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シングルカフとダブルカフ、どちらがフォーマル?

投稿日:平成28年(2016) 1月31日  更新日:平成30年(2018) 12月18日 

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先日、カフリンクス(いわゆる「カフスボタン」)の記事を公開したところ「シングルカフとダブルカフのどちらがフォーマルなのか?」という質問を戴きました。

実は、私も前々から不思議に思っていた話なのですが、人によってシングルの方がフォーマルだという人もいますし、ダブルの方だという人も居るのです。そこで今回、テーラーに訊いたり文献を漁ったりと、確認してみました。

また「シングルカフにカフリンクスを使うのは無粋なのでは」というメッセージも戴きましたので、その件についても最後に考えてみたいと思います。

 

1.「シングルカフ」「ダブルカフ」とは?

※ ご存知の方は読み飛ばして下さい

現代のシャツで、ビジネスや冠婚葬祭に用いられているカフの形状は、主に2種類あります。一つがシングルカフで、もう一つがダブルカフです。

シングルカフ

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一番オーソドックスな形がシングルカフです。バレルカフとも言います。袖が一枚で出来ている事から、シングルという名前が付いています(正確には表、ウラ、芯地の3層構造ですが……)。

基本的には縫い付けてあるボタンで開け閉めをします。ただし、ボタンの周囲に穴が有り、カフリンクスを取り付けることが出来る仕様になっている場合もあります。これを、コンバーチブルカフと言います。

 

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こちらがコンバーチブルカフ。ボタン留めも、カフリンクスも両方使える様になっています。

 

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カジュアルなシャツには、ボタン留め専用としてコンバーチブルになっていない物が多いです。

ダブルカフ

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こちらがダブルカフです。ボタンはついておらず、カフリンクス専用のカフです。フレンチカフスとも言います。

 

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この様に、長めの袖を折り返して二重にしてあることから、この名前があります。シングルのカフを手前に折り返して、カフリンクスで留めたのが始まり、と言う説もあります。

カフリンクスを使う事や、袖口が目立つことから、華やかな雰囲気になることが特徴です。

 

2.シングルカフとダブルカフの通説

まず、シングルカフとダブルカフ、どちらがフォーマルかを考える上で、現在巷で言われているそれぞれの通説について、整理したいと思います。

  1. ダブルカフの方が見た目が華やかで、フォーマルに適する
  2. シングルカフの方が流通は多いが、ダブルカフの方が伝統的な意匠であり、盛装にはダブルカフの方が良い
  3. 元々はシングルカフしか無く、ダブルカフは遊びや外しの一種(ダブルカフの由来に、シングルカフを戯れで折り返し、ダブルとしたという説がある)なので正式な場にはそぐわない
  4. 今でも燕尾服ではシングルカフが用いられており、シングルカフの方が格上である
  5. カフリンクスをするのであれば、カフリンクス専用であるダブルカフスにすべき
  6. シングルカフスは元々カフリンクスで留められていたので、シングルカフスにカフリンクスを使うことは問題ない

まだまだありますが、1~2がダブルカフ、3~4がシングルカフがフォーマルであると言う説、5はダブルカフ以外カフリンクスを使うのはおかしいと言う意見で、6はその反論です。

それぞれもっともらしい意見ですが、その真偽の程はどうなのでしょうか。自分なりに調べてみました。

 

3.カフスの歴史

まず、スーツのカフスがどの様な歴史をたどってきたのかを調べてみます。

シングルカフス:昔はのりで堅く固めてカフリンクスで留める形にしたものをシングルカフスといったが、現在ではかつてバレルカフスと呼ばれていた簡便な形の物をこの様に呼ぶ様になっている。

引用:吉村誠一(2010)「シングルカフス」『メンズ・ファッション用語大事典』誠文堂新光社

フレンチカフス:ダブルカフスの別称。堅くのり付けされたシングルカフスにかわり、ソフトなダブルカフスが登場したときに、米国でフレンチカフスと呼ばれたことからの名称。

引用:文化出版局編(2003)「フレンチカフス」『ファッション辞典 第3版』文化出版局

この様に、かつては堅くのり付けされていたシングルカフをカフリンクスで留めていたが、ソフトなダブルカフスが登場し、その後現在の軟らかいシングルカフが登場してきた、と言う事のようです。

