靴の購入

REGAL TOKYO「工房九分仕立て」体験記(前編)

投稿日:平成29年(2017) 11月26日  更新日:平成29年(2017) 12月3日 

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これまで何度かビスポークスーツ(オーダースーツ)を話題にしてきましたが、今回は靴のビスポークについてとりあげます。

先日、REGAL TOKYOでオーダーした靴が納品されました。パターンオーダーのハンドソーン九分仕立てにしたものの(理由は後述)、ビスポーク靴に向き合う良い機会になりました。

ビスポーク靴の良さ、課題、そしてそもそも靴のビスポークに意味はあるのか等々、REGAL TOKYOのレビューをしつつ、全2回で皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

1.「ビスポークスーツ」の次は「ビスポークシューズ」?

スーツのデザインとフィッティングを両立出来る、腕の立つテーラーを見つけるのは大変です。

しかし、一度自分にぴったり合う仕立服に出会うと、吊し(既製服)に袖を通すのが億劫になるほど、その違いは歴然としています。

と言うことは、靴でも同じことが言えるのでは? という思いがあり、以前から靴のビスポークにも挑戦したいと考えていました。

個人か、企業か

問題はどこで依頼をするか、と言う事でした。この点だけで数年計画が止まっていたほどです^^;

そんな中、知人の勧めもあって、まずはREGAL TOKYOに足を運んでみました。

「最良は個人店。しかし、店主との相性を合わせるのは難易度が高い。無難なのは、最良ではないものの合格点を出しやすい組織化された企業の店舗」という、自身のオーダースーツの経験にも基づきます。

あと、個人店だと、皆さんに出来上がりを紹介しにくい(インターネットで店を紹介しにくい)というのもあります^^;

 

2.REGAL TOKYOへ

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REGAL(リーガル)は、ご存じ日本最大の本格靴メーカーです。当サイトでも、REGALの上級ブランドである、シェットランドフォックスを何度かご紹介しました。

そんな(主に普及価格帯の)革靴を大量に生産しているイメージがあるREGALに、実はビスポークサロンがあります。それがREGAL TOKYOで、名前の通り東京(銀座)に店を構えています。

予約する

当初は、一から(木型から)作り上げることを想定していたこともあり、電話で事前にその旨を伝え、訪問を予約しました。

靴職人は普段工房に居り、店に常駐しているわけではないそうなので、予約がおすすめです。

銀座一丁目からすぐ

場所は地下鉄有楽町線の銀座一丁目駅から徒歩で数分です。

きれいで清潔感のある建物の2階にあります。靴、革、ディテールなどのサンプルが並んでおり、オーダー時にイメージし易くなっています。

サロン内には大きなソファがあり、そこで職人と店舗店員の2人から、ビスポークシューズについての説明を受けました。

 

3.ビスポークにするか、九分仕立てにするか

REGAL TOKYOには、3種類のラインナップがあります。

  • ビスポーク:いわゆるフルオーダー。木型から製作、ハンドソーン、27万円~
  • 工房九分仕立て:木型は既製(革のせ修正可)、ハンドソーン(九分)、11万円~
  • ビルトトゥオーダー:木型は既製、グッドイヤー、5万円~

当初はビスポーク(以下、フルオーダー)を希望していました。しかし、実際に職人と会話をする中で、2つめの工房九分仕立てで良いのでは? と思うようになりました。

スーツと靴、オーダーの比較

何故そう思ったのかということですが、その前にスーツと靴におけるオーダーを簡単に比較し、共通点を見てみます。

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この表を見た限りでは、スーツと靴のフルオーダーは、似た様な作り方に見えます。

しかし、職人との会話の中で、靴の仮縫いはスーツの仮縫いと違う方法を採ることや、布地と革の特性の異同、一般的な靴のパターンオーダーと九分仕立ての差異など、当初の想像とは異なる部分があることが分かってきました。

その結果、今回は工房九分仕立てを選ぶことにしました。

 

4.工房九分仕立てを選んだ理由

① 靴のフルオーダーで高いフィッティングを求めるのは難しい

一般的な男性用スーツは、仮縫で使った布をそのまま完成品に使用します。

そのため、着用者とテーラーが、仮縫いの中でお互いにフィッティングを確認することで、完成時の着心地やサイズ感の改善に繋がります。

しかし通常、靴のフィッティングは別に用意した革――REGAL TOKYOでは完成品と同一の革で、見た目に優れない部分――を仮縫いに使います(婦人用の高級注文服と同じですね)。

つまり、仮縫い用の靴と、本番用の靴の2足が作られるわけです。 そのため、服のように、感触を確かめながら完成品に持っていくということがとても難しい、とのことでした。

② 革は足になじむため、サイジングに余裕がある

今まで、靴も服と同じく、各部分を厳密にサイジングする必要があるのではないか、と思っていました。

しかし、職人に話を伺うと、どうしてもなじみにくい部分(全長、踵の食い込みなど)を除けば、個人で異なる足の形を、革の柔軟性をもって、かなりの部分がカバー出来ることが理解出来ました。

