スーツ・ジャケットの手入れ

スーツについたテカリをとる方法 テカリの原因と予防も考える

投稿日:平成25年(2013) 3月20日  更新日:平成30年(2018) 12月18日 

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皆さんはスーツや学生服のお尻、ひじや腕がテカテカになっているのを見たことはありますか? 自分では気づかないことが多いので、チェックしてみることをお薦めします。私も先日、久々に明るいところでブラッシングをしたら……ありました。テカリが。

上の写真は少しわかりにくいですがスーツ前腕部の裏側です。私はデスクワークが多く、特にこの部分が多く擦れます。光りの加減ではももう少し光るのですが、生地本来の光沢とは違う、不自然なテカリが見てとれます。

今回は、スーツのテカリの原因と、テカリをとる方法を考えてみたいと思います。

 

 

■ スーツのテカリ原因は圧着と摩擦

以前から摩擦によって生地がテカることは知っていましたが、それが本当なのかも含め、改めて原理を確認してみました。そこで興味深い技術論文がありましたので、まずは少し引用をします。

「一時期筆者もテカり環象につき調査検討を進めた事があった。その調査により、テカリには表面繊維の摩損による永久的と言うか不可逆的なテカリと、その過程に於ける、主として圧着により生ずるテカリ現象のある事を知った。」 田沼(1981)pp.187-188

どうやら、「圧着」と「摩擦」が原因のようです。文字で説明するよりも画像で見た方が早いので、次の写真をご覧下さい。

田沼敏義(1981)「毛織物の着用時における問題点」『繊維学会誌』Vol.37-No
(前掲書より引用)

左が正常な生地の拡大写真で、右がテカってしまった生地の拡大写真です。羊毛のキューティクルに当たる部分が、左ではしっかりと開いているのに対し、右は閉じてしまっているか、あるいは削がれているのが分かります。

表面がざらついている物を磨くと光るように、羊毛の表面が磨かれると光の反射量が多く(=拡散量が少なく)なり、従って生地がテカテカに見えるというわけです。

 

■ まずはブラッシングで生地のテカリをなおす

生地が押しつぶされているならば、ブラッシングすることで改善されないか――。ということで、ブラッシングしてみました。経験上、多少のテカリはこれでなおることがあるのですが……

 

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今回はだめでした。キューティクルが強固に圧着しているか、あるいはキューティクルそのものが無くなっているので、ブラッシングレベルでは改善しないようです。

 

■ スチームをあてて生地のテカリをなおす

羊毛の特性として、湿気を多く吸ったときはキューティクルが開き、湿気を逃がそうとする特性があります。(これを応用し、スチームをあててスーツの臭いを取ったりします。)

キューティクルが開けば、原理上テカリは無くなるのですが……

 

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この様に当て布をして、スチームアイロンを掛けていきます。専用のスチーマーでもOKです。やり方はスーツの臭いとりと同様、少ししっとりするまでかなりのスチームを掛けてから、陰干しをして乾燥させます。

結果は……。スチームでもダメでした。今回のテカリはかなり強敵のようです。

 

■ アンモニアで生地のテカリをなおす

頑固なテカリの場合は、最終的にここへ行き着きます。アンモニアの繊維膨脹作用を利用して、キューティクルを強制的に開きます。

<用意する物>

[局方アンモニア水、水、アイロン、当て布、スプレーボトル(刷毛や脱脂綿でも可)]

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用意したのはこちらの局方アンモニア水。100mlなら300円程度で買えます。

 

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あとは計量カップと塗布用のスプレーボトルを用意します。今回はスプレーボトルが無かったので、脱脂綿とピンセットにしました。

<準備>

アンモニアは強力なので、生地へ塗布する際は必ず希釈して下さい。割合は水100mlに対して、アンモニア7-8ml程度。これで腕なら10本分くらい塗布できます。

<方法>

  1. テカっている分に、希釈したアンモニア水を塗布
  2. 当て布をしてあまり押しつけないようにアイロンを掛ける
  3. ハンガーに吊して陰干し

<結果>

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上が処置前の腕で、下が処置済の腕です。結論から言うと、遠目から見ると分からない程度にテカリが改善されましたが、完全にはとることが出来ませんでした。

今回のテカリは、ブラッシングやスチームだけでは開かない頑固な圧着と、一部は摩擦による(対処不可な)混合のテカリが原因だったようです。

 

 

■ 予防:テカリを発生させないために

田沼(1981)によると、摩擦による(治せない)テカリになる過程で、圧着による(治せる)テカリが発生するとのことですが、圧着の段階で処置することで摩擦によるテカリに進化しないかは不明です。

したがって、現時点では「なるべく生地を擦らない」「テカったらスチームやアンモニア水で処置」という消極的な対策が主になるのですが、「繊維を弱い状態にしない」ということも重要だと思います。

繊維が弱い状態とは、水分を含んだ状態アルカリ性の土埃がついた状態を言います。つまり、家に帰ったら「ブラッシング」をしっかりして、2日間は「休ませる」のが大事と言う事です。

また、生地を選ぶ時点で、起毛の無い生地、強撚糸の生地(皺に強く、さらっとした生地)、細い糸を使った番手の高い生地などは、比較的テカリが発生しやすいです。色も、濃い色の方がテカリが目立つという特徴があるので、生地選びの際に参考にして下さい。(つまり、夏用のさらっとした生地を選ぶときは、薄い色の方が長持ちに繋がります。)

 

 

■ まとめ

  • スーツの生地がテカる原因は「圧着」と「摩擦」によって、羊毛のキューティクルが無くなるから
  • 圧着段階であれば、「ブラッシング」「スチーム」「アンモニア水」などで対処可能
  • 摩擦段階はキューティクルそのものが失われているので対処不可
  • テカリ予防には「生地を擦らない」「生地を弱い状態にしない」「弱い生地を使わない」ことが重要
  • ブラッシングとスーツのローテーションで「生地を弱い状態にしない」ことが可能
  • 夏用のさらっとした生地が比較的テカりやすい
  • 薄い色は比較的テカリが目立ちにくい

 

なお、「メラミンスポンジなどで生地を擦り、繊維に傷をつけて物理的にテカリをなくす」という対処法もあるようですが、圧着されているキューティクルごとこそぎとってしまうので、お薦めしません。

 


根本的な対策としては、やはりスーツを擦らない方法を考える必要があります。

意外と多いのが鞄を肩から掛けたまま歩いている方。スーツの側面がテカるので止めた方が良いです。パソコンを多く使う方も、パームレストを使うなどして、机とスーツが擦れないようにする工夫も良いと思います。

それでは。

 

引用・参考文献:
田沼敏義(1981)「毛織物の着用時における問題点」『繊維学会誌』Vol.37 No.5、pp.182-190、繊維学会刊

 

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