男子大学生をターゲットとするファッション雑誌『FINEBOYS』。その中から『FINEBOYS +plus SUIT』という、スーツスタイルに特化したムック本が、年4回ほど発行されています。
紙面を読むと、ターゲットはFINEBOYS本誌よりも少し上、20代中盤~後半の若手層だと思います。
若手向けのスーツ専門ムックが珍しくなった昨今、とても貴重な存在ですし、私も毎号欠かさず読んでしまうのですが、執筆編集も若手社員がやっているのか、毎号何点か面白いツッコミどころがあり、その点も楽しみにしている要素の一つです。
そこで今回は、すこし意地悪な企画ですが、ツッコミの観点から同ムックをご紹介したいと思います。
※ なお、今回は最新号のVol.37と、その一つ前のVol.36からご紹介します
1.参考になる用語解説、ほとんど問題は無いが……
FINEBOYS +plus SUITは、毎号巻末に用語解説やルール系の記事が4ページ程度掲載されています。
Vol.36(前号)は「スーツ基本用語を解説」、Vol.37(最新号)は「”スーツの着こなし”ベーシックルール。」で、お世辞抜きに「参考になるし上手く纏まっている」と感じました。
ただ、それでも毎号面白いエラーが1つか2つ見つかります。
フィッシュマウスとノッチドラペルの混同
△日之出出版(2022)『FINEBOYS+plus SUIT vol.37』マガジンハウス/日之出出版 p.117より引用、下線は当サイトで記載
まず、ラペルの説明で何故か最もベーシックなノッチドラペルがなく、さらにフィッシュマウスの説明画像がノッチドラペルになっています。
そもそも、段返り、フィッシュマウス、ピークドラペルを並列に説明するのも斬新です^^;(段返りだけ仲間はずれ?)
なお、フィッシュマウスは、上の図のような形をしたラペルを言います。(赤点線の部分が大多数を占めるノッチドラペルのライン。実物は保有していないため、拙い絵ですみません。)
「3つボタン」と「3つボタン段返り」は別物
△日之出出版(2021)『FINEBOYS+plus SUIT vol.36』マガジンハウス/日之出出版 p.117より引用
「ジャケットのボタンは全て留めない」はその通りですし、登場するのが2つボタン/3つボタン/ダブルというのも適切なチョイスです。しかし、「3つボタン」の説明が「3つボタン段返り」と混同しています。
確かに、「3つボタン段返り」は真ん中だけ留めますが(段返りになっている一番上のボタンは飾りボタンです)、「3つボタン」であれば、<上2つ>又は<真ん中1つ>で留めるのがルールのハズ。
前項(ラペルの所)でも3つボタン段返りが突然出てきましたが、ライターか編集部に段返り好きの方がいらっしゃるのでしょう^^;(私も好きです)
2.サイズが変?
スーツスタイルを扱う雑誌や書籍でよくある、体型別の補正テクニック特集。Vol.36でも登場しているのですが、結構面白い感じです。
恰幅が良いモデルは存在しない?
△日之出出版(2021)『FINEBOYS+plus SUIT vol.36』マガジンハウス/日之出出版 pp.60-61より引用
本来は、イラスト(画像右)のように恰幅のいい人をモデルにすべきなのですが、実写の左ページでは明らかに通常体型の人が、「恰幅のいい人」として登場しています。
恰幅の良いモデルをブッキングできなかったのか、そもそも「モデル」という職業には恰幅の良い人が存在しないのか(ポリコレ的にはNGですね^^;)、はたまた恰幅の良いモデルはいたけれどスポンサーが用意したスーツが入らなかったのか……。
明らかなオーバーサイズ
△いずれも前掲書 pp.61-65より引用
続いて「低身長の人」について。なにか違和感がないでしょうか……?
