昨年末に、別々の方から2つのメッセージを戴きました(有り難う御座います)ので、
スーツに合わせるオーバーコートについて考えてみます。
――投稿者:ミツ さん
はじめまして。
このサイトを参考にながしおハンガーの木製を早速15本購入させていただきました。
つきましては、次の話題を取り扱われたら参考にしたいと考えますので宜しくお願い申し上げます。コート
時計――投稿者:pikopoko さん
いつも楽しくブログを拝見しています。
私の質問は、スーツに合わせるコートは何が最適ですか、です。
ビジネスに相応しいコートの種類、ブランド、色、ディティールなど、記事で取り上げて頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
コートの種類については、様々な本や雑誌、
ウェブサイトで語り尽くされた感がありますので、興味のある方はそちらを御覧戴くとして、
根源的な観点から、どんな種類のコートにも共通するコートの選び方を考えてみようと思います。
※ 本稿では外套、オーバーコートのことを略して「コート」と記載します。
A. コートは着丈、素材、色で選ぶ
今回は、コート選び、コート作りに際して、
私が基準にしている3つの観点をご紹介します。
それは、着丈、素材、色の観点で選ぶことです。
この3点は、コートの印象を大きく変える重要なものにもかかわらず、
無視または割愛されている事が多いので驚きます。
それでは、一つずつ見ていきましょう。
※ 最後に「まとめ」がありますので、時間がない方はそちらを御覧下さい。
1.コートを着丈で選ぶ
目的によって着丈を変える
コート選びもサイズ感は大事なのですが、中でも一番気をつけたいのが着丈です。
着丈とは、簡単に言うと裾(すそ)の長さのことで、
一般的には短いと軽快感が増し、長いと重厚感が増します。
そのコートをどの様な用途で使うのか、それによって着丈をかえるわけです。
たとえば、週末のスポーティなジャケパンにあわせるのなら短め、
冠婚葬祭用にも使うならば長めに、といった具合です。
流行でも左右される着丈
コートの着丈は、流行によって上下することでも有名です。
たとえば20年前を見ると、殆どが膝丈かそれより長いコートが主流でした。
しかし、今の特に吊しのコートを見ると、殆どが膝上かそれ以上です。
一方で、(後述しますが)コートは素材感が全面に押し出される衣服ですから、
特にテーラードのコートは多少長めの方が格好が良い物です。
今はかなりの短丈が主流ですが、コートを作る場合は、多少長めをお薦めします。
最近では、超短丈コートの裾からジャケットが見えている人を見かけますが、
注意したいのは、コートは幾ら短くてもジャケットよりは長くすると言う点です。
まるでコートの上からジャケットを着ているように見え、不格好です。
コートの種類によって合う着丈がある
種類によっても、似合う/許容されるコートの長短がありますので注意します。
たとえば、ピーコートは着丈を長くするとアルスターコートになってしまいますし、
短いチェエスターフィールドコートは威厳に欠け、あまり格好の良い物ではありません。
このあたりは、テーラーと相談の上決めると良いと思います。
2.コートを素材で選ぶ
一番目立つのは素材と色
コートは着丈と袖が長く、胸元と膝下以外、
着ている物全てがコートに覆われ(コートされ)ます。
従って、その広い面積を印象づける素材が非常に重要になるわけです。
色については後述しますが、素材一つでガラッと印象が変わります。
基本は綿、ウール、カシミア
コートにはどの様な素材があるかというと、
基本は綿、ウール、カシミアと、その周辺素材(人造素材、類似素材)です。
綿
コートとしては比較的薄手で、
レインコートやウインドブレーカー用途として、防雨防風が主眼です。
トレンチコートやバルマカーンコートは、綿素材で作ることが多いコートの一つです。
綿と言ってもギャバジンの様な丈夫なものが使われ、
綿の代わりにナイロンなどの化繊を使ったり、ゴアテックスのように、
層状にして機能性を高めたりすることがあります。(他にもゴム引きのマッキントシュが有名)
基本的に若干カジュアル寄りの、ちょっとヨレっとした、
しかし男性ぽい印象を与えることが出来ます。
代替素材(化繊)を含めると、吊しのコートで一番多い素材なのではないでしょうか。
※ なお、層状の素材は基本的にビスポーク(オーダー)出来ないので注意。
ウール
コートのまさに基本中の基本と言っても差し支えない素材でしょう。