たしかに、服はストレッチ素材を除きあまり伸縮しませんが、革は履くうちに軟らかくなったり伸びたりし、足にフィットします。

また、九分仕立ての木型はかなり洗練されたラストで、革のなじみを考えると、よほど特殊な足で無い限りフィットできるとのことでした。

③ 九分仕立ては一般のパターンオーダーとは異なる

一般に言われる靴のパターンオーダーは、服のパターンオーダーと同様、サイズやオプションを選んで、機械縫製(グッドイヤーウエルテッド製法)で仕立てられます。

しかし、九分仕立ての場合は、足馴染みの良いハンドソーンで9割が手作業により製作されます。また、木型の微修正も可能です。

試しに九分仕立てのサンプル靴を試着してみましたが、足の包まれ方の心地よさに圧倒されました。

服にたとえると「型紙の微修正が可能な、ほぼ手縫いのパターンオーダー」というわけです。

検討ポイントは「値段分の適正なメリットがあるか」

私が「これまで、既製靴で足に違和感は無い」「奇抜なデザインは望んでいない」と申告したせいもあるでしょうが、職人から以下のように言われました。

「木型を作り、また十分仕立て(10割手作業)にするだけで、値段が2.5倍になります。値段が釣り合うかどうか、ですね……。」

営業面では、売り上げが大きくなるビスポークを推奨するべきだと思いますが(しかも客にはその気がある状況)、かなりのストレートな発言にビックリしました。

要するに、特殊な足の形状をしているか、特殊なデザインにしたい場合を除いて、ビスポークと九分仕立てではそこまで差がなく、コストメリットが出せない、というコメントが出てきたわけです。

このようなことを踏まえ、ビスポーク以外選択肢になかった私でしたが、急遽当日、九分仕立てに注文を変更しました。

それにしても、この商売っ気のなさは、説明の丁寧さと相まって、初回の訪問にもかかわらずかなりの信頼感につながりました。

高い売り上げ目標を持っているであろう店舗の販売員も、説明に同席していましたが、職人によるこの売り上げに貢献しない率直な物言いに苦笑いをしつつも、話を遮るようなことはせず、紳士的な対応に終始したのも好感が持てました。

 

5.九分仕立てオーダーの流れとポイント

詳しいオーダーの流れは、REGAL TOKYOのWEBサイトや直接店舗で確認いただくとして、簡単な流れと選び方のポイントをご紹介します。

① トゥのデザインを3タイプから選ぶ

記事執筆時点で、REGAL TOKYOの九分仕立には3種類のトゥタイプがあります。まずは、この中から1種類を選びます。

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△ 3種類のトゥタイプ。上からラウンド、スクエア、チゼル。(出典:REGAL TOKYO 公式サイト)

最初に登場したのがチゼルで、ラウンド、スクエアの順で拡充されたようです。

チゼルトゥはかなり個性的な面構えになるため、ビジネス用途でしたらラウンドかスクエアがよいと思います。 ちなみに私は、スクエアを選びました。

最初にチゼルというのが驚いたのですが、九分仕立てが登場したのが雑誌『LAST』の第1号が出た頃で、当時流行していたコルテのチゼルトゥにインスパイアされた、という話を聞き納得しました。

② 革を選ぶ

様々な色の革から、アッパーとライニングを選びます。

これは別の靴店から聞いた話ですが、日産数百足を誇る業界最大手のリーガルは、バイイングパワーも大きく、タンナーとの直接取引で比較的良質な革を多く仕入れられているとのことでした。

REGAL TOKYOで選べる革も、品質が良くコストパフォーマンスに優れている印象でした(次回のレビューで詳述予定)。

とはいえ、LVMHやエルメスが、国際的にその上を行く大量買い付けを行っているそうで、最上質の革はそれらの傘下ブランドでお買い求め下さい、状態のようですが……。

ビジネスシーンにおいて基本は黒ですが、茶やスエード、場合によっては青(自分で色を入れて紺にすると落ち着きます)も面白いと思います。

③ オプションを選ぶ

ヒールの素材や、革底の色、ウエルトの色等々、結構な数のオプションがあります。

また、2万円と若干高価ですが、シューツリーも買うことが出来ます。これは木型を元に削り出されたものだそうで、職人のオススメもあって購入しました(レビュー目的でもあります^^; こちらも次回、ご紹介します。)。

④ サイジング

スーツのパターンオーダーで言うゲージ服にあたる試着用の靴を履き、サイズを決めていきます。

普段履いている靴の前後1~2サイズくらいは履いておくと良いと思います。

また、靴を購入する際の常識でもありますが、普段革靴を履く時に使う靴下を、履いていくことが大事です。

 

6.前編をふりかえって

項番4で記述したとおり、今回は当初予定していたビスポークではなく、九分仕立てを選びました。

とはいえ、別革の仮縫いでも一発で足の形状に合わせられる凄腕の職人は居るのではないか、そもそも、スーツだって初回のオーダーで気に入ったものが誕生するのも稀で回数を重ねる前提なら靴と同じではないか……等々、ビスポークシューズに対する期待(幻想かも知れませんが)は依然残っている状態が正直な感想です。

もちろん、(次回触れますが)完成した九分仕立ての靴はとても素晴らしく、履き心地もグッドイヤーウエルテッド製法の既製靴とは天と地の差がある満足度で、総合的にも価格以上の価値がある物だと考えています。

しかし、人間とはやはり欲深いもので、数ヶ月(または数年)後には「やっぱり比較しなきゃマズイよね」となり、「REGAL TOKYO ビスボークライン体験記」で「ビスポーク最高!」などと書いているかも知れませんが、その際はご容赦ください^^;

 

また、自身の経験から「ビスポークよかった!」、「九分仕立てじゃ満足出来ない!」または「九分仕立てで十分!」という感想をお持ちの方、ぜひコメントをお待ちしております。

 

リンク

 

次回は実際に納品された靴の外観や履き心地、価格の妥当性、既製靴との比較/メリデメなどを考えてみようと思います。

REGAL TOKYO「工房九分仕立て」体験記(後編)

リーガルのビスポークサロン「REGAL TOKYO」の工房九分仕立てオーダー体験記。工房九分仕立てを選んだ理由、オーダーの流れ・ポイントなどを紹介した前回に引き続き、納品された靴の外観や履き心地のレビュー、既製靴との違い等について、考えます。

 

 

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