そう、全部片手か両手をズボンのポケットに突っ込んでいるのです。社会人のルールとしてNG――という話では無く、これ、おそらく全ての写真でスーツに体があっていません。
△いずれも前掲書 p.63, p.65より引用
この様に、よく見ると袖が盛大な蛇腹状になっています。
また、ポケットに突っ込んでいない手も、腕を曲げつつスーツの袖をたくし上げ、シャツのカフをなんとか見せようと頑張っている感じがします。
△前掲書 p.61より引用
この写真を見ると、指の関節までジャケットの袖がかかっていて、明らかにサイズが合っていません。
このサイズ感を参考にしてしまうと、それこそこの特集で解決すると謳っているはずの「スーツに着られているような印象」を増長してしまうと思うのです。このモデルの全スーツがこの状態なので、モデルに合ったサイズのスーツがスポンサーから提供されなかったのかも知れませんね。
袖丈の長さを隠すポージングを考える、編集者やカメラマンの苦労が忍ばれます……。
3.それは言い過ぎなんじゃ……
ポケットチーフへの忠誠心強すぎ
△日之出出版(2021)『FINEBOYS+plus SUIT vol.36』マガジンハウス/日之出出版 p.118より引用
間違いではないですが、この2点は誤解を生みます。(いや、間違いかなぁ……)
- マナーとして「チーフは挿しましょう」
- スーツスタイルのアクセサリーとして、唯一許されているのがチーフ
マナーとして「チーフは挿しましょう」?
チーフ(ポケットスクエア)は、あっても無くても構いません。差したければ自由に差して下さいという程度だと思いますが、どうでしょう?
もちろん、パーティーシーンなど、手軽に華やかに出来ますし、ノータイのジャケパンなどでも活躍しますので、オススメするアクセサリーではありますが、マナーの枠組みに入れてしまうのは考え物です。
スーツスタイルのアクセサリーとして、唯一許されているのがチーフ?
スーツスタイルに許されるアクセサリーは少ないです。
しかし、カフリンクス(いわゆるカフスボタン)、タイバー、タイピン、腕時計/懐中時計、カラー(シャツ襟)ピンなど、スーツスタイルに許されているアクセサリーは複数あり、ポケットチーフが唯一のアクセサリーではないです。
このまとめ方には無理があるかも?
△日之出出版(2022)『FINEBOYS+plus SUIT vol.37』マガジンハウス/日之出出版 p.119より引用
スーツの生地についても的確にまとめられていて、説明文そのものに間違いは無いのですが、問題は「SEASON」の部分。
代表的なスーツの素材を書き出した後、無理矢理シーズン、つまり適する季節のフレームワーク(枠組み)に落とし込むよう上から指示が出たのでしょうか、なんだかおかしなことになっています。
まず、ウールモヘアが秋冬向きになっていますが、男性のスーツ生地だとモヘアは多くが春夏向きです。(ドーメルのトニック好きの方は多いのではないでしょうか。さすがに盛夏は厳しいですが、モヘア混・強撚の三杢とか春夏用に大好きです。)
そもそも、ウールやウールシルクはどんなシーズンにも登場しますし、また、コットンポリはあるのに低価格スーツの大半を占めるポリエステルやウールポリが無いのはちぐはぐです。
4.実際には良い部分が多い
毎号、面白いエラーがあって、それを見つけるのを密かな楽しみにしていたので(なんか性格が悪いですね)、今回はこの様な角度からの紹介になってしまいました。
しかし、以下の観点から若手社会人の方にはとてもメリットがあるムックだと思っています。
- モデルが全員日本人で若手のため、コーディネートの参考になりやすい
- 毎号、スーツに加え、靴、鞄、ネクタイなど幅広く紹介されている
- 毎号、各ブランド、セレクトショップ、百貨店、量販店などがイチオシするスーツスタイルが、40店/120スタイル程度、大量に掲載されている(一覧性が高く、流行を知りやすい)
Amazonで1,000円以下で買えますし、dマガジン等でも読めますので、気になる方は是非手に取ってみて下さい。
FINEBOYS+plus SUIT vol.37 [始まりの季節、凛々しき仕事着] (HINODE MOOK 651)
5.そして、自分への戒めにする
書籍や雑誌といった紙媒体は大変だなと思いました。というのも、間違いを訂正出来ず、そのまま流通され続けるからです。(よほどの問題→回収がある場合を除いて。)
当サイトでも、開始当初からFINEBOYS +Plus SUITとは比較にならないほど、重大かつ大量の誤りを書き散らしてきましたが、救いはそれを優秀な読者の皆さんがコメントで訂正して下さることでした。
これは、単純な私の認識誤りの場合もあれば、「諸説ある」というパターン、さらに「こういう観点も重要だよ」というプラスの意見/盛り上がりもあり、そういったコメントを含めて一つの記事が完成してきたと感じています。
今後もなるべく間違いの無いように気をつけていきますが、お気づきの点がありましたら、コメント欄から気軽にご指摘下さい^^;(実は、今回のFINEBOYSに対するコメントも的外れがあるかも?)