化繊の機能性素材に比べると、防雨、防寒、防風性の何れも劣りますが、
価格、見た目、種類、防寒防雨防風性能のバランスが非常に良い素材です。
厚手の素材を使うと、重いですが、非常に丈夫で長持ちします。
コートは擦れたり、また意外と大きな力がかかるため、
通勤を含む、ハードユースを想定する場合は、ウール素材がお薦めです。
ジャケットの素材同様、様々な織りがありますから、
自分の望む素材を選ぶことが出来るのもメリットの一つ。
スプリングコートなどは、ジャケット素材を使って仕立てても面白いと思います。
織りや重さ(厚み)に気をつければ、
どの様な種類のコートの素材としても使うことが出来ますから、
こちらもテーラーと相談しながら決めると良いと思います。
カシミア
基本的にウールと用途は似ているのですが、
違う点を挙げると以下の通りです。
利点
- ウールより軽い
- ウールより暖かい
- ウールより光沢(高級感)に優れる
欠点
- ウールより高価
- ウールより弱い(特に摩擦)
- ウールより生地の種類が少ない
従って、着丈が長く、高級感を求めるチェスターフィールドコートなどにおすすめ。
カシミア100%の場合は、耐久性が弱いため、
コートを着たまま座ったり、満員電車にもまれることは避けた方が良いでしょう。
一方で、それらの欠点を補って余りある利点があることも事実。
カシミアは軽く生地の高級感が高いため、着丈を長くすることでその良さが最大化されます。
※ カシミアの他に、キャメル、ビキューナなどの獣毛も似たような性質があります
3.コートを色で選ぶ
街中のサラリーマンを見ていて思うのが、コートの色が貧弱なことです。
本当なら、「コートは着丈と素材で選ぶ」で良かったのですが、
色を項目として独立させたのはここに理由があります。
黒のコートばかりを卒業する
今回の質問をもらってから、通勤の最中、サラリーマンを観察してみました。
そして、その「黒のナイロンコート」率の多いこと。
意識して見ると、かなり驚きます。(東京だけ?)
バルマカーンタイプ、トレンチタイプと種類、ディテールは千差万別なのですが、
色は一様に黒ばかり……。特に若いサラリーマンに顕著です。
勿論、汚れが目立ちにくいのは分かるのですが、もう少し色や柄を使っても良いと思います。
たとえば紺色。前を開けて着る際も、ジャケットとあわせやすい色です。
そのほかにも、濃い緑色、茶色などのアースカラーもお薦めです。
柄で言うと、ハウンドトゥースやバーズアイなどの模様物が着回しの際に楽です。
まとめ
長くなりましたのでまとめを。
- 着丈で印象が大きく変わる
- 今は短丈のコートが主流だが、必ずジャケット丈より長い物を選ぶ
- コートの種類によって適切な着丈が異なることがある
- 露出面積が広いため、素材と色が重要
- 基本的な素材は綿(ナイロン)、ウール(ポリエステル)、カシミア(その他獣毛)
- 綿は往々にしてカジュアル向き
- ウールはバランスが良い素材だが、重いのが欠点
- スプリングコートならウールのジャケット素材をつかうこともお薦め
- カシミアは弱いが、軽く美しいため、着丈を長くして重厚感を出しやすい
- 紺や濃い緑、茶色など、黒以外の色にも目を向けるべき
今(投稿月の1月)から冬物のコートを調達……というのうは時機を逸した気がしますが、
ジャケット生地でスプリングコートを、というのもお薦めです。
コートの件ありがとうごさいます。
実はすでに購入してしまいたが、非常に参考になりました。
購入したコートの特徴は次になります。
チェスター
膝上丈
ライトグレー
毛がメインでカシミア、アンゴラ
柄は千鳥格子とバーズアイの中間系
やはり黒ではつまらなかったので。
これからも参考にさせていただき、実践していきたいとおもいます。
時計はパーティーなどでは皮ベルトがマナーみたいです。
>ミツ さん
コメントをいただき、有り難う御座いました。
もう少し早く記事が書ければ良かったのですが、申し訳なかったです。
ライトグレーで千鳥格子とバーズアイの中間系とは……
かなり良いところをお選びになりましたね^^;
私としても、かなりお薦めの柄です。
また、カシミアとアンゴラの混紡とのこと、
カシミアはすこし混紡されているだけで、
見た目と保温性が全然違うんですよね……。
時計について、金属ベルトは一般的にカジュアル寄りとされていますね。
「ブレスレットに時計がついたもの」という考え方もあります。
まぁ、本当のところは懐中時計なのでしょうけどね……