テーラーに訊く

続いて、複数のテーラーに訊いてみたところ、いくつかの事が分かりました。

  • 現在のシングルカフと、礼服用の堅いシングルカフとは名前は同じだが別物
  • 現在でも燕尾服には堅いシングルカフを使う
  • かつての堅い袖は、襟と同じく取り外し式だった
  • ダブルカフは当時、堅いシングルカフと対比してソフトカフとも呼ばれていた
  • 見た目的には、いずれのシングルカフよりもダブルカフの方が華美な印象になる

つまりは、歴史はシングルカフの方が古いが、それは堅いシングルカフの話で、現在普及しているシングルカフ(バレルカフ)に比べると、ダブルカフの方が古く、またドレッシーである、と言う事のようです。

 

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いつからダブルカフがフォーマルになったか

披露会、昼餐御茶の招待を受けたる場合(家庭、ホテル、料理店)へ臨む服装 シャツ、カフス:縞にても良く、カフスはソフトダブル

披露会、晩餐会に臨む服装(ホテル、料理店、家庭) シャツ:カフスは硬きシングルの事(中略)ソフトカフスにても可なり

青木仙五郎(1924)『最新洋服概論』名古屋洋服専修学校 ※正字体は適宜通行体に改めた

上記は、大正年間に発行された、服飾学校の書籍から引用しました。大正時代、既に昼食会ではダブルカフスが推奨される様になっています。晩餐会では夜会服を前提として硬いシングルカフが推奨されていますが、それでもダブルカフ(ソフトダブル)も用る事が出来る様になってきた様です。

以上のことから、ダブルカフが、盛装として用いられる様になったのは、それほど新しい話ではなさそう(ダブルカフがフォーマルとして通用してきたのにはある程度の歴史がありそう)ということが分かります。

 

4.答え:フォーマルや盛装にはダブルカフが良さそう

正式かつ華やかに見せたいと言う課題に対しては、ダブルカフがよさそう。と言うのが、今のところの答えです。

やはり、その見た目から、ダブルカフの方が圧倒的に華やかな印象であると、私個人はそう感じます。

紳士服について回る来歴の問題についてもクリアしていると思います。 シングルカフの方が歴史が古く、燕尾服にも硬いシングルカフが使われているという意見もあります。しかし、燕尾服以外の礼服についてはダブルカフもかなり前から用いられてきましたし、しかも今ではこちらの方が一般的です。また、私たちが普段手にするシングルカフは、礼服用の硬いシングルカフとは異なることも重要なポイントでした。

なお、正式ではあるものの、葬儀などあまり目立たせるべきでは無いと言う場合には、華美な印象を控えることが出来るシングルカフを使うと良いのでは無いでしょうか。

***

フォーマルかどうか、盛装かどうかは見る人の主観でかわるものです。私は、歴史的背景や見た目からダブルカフの方が良いと感じましたが、本記事をご覧になった皆さんはどう感じましたか?

もし宜しければ、みなさんの意見をいただけると幸いです。(記事下からコメントを受け付けています。歴史的な経緯をご存知の方や、間違いを指摘頂けるのも大歓迎です)

 

(おまけ)現代のシングルカフにカフリンクスはアリ?

最後に、シングルカフスにカフリンクス(カフスボタン)を使うのはアリか、という問いについて。

シングルカフスにカフリンクスを使ってはいけない決まりがあるわけではありませんし、実際によく見かけます。

一方で、この組み合わせについては、ダブルカフと違い布同士の隙間が空きやすく、若干不格好なことも。また、コンバーチブルの場合は、ボタンがあるのにもかかわらずカフリンクスを使うのは冗長で「ださい」と感じる方がいることも確かです。

従って、純粋に華やかに見せたいのであれば、やはりダブルカフスにカフリンクスが一番でしょう。 もしコンバーチブルカフスにカフリンクスを用いる場合には、ボタンを内側に仕舞うと、見た目が改善されると思いますのでお試し下さい。

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ボタンを内側にしまった状態。

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上の写真がビフォー、下がアフター。

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