前回の記事「万年筆を使う、5つのメリット」は、
Facebook、メール、コメントなどを通じて、多くの反響を戴きました。
有り難う御座います。
ファッションのサイトに万年筆は合うかなぁ……、と心配していましたが、
杞憂だったようです。
その証拠に、テレビ東京系列の『俺のダンディズム』の第2話では、なんと万年筆が登場。
ペリカンのスーベレーンM400(緑軸)が購入アイテムとして挙げられていました。
万年筆、まだまだ現代社会人にも必要とされているアイテムのようです。
さて、前回は万年筆の有用性をご紹介しましたので、
今回は「万年筆の使い方」として、初めて万年筆を使う方、久しぶりに使う方向けに、
万年筆の基礎――インクの種類や入れ方、使用上のポイントを中心に考えたいと思います。
入学祝い/入社祝いで貰った万年筆が机の引き出しの中に眠っていると言う方、
買ったは良いが、インク詰まりを起こして装飾品と化しているという方、
ぜひ一緒に万年筆を前線復帰させませんか?
※ 万年筆のメンテについては、字数の関係で次回以降に採り上げます
1.インクの入れ方を把握する
当然ですが、万年筆はインクを入れて使う筆記具です。
つまり、ボールペンのように「芯」としてペン先ごと入れ替えるのではなく、
インクのみ入れ替える筆記具です。
したがって、インクの入れ方も、万年筆によって何通りかに分類されます。
自分の万年筆がどのタイプなのかを事前に把握した上で、インクを入れることになります。
※ 各方式の特徴を記載しますが、念のため説明書やネットなどで調べてからトライして下さいね
A. 吸引式
古典的な方法で、主に高価格帯の万年筆に多い方法です。
吸引式の中にも、お尻のノブを直接前後に動かす方式と、
ノブをねじって中のピストンを動かす方式(こちらが主流)があります。
B. コンバータ/カートリッジ併用式
現在主流の方法です。
インクが入ったカートリッジを取り替えることで、簡単にインク補給ができるほか、
コンバータという外付けポンプを取り付け、吸引式と同様に扱うことも出来ます。
C. カートリッジ式(コンバータ利用不可)
主に小型の万年筆に採用される方法です。
サイズ的にコンバータが入らない、
またはコンバータが販売されていない規格のカートリッジを利用する万年筆が該当します。
上がBのカートリッジ/コンバータ併用式(コンバータ装着);LAMY アルスター
下がAの吸引式;モンブラン マイスターシュテュック149
2.適切なインクを用意する
インクの入れ方を把握したら、続いて適切なインクを用意します。
吸引式の場合は万年筆用インク壺を、カートリッジ方式の場合はカートリッジを、
併用式は好きな方を用意してください。
ビジネス用途の場合、インクの色は黒か紺または青が良いと思います。
もちろん、緑や紫など、万年筆を楽しむ上で欠かせない色のインクも多々ありますが、
ビジネス用途としては不適です。
A. 吸引式
まずはペンと同じブランドのインク壺を用意します。
メーカーによってインクの粘度が異なるためで、同一のブランドであれば、間違いが無いためです。
ある程度慣れてきたら、別ブランドのインクを試してみても面白いと思います。
インク壺でインクを用意する場合「ブルーブラック」を選ぶことが出来ます。
これは、単に色の名前ではなく、インクの性質を表した名称でもあり、
筆記後、インクに含まれる鉄分が酸化し、耐水性を帯びる万年筆特有のインクです。
筆記直後は青いのですが、乾くと紺色に変色します。
耐水性や美しい鉄紺の色味がメリットで、私も多用していますが、
一方で万年筆を詰まらせやすくするデメリットもあるので、注意して下さい。
※ カートリッジ式などで、単に色だけを「ブルーブラック」と称しているインクもあります
※ インク壺でも酸化鉄を用いない/少ないインク壺もあります
※ お薦めのブルーブラックインキは(高粘度順に)LAMY、ペリカン、パイロットなどです
B. コンバータ/カートリッジ併用式
ここではコンバータを使うことにします。
まず、本体にコンバータが装着されているか確認して下さい。
装着されていなければ、安価なカートリッジ利用を検討するか、
本体を店に持っていき、適切なコンバータを調達して下さい(だいたい200~600円くらい)
インク壺の選び方については、吸引式と同じ考えでOKです。
C. カートリッジ式(コンバータ利用不可)
カートリッジを用意します。カートリッジの形状は、ブランドによって様々です。
欧洲を中心に統一が進んでいますが、未だに10種類近くの規格があります。
万年筆本体を文具屋に持っていくなど、合うカートリッジを調達しましょう。
カートリッジ式でも、セーラーの「極黒」など、耐水性の物も登場しています。
用途に合わせて、色や種類を選びます。
万年筆のカートリッジ。
