スーツの生地

スーツの生地は国産と海外、どちらを選ぶ?

投稿日:平成30年(2018) 3月4日  更新日:平成30年(2018) 12月18日 

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先日、スーツを初めてイージーオーダーする予定という方から、国産と海外製(舶来)の生地、どちらを選べば良いか迷っている、という質問がありました。

メーカーはもちろん、生地一つ一つでも個性が違うため、あまり型にはめて見ない方が良いのですが、とはいえ国産/舶来で緩やかな傾向があるのも事実ですので、この機会に考えてみようと思います。

また最近は、安価な量販店で売られているスーツも、海外ブランドの生地を使っている事をアピールするケースが多くなった様に思います。

スーツはオーダーしないという方も、国産生地と海外生地でどの様な違いがあるのか、考えてみると新たな発見があって面白いかも知れません。

※ おことわり:本記事は複数のテーラーに話を聞いたり、文献を調べたり、個人的な経験をまとめたものです。従って内容についての保証は一切ありませんので、その前提でご覧下さい。

1.前提:「海外生地」とひとくくりにすることは難しい

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日本のオーダースーツ屋のメニュー表を見ていると、大まかに「国産生地」「舶来生地」などと分けられていることが多いです。

国によっても当然異なる

しかし、例えば「外車(外国産の乗用車)」の中でもドイツ車とイタリア車で、その性質や期待される体験が大きく異なる事と同様、ひとえに舶来生地と言っても、その性格が大きく異なります。

例えば、イギリス系の生地とイタリア系の生地では、主流となる生地の傾向が異なります。

誤解を恐れずに書くと、イギリス系は重くザックリとしたしっかり系の生地が好まれ、イタリア系は薄くなめらかなつやつや系の生地が好まれます。

最近は結構オーバーラップしてきた?

とはいえ、最近はイギリス系でも軽い生地が多くなってきましたし、イタリア系でもしっかりとした生地が出てきているので、例外は幾らでもあります。

そして、自社生産していない商社系(マーチャント)の会社の場合、各国の膨大な種類の生地を扱うため、当然国別の傾向に合わないパターンも多々あります。

 

一方で、「国産も舶来もメーカー毎に特徴が違うから、膨大な候補からゼロベースで(枠組みにとらわれず)選んでね^^」では、記事がここで終わってしまう初めての方は生地が選びづらいでしょうし、質問の回答としても不親切ですし、いずれにせよ何らかの傾向はあるはずなので、今回はあえて話を進めていこうと思います。

 

2.価格は国産が安い → なぜ?

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まず目につくのは、国産生地と舶来生地の価格差でしょう。

生地の世界では生鮮食品と違い、圧倒的に舶来生地の方が高値です。

と、ここまでならテーラーに行かずとも、テーラーのWEBサイト等を見れば分かることですが、その価格差は妥当なのか、価格差の理由は何かを考えてみます。

送料、通関、中間業者、そして生産量

舶来生地は当然、海外からの単純な送料に加え通関コストもかかるため、割高になります。また、挟む中間業者の数も多くなるため、手数料も多めにとられます。

そしてもう一つの価格差要因が、生地の生産スタイルの違いだと言われています。

国内メーカーの場合は、少ない種類を大量に生産することで、単位あたりのコストを下げる事が出来ています。

一方で、海外メーカーは1シーズンに多数の新デザインを投入/入れ替えを行うこともあって、多品種少量生産が多いため、輸入にかかるコストを差し引いても割高になるケースが多いようです。

ただし、最近は国内メーカーも高騰中?

とはいえ、先日こんなニュースもありました。

「学校の制服、値上がりの陰に中国の羊毛ブーム」

イタリアの高級ブランド「アルマーニ」が監修した標準服の採用で東京・銀座の泰明小学校が話題となっている。同校の標準服は最大で8万円超と高価だが、制服を巡っては昨年11月に公正取引委員会が学校に対して価格を抑える工夫をするように提言をした。実際に制服の価格はこの数年で値上がりしている。背景には中国の羊毛ブームや多品種・少量生産の加速によるコストの増加がある。(後略)

H30.3.1 日経電子版より

同記事によると、平成19年までは3万円弱だった制服が、28年までの約9年間で5,000円(約2割)ほど値上がりしたそう。

理由は、チャイナの羊毛ブームによる世界的な原毛不足に加え、制服デザインの多様化に伴う生地の小ロット製造(=少量多品種化)が進んだから、とのこと。

制服の生地がスーツにどのくらい転用されているか不明なものの、近年は需要の多様化が一つの流れということもあって、スーツ生地に関しても多品種化は進むかも知れませんね。国産生地は(デザインさえ自分に合う物があれば)素晴らしいコストパフォーマンスなだけに、それが損なわれないか、今後の動向が気になるところです……。

 

3.デザインは舶来が多様?

