先日、久しぶりに百貨店のカバン売り場を訪れたのですが、ビジネスバッグのコーナーに数多くのリュックサックが並べられていました。
店員いわく、通勤スタイルのカジュアル化などでスーツにリュックサックを合わせる人が多くなったから、とのこと。
なるほど、かつて「スーツ×リュック」はファッション指南書や新入社員向けのマナーブックなどで散々叩かれていましたが、その是非についてもう一度考えてみた方が良さそうです。
ということで、本日はスーツやジャケパンにリュックサックはアリか、取り入れるなら何に気をつけ、どんなものなら似合うか等を考えます。
1.あり? なし?
今回は最初から結論に入りたいと思います。
ただし、ファッションは、一定のルール(他人に不快感を与えない等)さえ守れば自由ですので、こんな考えもあるんだなぁ、程度にお読みください。
全否定されるべきではない
私は、スリーピーススーツ(三つ揃い)を始め、クラシカルなスーツスタイルが好きで、ファッションに関してはかなり保守的な方だと思います。
しかし、スーツにリュックサックを合わせることは全否定されるべきではないと考えています。
理由は次の3つです。
- 利便性との兼ね合い
- スーツに合うリュックサックもある
- 出自に立ち返ると……アリ?
それぞれ解説します。
利便性との兼ね合い
「サラリーマン」のファッションにフォーカスすると、格好も重要ですが利便性も大事です。
例えば、最近増えつつある自転車通勤をする場合、リュックサックが良い選択になります。
なぜなら、自転車にカゴがない、あってもカバンが入らない、入っても振動で鞄にキズがつきやすい(特に革鞄は悲惨です。)など、相性が最悪だからです。
また、「仕事で荷物が多いが両手を塞ぎたくない」、「階段や未舗装道路が多くキャリーケースが使えない」、と言った場合も有力な選択肢になります。
スーツに合うリュックサックもある
具体例は後半で述べますが、かつてカジュアルなリュックサックが多かった中、近頃はスーツスタイルに合わせやすいものが多く出て選択肢が広がっています。
つまり、「利便性との兼ね合いで仕方なくリュックサックを身に付ける」から、「ファッションの一部としてリュックサックを身に付ける」という段階も見えてきたわけです。
もちろん、それでもまだまだリュックサックはスーツスタイルにおける異端――とまでは言いませんが王道ではありませんし、反対する方も多いと思います。
しかし、売り場を見る限り、「なるほど、合うな」と思う製品が多くなったのも確かです。
出自に立ち返ると……アリ?
スーツの起源が軍服にあると考えると、軍服の一装備としてリュック(背嚢;はいのう、と書いた方が雰囲気が出ますね。)の存在は否定できません。
スーツのベルトは弾帯(銃弾や弾倉を装着する。)や剣吊り(軍刀やサーベルを装着する。)が元祖といわれますし、外羽根の革靴は軍靴が起源など、スーツスタイルと軍服は密接に関係しています。
そして、現代の軍装ではリュックは実用品(作戦行動中の装備)がほとんどですが、かつてはパレードにも使われる――つまり、国民に見せる格好良い装備としてのリュックサックもあり、元々実用品一本槍だったわけではありません。(チリ軍では現役で使われていますね。)
△ チリ共和国国防省のサイトより。(拡大部は当サイトで加工したもの。)
必要があり、スーツに合ったものであればOKでは?