上から日本のプラチナ万年筆用、セーラー万年筆用、欧州統一規格(ロング用)、
欧州統一規格(ショート用)、アメリカのクロス万年筆用
3.インクを入れる
続いて用意したインクを、万年筆本体に充填します。
基本的には吸引式が一番多くインクを入れることが出来(=沢山筆記出来)、
続いてロングタイプのカートリッジ、コンバータ、ショートのカートリッジと続きます。
※ インクを入れる前に万年筆を掃除することが好ましいのですが、
※ こちらは長くなりますので、万年筆のメンテナンスはまた別途ご紹介したいと思います。
A. 吸引式
- お尻のノブを緩めきり、中のピストンをペン先側へ移動させます
- ペン先が全てがインクに浸かるくらいに、万年筆をインク壺へ挿入します
- お尻のノブをしめきり、インクを吸い上げます
- ペン先をインクから引き上げます
- お尻のノブを僅かにゆるめ、2~3滴インク壺へ戻します
- 再度ノブをしめます
- ペン先や柄についたインクをティッシュでぬぐいます
5番は、液だれを防ぐための一種のおまじないだと思って下さい。
B. カートリッジ/コンバータ併用式
ここではコンバータを使うことにします。
- コンバータのノブを緩めきり、中のピストンを先端側へ移動させます
- 万年筆を分解し、コンバータを装着します
- (吸引式の2~7)と同じ
- 分解した万年筆を組み立てます
C. カートリッジ式(コンバータ利用不可)
- 万年筆を分解し、空になったカートリッジを抜きます
- 新しいカートリッジを差し込みます
(同時にカートリッジの封を破る必要があるため、多少力を入れて挿入します) - 分解した万年筆を組み立てます
カートリッジ式はインクの種類が少ないなどのデメリットも多いのですが、
こうして改めて書き出すと、
吸引式やコンバータ式に対する、カートリッジ式の優位性――手軽さが浮き彫りになりますね。
※ カートリッジ式は日本で開発された方式ですが、こういう改良って得意ですよね……。
上から、吸引式万年筆のノブを緩めた状態(モンブラン No.22;廃盤)、
カートリッジを装着した状態(ロットリング エスプリムーブ;廃盤)、
コンバータを装着した状態(クロス タウンゼントブラックラッカー)
4.書く
「キャップを取り、ペンポイントと呼ばれるペン先の丸くなっている部分を紙にあてて書きます」
基本的にはこれが全て、以上なのですが、
知っておいた方が得な情報がいくつかありますので、箇条で書いておきます
- キャップはこまめに閉める
万年筆はペン先が乾くと筆記できなくなります。 - 軽く書く
ペン先はとてもデリケートなので、ボールペンと同じ筆圧で書くと変形してしまいます。そもそも万年筆は筆圧をかけずに書く(書ける)筆記具ですので、軽く書いてください。 - ペン先はなるべく上にして収納
最近の万年筆では少ないですが、液漏れする危険性があるためです。大事なスーツを汚したくなければ、出来れば上にして収納して下さい。 - こまめに使う
しばらく使わないと、ペン先にインクが詰まってしまいます。最低週に一度は使って上げると良いでしょう。 - 長期で他人に貸さない
ペン先は持ち主の書きグセがつくので、書きにくくなる元凶になります。
こんな所でしょうか……
後は日常のメンテナンスや、放置した万年筆の対処法についても書きたかったのですが、
分量が多くなりそうなので次回以降にしたいと思います。
皆さんは『俺のダンディズム』御覧になりましたか?
あれだけの短い時間に、各カテゴリのエッセンスが上手く纏まっているので、
“この世界”に引き込むには、大変優良な番組だなぁと、感心してみていました。
第2話の「万年筆」ではペリカンとモンブランを競わせておいてペリカンを、
しかも小型のM400を選ばせるという、いかにも通好みの選択をしてくれましたが、
一方で第3話の「靴」では、日本製の靴を一切出さないところが少し引っかかりました。
※ なにかしがらみでもあるんでしょうか……?
いずれにしても、
まだ御覧になっていない方は、結構面白いので見てみては如何でしょうか?
※ オンデマンドでの配信もあるそうです
閑話休題。
万年筆を採り上げるのはこれが2回目。
基礎的な話を多くするつもりで書いたのですが、結構マニアックになってしまいました。
ごめんなさい。
しかし、万年筆は知れば知るほど、高級靴の立ち位置/扱いとよく似ているのに驚きます。
手軽で扱いやすいボールペンと、美しく書きやすくメンテのし甲斐がある万年筆。
手軽で扱いやすい安いビジネスシューズと、美しく履きやすくメンテのし甲斐がある高級靴。
こうして考えると、高級靴が好きな層と、万年筆が好きな層はある程度共通しているかもしれません。
これからも折を見て、万年筆について触れていきたいと思います。
皆さんも万年筆を使ってみませんか?