ファッション誌を読むと、ここ2~3年は英国テイストのクラシック回帰という流れがあるように感じます。
確かに、三つ揃い、プリーツ(タック)入りのズボン、千鳥柄(ハウンドトゥース)といった、数年前は余り見かけなかった古典的ディテールや生地を、店頭ディスプレイでも見かけるようになりました。
そういった動きの中でひときわ異彩を放っているのが「ペイズリー」という柄。千鳥やタータンに比べるととっつきづらく、後回しにされていた感がありますが、ちらほら誌面や店頭に登場してきました。
そこで今回は、ペイズリーの概要から、ペイズリータイをビジネスに利用できるのか、利用する場合はどの様な工夫が必要かなどを考えてみます。
1.ペイズリー柄とは
概要
日本では勾玉模様などと言いますが、起源はペルシア(現在のイラン)の花鳥紋。
この花鳥紋がインドのカシミール地方に伝わり、そこで織られたカシミアショールが19世紀の初めにヨーロッパで大流行しました。
そこで、産業革命下のイギリス、特にスコットランドのペイスリー市でこの模造品が大量生産されたことから、柄そのものも「ペイズリー」と言うようになったそうです。
(出典:成田典子(2012)『テキスタイル用語辞典』テキスタイル・ツリー)
柄は何を表している?
勾玉、ゾウリムシ、シダ、松ぼっくり、糸杉など、様々な説があり、定説は無いようです。
また一説によると、樹木崇拝が起源というものもあり(国立国会図書館 レファレンス協同DBより)、これだけでライフワーク的研究テーマになりそうです^^;
2.ペイズリーが与える印象
人によって、図柄から受ける印象は異なります。とはいえ、一般的に言われている内容や、私が感じた内容をすこし整理したいと思います。
① 華やか
花鳥紋を起源とするペイズリーは、単なるドット、直線といった幾何学的な模様に比べ、華やかです。
もちろん、色やモチーフの大きさにもよりますが、細かく書き込まれた文様が、一般的な柄と比べて華やかな印象を与えます。
② 古くさい → 一周回って新しい?
ペイズリーが日本で最後に流行したのは、文献によって異なりますが1960年代にかけてとのこと(1980年代という説もあり)。
当時現役世代だった人には懐かしく、また古くさく感じるかも知りません。
しかし、私を含む若手世代にとっては、一周回って新しくも感じられます(私だけ?)。
③ 個性的
ドットやストライプのネクタイは、どうしても人気の色柄が似通ってしまいます。そのため、人と被るという経験をした方も多いのでは無いでしょうか。
一方でペイズリーは、大きさ、模様の中身、抽象度などで、その柄は千差万別で、とても個性的です。
これで色のバリエーションも加わることで、元々の流通量が少ないと言うこともあいまって、他人と被ることはほぼ無く、自分なりの個性を演出できます。
ただ、派手にし過ぎると「中東からいらっしゃったんですか?」「オリエンタル好きですか?」となってしまい、注意が必要ですが……^^;。
3.ビジネスに使えるか
二択で言えば、使える
正直、業種や業界、そして着ていく場所(畏まった場所なのかどうか)によりけり、ではありますが――仕事に使えるか使えないかでいうと、使えると思います。
工夫は必要
一方で、仕事に使いやすいか、使いにくいかで言うと、けっして使いやすい柄では無いな、とも感じます。
それは、ともすれば派手すぎたり、個性的になりすぎてしまうためです。
とはいえ、ソリッドタイ、ドットタイ、ストライプタイ、小紋タイなど、王道と言われる柄に飽きてきたときに、ぴったりな柄だとも思います。
工夫の例
では、ビジネスで使う上で、どんな工夫が必要かを見てみましょう。私なりに考えたのは以下の通りです。
- 小紋柄として使えるものを選ぶ
- 織り柄や低コントラストで輪郭を目立たなくする
- ウェストコートで露出を減らす
次項で、具体例と共に見てみましょう。
4.コーディネート例
ペイズリー柄というと、スカーフで使われるような派手でカジュアルな印象があるのも確かです。
しかし、ペイズリーを使いながらも、ビジネス用途に十分耐えうるネクタイもあります。具体例を見ていきます。
1:小紋柄として使えるものを選ぶ
たとえばこちらのタイ。遠目には小紋柄かドット柄に見えますが……
実はペイズリーです。
ペイズリー好きからすると「模様がシンプルすぎてこんなのペイズリーじゃない」と言われそうですが、まずはこういった所から始めるのも良さそうです。
2:織り柄や低コントラストで輪郭を目立たなくする
個人的に一番オススメな方法です。
織り柄
たとえばこれ。遠目には無地に見えますが……
光の角度が変わると、文様が浮き上がる、織り柄であることが分かります。
ジャケットも紺色にすることで、よりカッチリ見せることが出来ます。
低コントラスト その1
一方、こちらは低コントラストのプリントタイです。
大柄なペイズリーですが、低コントラストな目立たない色を使う事で、おとなしめの印象になっています。
実際に使うとこんな感じ。
ネクタイの地の色が薄いため、少し明るめのジャケットを着せるとネクタイが浮いて見えません。
低コントラスト その2
おなじ低コントラストでも、濃いめの生地に濃いめの文様を配置したのがこちら。
生地そのものも、青みがかった織りが透けて見えるため、同化して見えます。
着用例。
3:ウェストコートで露出を減らす
ペイズリー柄に限らず、派手なネクタイをつけたいときは、ウェストコート(ベスト)と共に着用するというのも手です。
前項で紹介した例に、ウェストコートを着せてみました。露出面積が減ることで、派手なタイでも着やすくなります。
(元々地味なペイズリーなので良い例とは言えませんね……すみません。)
5.最後に
これまで古くささの象徴とされたウェストコート。しかし、スーツ量販店で多く陳列されるようになるなど、復活したように感じます。
個人的な感想としては、誰もが手軽にウェストコートを楽しめるようになった、という嬉しさと、自分が贔屓にしているインディーズバンドがメジャーデビューしてしまうような悲しさの両面があります。
ペイズリータイに流行の兆しがあることにも、似た様な感覚があります。
もちろん、今のところウェストコートほど流行していません。しかし、この不思議な文様の素晴らしさは、一度知ってしまうとやみつきになる方も多いのではないでしょうか。