ということで、必要性があり、かつスーツに合うものであれば、サラリーマンのスーツスタイルにおいてリュックサックを合わせても問題無いのではないかと考えます。
ただし、いくつかの注意点があります。これについては次の項目でご紹介します。
2.考慮すべきこと
スーツが傷みやすい
リュックサックには、スーツが傷むというデメリットが複数あります。これらのデメリットを踏まえて、使用の是非を考えたり、リュックを選んだりする必要があります。
具体的には次の通りです。
肩が傷む
ジャケットの命である肩には、形を維持する為の副資材(肩パットなど)が使われていますが、重いリュックサックを背負い続けると当然傷みます。(とはいえ、肩掛け鞄よりはマシです。)
生地が擦れる(傷む)
革の肩掛けベルト、通気性向上のための網目部分、滑り止めのためのゴムパッドなどが、摩擦でリュックサックを背負ったりおろしたり、また歩く際の振動などで、生地と擦れて傷みます。
スーツに色移りする
革や布のリュックサックの場合、スーツの生地と擦れることによって色が移ることがあります。特に、雨や汗で濡れた際に危険です。
似合うリュックは限られる
スーツに似合うリュックが多くなったとはいえ、多くのリュックはいまだカジュアル要素が強く、スーツにあわせるとちぐはぐになるケースが多いのも確かです。
この点については、次の項目で詳述したいと思います。
やはり「ベスト」ではない
「スーツスタイル」を考えたとき、リュックサックは許容されますが、やはりベストではないと思います。
つまり、ファッションとしてマイナス要素にはなりやすいが、プラス要素にはなりづらいということです。(カントリー調のスーツに、クラシカルな革のリュックと自転車など、プラスに働くことはありますが、全体的に見るとそう多くはないでしょう。)
あくまで、スーツスタイルにおける物入れの正統派は鞄であることを意識しつつ、代替手段としてのリュックサックを意識すべきだと思います。
3.どんなリュックサックがスーツに合うか
どんなリュックサックがスーツに合うか、初めて取り入れる方向けに考えてみます。
ナイロン、ナイロン+レザーのプレーンなもの
店頭でみて、街中で使っている人を見かけて、そして実際に使ってみてスーツに合うと思ったのが、なめらかなナイロン製で、凹凸のないデザインのもの。
具体的には、サムソナイト/Hartmannの「ウィリック」やペッレモルビダの「HYD011バックパック」など、少し大人しめの製品です。
△ サムソナイト/Hartmannの「ウィリック」(出典:公式サイトより)
△ ペッレモルビダの「HYD011バックパック」(出典:公式サイトより)
理由は以下の3点です。
- カジュアルな雰囲気をできるだけ消している
- 表面が滑らかで、リュックサック自体も軽いため、スーツを傷めにくい
- 落ち着いた紺色を選べるため、コーディネートし易い
クラシカルなレザーのもの
一方で、オールレザーのノスタルジックな製品もオススメです。
具体的には、ヘルツの「ビートルリュック」や「ガロンリュック」、万双の「双鞣和地バックパック」など、いかにも革らしい製品。
△ ヘルツの「ビートルリュック」(左)、「ガロンリュック」(右)(出典:公式サイトより)
△ 万双の「双鞣和地バックパック」(出典:公式サイトより)
理由は以下の2点です。
- 「あえてリュックサックを使っている」という雰囲気を出すことで、ファッション性を上げる
- 靴やベルトなど革製品との相性も良い。
ただし、こちらは少し上級者向けの選択ではあります。理由は以下の通りです。
- スーツへのダメージはナイロンより上(重量があり、色移りし易い)
- 見かけや重量の割には容量が少ない
- 雨に弱い
なお、色は黒や紺などの地味な色でも良いですが、あえて茶色や薄茶色を選ぶことで、さらにクラシカルな雰囲気を出す事が出来るでしょう。
4.おわりに
ファッションの指南書や、いわゆるマナーブックに書かれる「スーツにリュックはNG」は、必ずしもそうとは限らないと思います。
もちろん、リュックサックがベストな選択肢というわけではないでしょう。
しかし、コンセプトやコーディネートをしっかり考える事で、利便性とファッション性を両立した、スーツスタイル×リックサックの組み合わせが手に入ると思います。
みなさんはスーツスタイルにリュックサックはありだと思いますか?
ありと思う方、なしだと思う方、また、オススメのリュックサックがありましたら、ぜひコメントをお寄せください。
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すっかり更新をサボっていて申し訳ありません。
在宅勤務で通勤(=スーツ着用の機会)が激減した上に、異動に伴う業務繁忙でまったく手につかず……(^^;
しかし、コメントや質問箱からいくつも励ましや生存を確認するメッセージを戴きまして、ずいぶんと励みになりました。
今回は戴いたメッセージのなかから、リクエストが多かったリュックサックについて扱ってみました。
年度末までは、在宅勤務も繁忙も継続しそうですが、最低月1回は記事を書いていきたいと思います。(Facebookページで「いいね!」をしていただけると、更新通知が届きますので、ぜひご活用下さい。)