私は野暮に感じるので、理由がある場合を除いて開けていません。しかし、開けることはマナー違反では無いと思います。(要は、個人の好き好きだと考えます。)

袖まくりには便利

「理由がある場合を除いて」の、理由のひとつに、袖まくりがあります。

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スーツではやりにくいですが、夏場のジャケパンなどでシャツごと袖をまくるとき、袖のボタンを2個くらい開けると綺麗にまくれます。

見た目にも涼しいですが、袖から空気がかなり入ってくるので、実際にも涼しいです。

 

Q5.(番外)シャツのボタンは全部閉める?

A.全部閉める事をオススメします

第1ボタン

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第1ボタンを閉じた状態がこちらですが……

 

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開けるとこんな感じになります。

よく、第1ボタンは見えないし、窮屈だから開ける、という方をお見かけします。たしかにボタンは見えないのですが、シャツ襟のきれいなハの字が崩れてしまうため、オススメしません。(また、少しでもネクタイが緩むと、格段にだらしなく見えてしまいます。)

剣ボロ

剣ボロとは、シャツ袖手首付近の開きがある部位のこと。

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一部海外製を除くと、大体ボタンがついています。

もし、ジャケットを脱ぐ機会があれば、このボタンも閉めておくことを推奨します。

 

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空いていた場合、他人からはこんな感じに見えるからです。特に、毛深い人は要注意です。

 

一方で、気温は高いのにジャケットを脱げないor脱がないと決めているときに、意図的に剣ボロを開けるのは、冷却方法としてオススメです。風の通りが良くなるので、腕から肩に掛けて、かなり涼しくなります。

 

おわりに

Q3にも書きましたが、この手の紳士服のルールにまつわる話は、確定的な結論が出ないことが多いです。

諸説有る由来や物語、日本独自ルール、独自ルール否定派と肯定派の争い、アパレル業界の思惑、服飾評論家の思い込み、ネット上のコピペ文化、(私を含む)SNS発信者の不勉強等々が幾重にも折り重なって、神学論争化するからです。

したがって、本稿の内容は唯一確定的な情報では無く、あくまで一つの意見でしかないことを附記します。

また、「こう言う話もあるよ」とか「自分はこう実践しているよ」という意見がありましたら、ぜひコメント欄から情報をお寄せ下さい。

 

 

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