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前項と少し被るところがありますが、大事な点なので切り出しました。

舶来は「売れ線」以外も、多数のデザインを形にする

国産生地が安い理由の一つに、少品種大量生産があると述べましたが、言い方を変えると「売れ線」以外の珍しい生地が少ない、ということです。

一方で舶来生地はデザインに力を入れているケースが多く、毎シーズン大量の新デザインが提案されます。

実体験としても、新しいデザインや他人と被らないデザインが必要な場合は、舶来生地のほうが有利だと感じることが多いです。

この点は、(人にもよりますが)舶来生地の一番実感しやすい実利的メリットではないでしょうか。

売れ残りはどこへ?

当然、少量多品種生産をすると、小ロットの売れ残りが多く発生します。

それらは、倉庫代や価格維持などの兼ね合いで、日の目を見ずに廃棄してしまうこともあるようです。ただ、ブランドによっては、並行輸入で安く仕入れることが出来るものもあるそうです(ブランドタグがつかなかったり、専用タグになったりする場合もあるそうですが)。

まぁ、これが横行すると、正規価格で買うのが馬鹿らしくなっちゃいますけどね……。

 

4.耐久性は国産が優れる?

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よく「舶来生地は耐久性が低い」と言われますが、どうなんでしょうか。

製品検査と品質へのこだわり

やはり、総じて国内メーカーの方が、品質管理は(特に耐久性について)しっかりしているようです。

とはいえ当然、原毛の種類や織り方によって生地の強度は異なります。つまり「常識に照らして極端に弱い生地が無い」という事でしょう。

よほど薄い生地で無ければ……

一方、舶来生地はどうでしょうか。

イタリア系スーツスタイルの流行が全盛だった頃(7~8年くらい前まで?)は、極端に薄い糸や、軽い生地(=目の粗い、弱い生地)がもてはやされました。

しかし、最近はその揺り戻しもあってか、カッチリとしたスタイルが好まれるようになってきました。そのため、舶来と言っても、よほど特殊な生地で無ければ、極端に弱いものは少なくなっているように思います(逆に言うと、少し前の在庫生地には注意が必要かも知れませんね)。

といっても、「海外メーカーにとっては意図的なものであって、あえて強度よりもデザインや質感を優先している」というのは、複数のテーラーから聞こえた声です。

 

5.まとめ

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長くなったのでまとめます。個人的にはどっちでも良い派(後述)なので、強いて言えば、と言う事になりますが……

こんな人に国産生地がオススメ

  • ベーシックな色柄が欲しい
  • コストパフォーマンス重視
  • 丈夫かつ品質面での不安要素は無くしたい
  • 万年筆は舶来よりもセーラーやパイロットだ
  • GSといえばガソリンスタンドやゴールドマンサックスではなくグランドセイコーだ

こんな人に舶来生地がオススメ

  • 他人と被りたくない
  • 生地の色やデザインにはこだわりたい
  • 100年以上続くミル/マーチャントの物語に包まれたい
  • 万年筆は国産よりもモンブランやペリカンだ
  • グランドセイコーの品質は認めるが、デザインが気にくわない

サラリーマン向けとして、国産生地は優秀

冒頭の質問に、敢えてどちらかを答えるとしたら、「ビジネス用途かつ初めてのオーダーであれば、とりあえず国産は良い選択肢」という回答です。

繰り返しになりますが、国産生地は、コスパに優れ、品質が安定していて、ベーシックな色柄が揃っています。

そのため、ビジネス用途としては国産生地はとても優秀、というふうに思います。単に「安い生地」という評価になりがちですが、見直されるべき点はあると考えます。

もし、「高価→品質高そう→舶来生地へ」という選び方をしそうになっている場合は、一度国内生地も手に取ってみるのも良いでしょう。

 

(おまけ)私の選び方

冒頭の質問に、私の生地選びの方法についても教えて欲しい、という記載もあったので、参考までに。

基本は生地メーカーや国籍では選んでいません

今のことろ、生地の国産/舶来にこだわりは無く、さらにメーカー名を指定して生地を選ぶことも、一部の例外を除いて殆ど無いです。

具体的な選び方は、テーラーに、予め欲しい生地の大まかな情報(種類、色、季節、予算、主な使用目的)を伝え、候補を選んでおいて貰い、当日1つに絞るという方法です。そのため、結果として最後に残るのは国内生地と舶来生地が今のところ半々といった感じです。

もちろん、生地やブランドには「物語」があり、それは着る楽しみにも繋がることは理解しています。とはいえ、物語ありきでは無く、出会った生地の物語を楽しむようにしています。

一部の例外……FOXのフランネル、ウイリアムハルステッドや葛利毛織の三杢/四杢モヘア混生地くらい?

 

自分はこういう選び方をしている、というご意見のある方、是非コメントをお寄せ下さい!

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