先日オンラインオーダーシャツ屋のFirst Experienceで、あるシャツ生地をリピートで注文してしまいました。
それが今回のタイトルにもなっている「精紡交撚生地」のシャツです。というのも、超高番手の単糸生地並の軟らさと艶があるのに、120番双糸でしかも安いという不思議な生地だったからです。
本日はそんな精紡交撚生地の魅力について、製造元にぶつけた質問と実際に納品されたシャツのレビューを中心として、どんな用途に使えそうか、どんな人に向いているか等々、皆さんと一緒に考えてみようと思います。
1.精紡交撚生地とは
この生地を使ったシャツを販売しているFirst Experienceに質問をしつつ、特徴を下記の通りまとめてみました。
名前
まずこの名前の読み方から。そのまま「せいぼうこうねんきじ」というそうです。
最新の技術で作られているそうで、ネットでも検索してみましたが、ほとんど情報が出てきませんでした。生地メーカーでは、「ニューツイスト」とも呼ぶようです。
当初、サイロンスパンに近い物かと思ったのですが、どうも違うようです。この辺り、繊維に詳しい方のコメントがありましたら、お寄せ下さい^^;
特徴1:双糸の強度に、単糸の見栄えと肌触り
もっとも特徴的なのは、美しい艶と、やわらかい肌触りでしょう。これを、双糸の生地で実現している点が驚きです。
カタログスペック上は120番手双糸のブロード生地ですが、外観や肌触りは同じ番手の単糸生地くらいに感じます。
そして、高番手の単糸生地は耐久性が悪く、ビジネス用途には不向きですが、こちらは双糸なので問題は無いようです。
参考:単糸と双糸
単糸を2本撚って作られた糸が双糸です。
単糸は糸が細く軟らかいため、生地に美しいドレープや、やわらかい肌触りが実現出来ますが、一方で耐久性が弱いのが欠点です。イタリア系の生地に多いです。
双糸は生地が丈夫になるものの、柔らかさよりコシが強調され、また細い(高価な)糸を使わないと光沢が出にくくなります。イギリス系の生地に多いです。
双糸100番手が、単糸50番手の強度に相当します。そのため、200番手や300番手と呼ばれる超細番手の生地は、単糸を3本、または4本撚って作られていることが多いです。
特徴2:安価
120番手双糸が仕立代込みで定価9,800円というのだけでも割安ですが、見た目や肌触りはそれ以上ですから驚異的です。
生地ブランドにこだわらなければ、とても買い得だと思います。
ただし、生地の種類が少なく、色柄もベーシックなものに限られており、拡充の予定も今のところ無いそうです。そのため、凝った生地デザインが欲しいという場合には不向き、という欠点はあります。
続いて、写真を交えながら、詳しく見ていきます。
2.外観
これが精紡交撚生地です。 ライティングが下手で申し訳ないのですが、生地に独特のヌメりがあるのが分かります。
別の角度から。(色温度がめちゃくちゃですみません。。。)
タイドアップすると、襟は比較的マットな感じに仕上がります。しかし、腕など、自由に動く部分については、かなり強い光沢が生まれます。
こちらは前回作った時の、水色の生地です。うっすらと繊維の筋か見えます。
140番手双糸との比較
写真は、伝統的な140番双糸(メーカーはTESTA、織りは同じブロード)を使ったシャツの生地で、価格は同店の定価ベースで倍くらいします。
このレベルの生地と比較しても、光沢感は精紡交撚の方が上です。(やはり比較すべきは単糸のヌメッとした生地なのでしょうが、生憎適当なシャツが手元に無く……。)
もちろん、精紡交撚生地が全て優っているわけではありません。こちらの生地にある、シャリ感やマットで上品な光沢は、精紡交撚生地とは別ベクトルの、正統派な良さがあるように思います。精紡交撚生地がサシたっぷりの美味しい肉だとすると、こちらはうまみが詰まった、上品な高級赤身肉といったところでしょうか。
3.着心地
とにかく軟らかい
双糸であるにもかかわらず、単糸の風合いが楽しめます。 特に、軟らかい生地が好きという方にはオススメです。
