スーツを着るサラリーマンにとって、スーツスタイルの日は革靴以外選択肢がありません。しかし、基本的に革は水に弱く、雨には注意すべき点があります。雨と革靴について、以下の点を考えてみたいと思います。
第1回:雨の日にはどの様な革靴を履けばよいか (今回)
第2回:通常の革靴の雨予防
第3回:雨に降られた後の処置
今回はどの様な雨用靴を選択すればよいのかを考えてみます。
■「雨用靴」の是非
このサイトでお薦めしている革靴は、ビニール等の合成皮革ではなく本革の革靴です。雨の日に限って言えば合成皮革の靴に、防水性や履いたあとの処置の手軽さで軍配が上がりますが、このサイトを見た方には、あえて本革の革靴で雨に挑戦して頂きたいと思います。
中には、「雨用の靴など無い」というさらに上を目指そうという方もいますが、このサイトはおしゃれ対し、無尽蔵にお金を使えるわけではないサラリーマンを対象にしています。
従って、あえて雨用の(しかし、晴れの日にも美しい)靴を用意することで、高級靴や雨に弱いタイプの靴が雨に濡れる回数を落とし、出費を少なくするという方法を採ります。
■「雨用靴」のポイント
では、雨に強い革靴はどうやって選べばよいのでしょうか。革靴が雨に濡れると、どの様な変化が起きるかを考えれば、ポイントが見えてきます。
(靴底)多量の水分を吸い込むと柔らかくなり、革底の減りが激しくなります。
(靴底と甲革の縫い目)雨が縫い目から靴の中に浸入してきます。
(甲革)水によって甲革が変色します。また、乾燥後に塩分が析出し、著しく外観を損ないます。
さて、それぞれ対策を考えてみたいと思います。
(靴底)水分吸い、革底が減る
乾いた高野豆腐を擦っても大丈夫ですが、水でふやかした物を擦るとボロボロと崩れてしまうように、革底も水分を吸うことで、脆くなってしまいます。
根本的な解決方法として革底ではなくゴム底の靴を履くという方法があります。革底特有の履き心地や、蒸れないという利点は失われてしまいますが、霧雨の多いロンドンとは違い、土砂降りの多い日本には必要かも知れません。駅構内でのスリップを考えると、ダイナイトソールがお薦めです。
また、革底が二重(正確には1.5倍程度)の厚さになっているダブルソールの靴も対策になると思います。
(縫い目)靴の中に水が浸入する
GYW(グッドイヤーウェルテッド)製法にしろ、マッケイ製法にしろ、甲革と革底を糸で縫い付けているため、縫い目からは水が浸入しやすい構造になっています。
一方で、ノルウィージャン製法に代表される、雨や雪が多い地方で発達した登山靴などに適した製法であれば雨風対策に比較的有効ですが、コパの張り出しが大きいため、デザイン上無骨になりすぎたり、ブーツ以外には使いづらいという欠点があります。
ただ、次章に後述する手入れを欠かさず、よほどの土砂降りや雪の中で履かなければ、GYW製法でもあまり水は浸透してこないので、この部分は余り問題にならないと思います。
ノルウィージャン製法のチャッカブーツ(Crockett&Jones Grafton)
雪や雨が降る、寒い日に活躍する。
コバの張り出しが大きいことが分かる。
(甲革)変色や、水分が乾燥後の塩分析出
デリケートな甲革の場合は、雨によって色が変色することがあります。特に、茶色やタン(薄茶)の甲革は注意すべきです。ですから、雨用を謳った靴や雨靴として定評のある靴以外、雨用靴に薄い色の靴を選ぶべきではありません。
また、甲革(アッパーレザー)は「鞣し」という皮から革にする工程に入る前、塩漬けにされて保存してあります。そのため、革の中に相当量の塩分等のミネラルが含まれており、革がいったん水を吸った後乾燥すると、これらのミネラルが表面に析出し、白いボツボツが現れることもあります。(また、足の汗由来のミネラルも含んでいます)
高級靴に使用される革にはいくつか種類がありますが、その中でも「ポリッシュドバインダー」や「ガラス革」と呼ばれる特殊革は水を良く弾きます。欠点として革が輝きすぎることや、手入れによって革の質感が変化しない(良い言い方をするとメンテナンスフリー)ことから、好みが分かれます。
■まとめ
これらを考えると、以下のような靴が、おすすめの雨用の靴であると言えます。
- 革底が合成底であること(ラバーソール、ダイナイトソールなど)
- ノルウィージャン製法などアウトドア用の製法であること
- ポリッシュドバインダーやガラス革で作られていること
上記全てを満たす必要はありませんが、それぞれ雨用の靴に適した長所であることを示しています。個人的な雨用靴としてお薦めなのは以下の2品です。
・チャーチ シャノン(ラバーソール版)
→ ポリッシュドバインダー。チャーチ自体、頑強さに定評がある。デザインも非常に良い。若干値段が張るが、投資としては十分。
・スコッチグレインのテクノソールを使用しているライン(最近はWEB限定が多い)
→ 耐久性のあるテクノソール(合成底)を使用している。2万円台で購入することが出来、耐久性のある国産カーフを使用しているため、次章以降で紹介する甲革への雨対策を怠らなければ、全天候型で活躍できる。
写真の靴は、購入時は21,000円くらいでした。この価格でこのクオリティはとてもコストパフォーマンスがよいと思います。(その後少し値上がりしましたが2万円台です)
ソールは極力革底の感触に近づけたというテクノソール(合成底)。ちなみに、現物を店で試し履きは出来ませんが、同木型のモデルでフィッティングに応じてくれました(銀座店)。
次回は、通常の革靴には、どの様な雨対策をすれば良いのかを考えてみます。
■ 本記事のリンク
第1回:雨の日にはどの様な革靴を履けばよいか (今回)
第2回:通常の革靴の雨予防 (次回)
第3回:雨に降られた後の処置