「はじめてスーツスタイルのおしゃれを考えた人はどうのようにすればよいのか」
というテーマで進行中の連載「スーツの壁」ですが、今回は資料集として本編で書くと冗長になる部分をスピンオフさせようと思います。第1回は「靴の製法」です。興味のある方は御覧下さい。
革靴にはどの様な種類があるのでしょうか?
「スーツスタイルなのに靴から?」と思われるかも知れません。
しかし、靴ほど長持ちし、ファッションに大きなインパクトを与えるアイテムはありません。スーツやシャツ、ネクタイよりも、ちょっとお金を掛けるだけで全身の見栄えが変わります。
今回は、スーツスタイルの靴にはどの様な種類があるか提示した上で、そのメリットデメリットを考えていきます。
※末尾に結論のみ列記しました。お急ぎの方はそちらへどうぞ。
種類による特徴 [価格・耐久性]
機械式製法の靴には、その作り方によって3通りに大分類することが出来ます。
- セメント製法
- グッドイヤーウエルテッド製法
- マッケイ製法
それぞれ簡単に説明した上で、利点と欠点を挙げます。
1.セメント製法
靴のアッパー(甲の部分)とソール(靴底)をセメントで接着する製法です。
利点:安価。劣化による履き心地変化があまりない。雨に強い。
欠点:耐久性に劣る。中程度以上のクラス(3万~)の靴にこのタイプが少なく、選択肢が狭い。
2.グッドイヤーウエルテッド製法
アッパーやソール、中敷きなどをリブと呼ばれる突起に縫い付ける製法です。
利点:中敷きの下にコルクが充填されており、履くうちに沈み込んで足にフィットする。ソールの交換が容易。
欠点:履き始めはソールの返りが悪い。ソールのフチ(コバ)の張り出しが多く、無骨なイメージがある。
3.マッケイ製法
アッパーやソール、中敷きなどを直接縫い付け、最小限のパーツで構成する製法です。
利点:コバのはみ出しが少なくエレガント。デザイン性に長けた物が多い。履き始めのうちからソールの返りがよい。
欠点:雨に弱い。耐久性が比較的弱い。ソールの交換が難しい(2-3回程度)。
まとめ
価格 マッケイ = グッドイヤー > セメント
耐久性 グッドイヤー > マッケイ > セメント
ランニングコスト グッドイヤー > マッケイ > セメント
なお、セメント製法の靴については、私は余りオススメをしていません。
3,000円程度から購入でき、リーズナブルではあるのですが、それ故良い素材や作りの靴が少ないのです。
→有る一定以上の品質をもった靴は、おおむねセメント以外の製法を採っています。
従って、以降の検討は、グッドイヤーウエルテッド製法とマッケイ製法の違い、
及び価格帯による違いについて検討し、セメント製法については除外します。
種類による特徴 [見た目]
前項で紹介した、グッドイヤーウエルテッド製法とマッケイ製法における、見た目の違いを述べたいと思います。
見た目については、賛否両論あると思いますが、
質実剛健さや紳士っぽさを演出するためにはグッドイヤーウエルテッド製法が、
伊達男っぽさや繊細さを出したいのであれば、マッケイ製法がオススメです。
根拠としては、以下の通りです。
1.コバの張り出しによる違い
靴底の張り出し、エラの部分を「コバ」と言います。このコバが、グッドイヤーウエルテッド製法についてははみ出しが多く、マッケイ製法は少ない物が多いです。
これは製法の違いによる物ですが、はみ出しが少ない物がエレガントに見え、そうでない場合は質実剛健に見えます。
2.生産国による違い
グッドイヤーウエルテッド製法は英国で多用され、イタリヤではマッケイ製法が多用されています。それぞれの国民性が、その製法が持つ特徴をそれぞれ良い方向に発展させました。
英国では質実剛健さや紳士っぽさが尊重されましたが、イタリヤではエレガントさや奇抜なデザイン性が尊重されました。
3.オールソール交換の耐久性
グッドイヤーウエルテッド製法は10回弱の靴底全交換(オールソール交換)に対応できますが、マッケイ製法は2-3回です。ローテーション頻度にも因りますが、質実剛健という言葉は、オールソールが何度も可能なグッドイヤーウエルテッド製法に軍配が上がります。
一方で、マッケイ製法は流行のデザインをはき続けることが出来るというメリットもあります。
種類による特徴 [まとめ]
- 靴の製法には数種類(※)あるが、グッドイヤーウエルテッド製法とマッケイ製法を薦める。
- 耐久性や質実剛健さ、紳士っぽさを追求するならグッドイヤーウエルテッド製法を選ぶ。
- 流行性や繊細さを追求するならマッケイ製法を選ぶ。
- 英国靴にグッドイヤーウエルテッド製法が多く、イタリヤ靴にはマッケイ製法が多い。
※手縫いのハンドソーン製法など様々。今後、取り上げたいと思います。
(結論)
「スーツの壁」初心者にとって、コストパフォーマンスと見た目を両立させるためには、グッドイヤーウエルテッド製法がよい
英国靴好きの私の主観が入っている気もしますが、コストパフォーマンスに優れる日本の靴メーカーも、ほとんどがグッドイヤーウエルテッド製法によって作られています。