逆に、ハリやシャリ感は少なめです。トーマスメイソンや、鎌倉シャツの4ply高番手生地のシャツとは対照的な肌触りです。
若干厚手
一般的な高番手生地に比べると、若干厚手に感じます。前項に単糸の風合いと書きましたが、単糸の生地に多いペラペラ感は全く有りません。
水分はよく吸いますし、通気性もある程度あるものの、厚手かつ強い光沢感を考えると、涼しい季節に合いそうです。
4.盛装用にオススメ
一方で、このような高級感がある生地は、普段のビジネス用途にピッタリかというと、100%は当てはまらないでしょう。
年齢にもよりますが、スーツの生地も同様に、光沢の強い派手な雰囲気が適さない業種/職種/シーンもあることと思います。
そんな方には、パーティや披露宴などの盛装用としてオススメできます。
私も、リピートした際には、盛装用を想定してダブルカフにしてみました。
スーツは必ずしも強い光沢は必要ありませんが、ネクタイの素材をシャツの光沢感に合わせると、コーディネートが上手くいくと思います。
5.買いかどうか
ここまでご覧頂ければ分かるかと思いますが、個人的にはとても「買い」な生地だと思います。
こんな人にお勧め
まとめると、以下に当てはまる方にオススメです。
- 光沢感のある生地か欲しい
- 柔らかい手触りの生地が欲しい
- 耐久性は犠牲にしたくない
- コスパ重視
- 夏用ではない
年内にセールがありそう
定価ベースでも安い生地ですが、直近で特売があるか確認したところ、12月中に精紡交撚生地を含むセールを実施するそうです。
興味のある方は、とりあえず同店のメルマガに登録しておくのも手です。
http://www.firstexperience.jp/support/regist_mail.html
(おまけ)First Experienceへの質問と回答
最後に、疑問に思ったことを店側にぶつけてみましたので、皆さんに共有したいと思います(回答文のコピペは許諾済)。
若干技術的な話も入ってきますが、興味のある方はご覧下さい。
Q1. そもそも「精紡交撚生地」って何者? 単糸なの ?双糸なの?
スーピマ綿(超長綿)の糸をケバの少なくなる特殊加工のコンパクトヤーンにしたものに最新紡績技術でツイスト(撚り)をかけていますので当店の精紡交撚糸は双糸となります。
当店では精紡交撚と呼んでいますが、メーカーはニューツイストと呼んでいます。
Q2. 毛羽立ちなど、強度に問題はない?
通常の高級な素材は、ケバを減らすためにガス焼きをしますが、精紡交撚糸はケバを内側に入れる特殊な織り方をし、ガス焼きよりもケバを減らしながら、糸の太さも均一に維持する(ガス焼きすると糸が細くなる)先端紡績の技術です。
このために、強度もありながらケバは少ない素材となります。なお、当店の精紡交撚は(好みの問題となりますが)かなりやわらかな風合いとなり、少しハリ感は少ないかと思われます。
Q3. 他店では余り見かけないのはなぜ?
流通量が少ないのは、生地の価格面での問題が大きいと思われます。当店では、直接契約をしておりますのでかなり安価にご提供しておりますが、通常であればトーマスメイソンクラス以上の価格となりますので、ブランド力で選択から外れるのではないかと思われます。
また、このようなことから需要が少ないので、生産量も少なくなっていると思われます。
Q4. よく売れている?
評判はかなり良いと思われます。精紡交撚だけをリピートするお客様が多くおられます。
Q5. 色柄の展開を増やす予定は?
現状では色柄などの展開は現状ございません。
リンク
- First Experience(精紡交撚生地で検索した画面)
※ それにしても繊維や記事の話って難しいですね……。 本記事は、本やWEBでの調査に加え、実際に業者に取材しつつ書いていますが、著者はアパレルや繊維産業とは別業界に生息している、一介のファッション好きサラリーマンです。もし事実誤認等が有りましたら、お気軽にコメント欄からご連絡いただけると幸いです。